知識だけで、興味があるわけではありません
王都に向けて進軍は今のところ順調に進み、いくつかの領軍が加わって、いよいよゼブライエン辺境伯領軍とは呼べなくなり、代わりに反乱軍と呼べるような形になった。
領軍が加わる度に、貴族なり代表者なりがテレイルとリノファ、ゼブライエン辺境伯に挨拶を行うが、全員がそのまま反乱軍に参加する訳ではない。
留守の間の守護も大切なのだ。
それでも挨拶だけは行わないといけないのが面倒なことだな、と思いつつ、俺の存在は今のところ秘匿なので自由な立場でよかったと思う。
食料などの物資に関しては、辺境都市や合流した領軍の都市から届けられるのもあれば、途中で買い足したりと、不足するということはなさそうだった。
また、進んでいく中で、合流しないところもある。
いい言葉で言えば中立で、様子見というか、勝った方に付くという感じを隠そうとしないところもあった。
ゼブライエン辺境伯曰く、大抵の貴族はそんなモノで期待するだけ損で、邪魔してこないだけ面倒でなくて済む、という感じだそうだ。
まあ、このまま反乱が成功してもしなくても――もちろん成功させるが――その後の要職には就けないのは間違いない。
その代わりという訳ではないが、反乱軍に自発的に加わる騎士や兵士、冒険者は居た。
少しずつ大きくなっていく反乱軍だが、辺境都市から王都までの距離の、大体半分くらいまで進んだ時、野宿の際に同じテントで休んでいたゼブライエン辺境伯にそろそろだと教えられる。
次に向かう領――ガオル・シュライク男爵領。
そこの男爵が事前に連絡を取り、味方となる領の最後で、あとか王都に着くまですべてが敵になるだろう、と。
「ちなみにだが――」
俺の護衛であり、俺が偵察に出ていない時は常に行動を共にしている「新緑の大樹」の一人、リューンさんからの情報によると、ガオル・シュライク男爵は武闘派として有名で、フォーマンス王国の騎士団長より強いと言われているそうだ。
公爵家に居た時は、公爵家と直接関わりがないと情報として与えられないから、正直その辺りのことを教えてもらえるのは助かる。
その人が男爵なら、「男爵? 下級貴族と関わるなど時間の無駄だ」と切り捨てているのは間違いない。
また、シュライク男爵は、もう一人――有名な武闘派の人と合わせて、他国から「フォーマンス王国の双璧」、もしくは「フォーマンス王国の最大戦力」と恐れられている。
「もう一人?」
「もう一人」
リューンさんが指し示したのは、俺の後方。
素直にうしろを見ると、自慢するように自分の筋肉を俺に見せつけているゼブライエン辺境伯が居た。
「もう一人?」
「もう一人」
俺が念押し確認すると、リューンさんはそうだと頷き、ゼブライエン辺境伯がポーズを変えた。
それを見て思ったことを口にする。
「あと少しだけ二の腕の角度を変えれば見栄えが良くなって、下半身の筋肉をもう少し付ければ安定感が増すと思います」
「同志か!」
「いえ、違います」
勝手に同志認定しないで欲しい。
少なくとも、筋骨隆々と言われるほどムキムキになるつもりはない……というか、まだまだ貧弱な体だし、鍛錬は続けているがなれる気がしない。
そういうのにも少しだけ詳しいのは、カーくんから教えられたからである。
だから、ゼブライエン辺境伯。
筋肉の話を夜通し付き合わせようとしないで欲しい。
リューンさん、というか「新緑の大樹」は俺の護衛なのに、どうして守ろうとしてくれないんだ! 今がその時だろう!
ゼブライエン辺境伯と関わる者の誰しもが通る道とか言って逃げるな!
俺はまだ貧弱な体なんだから、掴まれたら逃げられないんだぞ!
――夜通し筋肉について語られた。
――肉体に筋肉は付かなかったが、精神が少しタフになった気がする。
―――
シュライク男爵領に入って問題が起こった。
見晴らしのいい草原を挟んで、味方であったはずのシュライク男爵がシュライク男爵領軍を率いて反乱軍の前に立ち塞がり、戦いを仕掛けてきたのだ。
裏切りである。
「馬鹿な! ガオルが裏切るなどありえない!」
ゼブライエン辺境伯が一番動揺していた。
リューンさんに聞くと、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵は親友と言っていい間柄だそうだ。
「きっと何かしらの理由があるはず! 確かめてきますので、どうか時間をいただきたい!」
テレイルが許可を出して、ゼブライエン辺境伯がシュライク男爵領軍との最前線へ。
開戦の時間が遅かったということもあって直ぐに陽は落ち、さすがに視界不良の中で戦うようなことはなく、双方怪我人は出たが死者は出ないまま、この日の戦いは終わる。
ゼブライエン辺境伯は無事に戻り、しっかりと情報を得ていた。
まずは内密に、ということでテレイルとリノファ、「新緑の大樹」と共に聞く。
「では、教えていただけますか? シュライク男爵に何があったのかを」
「はっ。どうやら、反乱軍の動きを知った国軍が、ガオル――シュライク男爵が治める街『ツァード』を強襲し、その混乱に乗じてシュライク男爵の妻と娘が人質にとられ、こちらに戦いを挑ませているようです」
なるほど。
いやいや、さすがにそれは許せません。




