心当たり……あります
できた! ――という報告を受けて、俺、ジルフリートさん、ラフト、ビネスが一堂に会する。
場所は、王城内にある一室。
そこで石化解除の方法を模索しており、報告を挙げられたので集まった訳だ。
ちなみに、ブッくんとホーちゃんは居ない。
今二人は毎日デートを楽しんでいるので、それの邪魔をしてはいけなのである。
それに、どうせ今だけというか、カーくんの下で鍛錬なり修行なりが始まれば、そのような機会は減りに減るだろう。
それがわかっているからこそ、俺は何も言わずにお金を出すのだ。
……ただの財布ではない、はず。
ブッくんが日に日にやつれていって、ホーちゃんがその分ツヤツヤしていっているのだが………………うん。気にしないでおこう。
二人の愛がいつか実を結ぶだろう……ドラゴンって卵生だっけ?
いやいや、気にしない。
今は石化解除の方だ。
そうして集まった俺たちの前には、ローブ姿の男性が一人。
国一番の錬金術師だそうだ。
「それで、できたのだな?」
「はい! 陛下! できました!」
「おおっ、できたか!」
「はい! 非常に強力な回復薬が!」
『………………』
錬金術師の鼻息が荒いが、俺たちは首を傾げた。
ジルフリートさんが口を開く。
「どういうことだ?」
「ですから、非常に強力な回復薬ができたのです! いや、あのバジリスク・特殊個体の素材はすさまじい力を秘めていました! さすがに完全回復薬とまではいきませんが、出来上がったのは上級回復薬の中でも上の方です! いや、これは他の素材の組み合わせ次第で完全回復薬に準ずるだけの回復量を得ることも可能ではないかと!」
『………………』
誰も口を開けない。
黙して唸るだけ。
わかっているのだ。
ここで口を開けた者は、ある意味で最後まで聞かなくてはいけなくなるかもしれないということを。
俺は元々この国の者ではないので論外。
ラフトとビネスは、ああ~、なんか肩が凝ったなあ~……みたいな仕草をしつつ、ジルフリートさんをチラリ。
人は、他人の目を見ている時、その目が動いた方に視線を向けてしまうモノ。
俺もジルフリートさんを見る。
ジルフリートさんは、お前らこういう時だけ協力的だな! とラフトとビネスを見て、息を吐く。
ご苦労さまです。
「……一つ聞くが、それは石化を解除できるモノなのか?」
「いえ、できませんが。しかし、この回復量はですね――」
はい。解散。
確かにすごい回復薬になるかもしれないが、今欲しいのは石化解除である。
―――
――数日後。
できた! ――と報告を受ける。
前回のことから怪しさというか疑わしさ満点だが、今度は薬師の方から。
期待が持てる。
前回と同じ部屋に、同じ面子が揃う。
薬師は、全身真っ白な衣服で清潔感があった。
「それで、遂にできたのだな?」
ジルフリートさんが確認するように問うと、薬師は力強く頷く。
「はい! できました! 非常に強力な精力剤が! あの蛇の素材は相当な滋養強壮効果があるのです!」
『………………』
ほ~らな。
頭を抱えつつ、ジルフリートさんが再度問う。
「……石化解除の方はどうした?」
「できていませんが?」
それが何か? みたいな顔をするな。
期待を持ったのが間違いだった。
はい。解散。
「え? あれ? いえいえ、待ってください! まだ話は終わっていないのです!」
薬師がとめようとしてくるが、こちらは全員帰る気満々だ。
そんな俺たちを引き留めようと、薬師が声を張り上げる。
「これだけ強い滋養強壮効果であれば、毛生え薬として転用しても多大な効果があるのです」
俺以外の三人が聞く姿勢に戻っていた。
「詳しく聞こう」
「どれほどの効果となる?」
「そこまで言うということは、それだけしっかりとした効果があるのよね?」
しかも、ものすごく食い付いている。
口にした薬師の方が驚いているくらいだ。
「……え? そこまで?」
思わずそう口にしてしまったが、三人の目と雰囲気は本物だ。
「そのような態度を表でしては駄目だよ。貴族の中には生えるならいくらでも金を出す、という者も居るからね。王家に任せば、きちんと取り扱うと約束しよう」
「貴族だけではない。冒険者でも、だ。……で、しっかりとした効果があるのなら、冒険者ギルド・総本部が買い取ろう。なんなら、素材も優遇させてもいい」
「気にしているのは商人も、よ。それに、こういうモノこそ、商人に任せるべきではないかしら? 商業ギルド・総本部に卸せば儲けさせてあげるわよ」
薬師そっちのけで、三人が視線だけで牽制し合う。
ウチが取り扱う、と誰も譲らない。
本来は中立であるジルフリートさんも争っているのが、それだけのことであると理解させられる……が、そもそもバジリスク・特殊個体はすべて売却が決まっている。
俺からすればその価値が上がって金額が増えることになるだけなので……まあ、いいか、とこの場をあとにした。
―――
さらに数日後。
ご報告があります! ――と再び呼び出される。
今度は、錬金術師と薬師の両名から。
もう期待はしない。
こんなに時間がかかるのなら、先にカーくんに話を通しにいけば良かったと思わなくもない。
そうして集まると、初見の人が居た。
白いローブに杖を持つ男性。
回復魔法使いだそうだが……明らかに疲れている表情を浮かべている。
なんとなくだが真面目そうに見えるので、錬金術師と薬師の間に立って、二人が無茶したあとの尻拭いというか片付けに追われていそうだ。
バジリスク・特殊個体の素材に滋養強壮効果があるのなら、回復魔法使いに使って欲しいと思った。
「それで、報告とは?」
ジルフリートさんがそう口を開くと、錬金術師と薬師が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
おい……まさか……。
「申し訳ございません。陛下。やれるだけのことはやったのですが……」
「石化解除できないのか!」
錬金術師の言葉に、ジルフリートさんが少しだけ声を荒げる。
それで錬金術師と薬師が俯く。
もう少し詳しい説明が欲しい、とこちら側が思った時、回復魔法使いが口を開く。
「違うのです、陛下。彼らは実際よくやっております。石化解除の薬も見通しはたっている……たっているのですが」
「歯切れが悪いな。構わず言ってくれ。でなければ判断できない」
「はい。陛下。石化解除の薬は製作可能です。ですが、その効果があるのは、騎士団の副団長やSランク冒険者の一部や半身であればこそ。完全に石化している三人の方は……おそらく効果がないかと」
「……そうか」
悲痛な雰囲気が流れる。
それもそうだろう。
そのために頑張ったのだから。
どうしたものか。他に何か手段はないだろうか。と考え始めようとした時、回復魔法使いが口を開く。
「あっ、その、言葉足らずで申し訳ありません。正確には、完全に石化を解除するには足りないモノがあるのです」
「足りないモノだと? それはなんだ?」
「聖属性の力です。ただ、これはそこらの、という言い方も変ですが、並の聖属性ではどれだけ集めようと足りません。必要なのは量ではなく質。少なくとも『聖者』、『聖女』スキル持ちのような強力な力でなければいけません」
「そうか。しかし、そこまでとなると……当てがない訳ではないが……」
ジルフリートさんが難しい顔を浮かべる。
何か嫌な選択でもしそうな雰囲気だ。
「ジルフリート。この場合は仕方ないのではないか? 借りを作ってしまうのは仕方ないと割り切るしかない。不本意な要求が出されたなら、冒険者ギルド・総本部は協力しよう」
「勝手に話を進めないで。ビライブお兄さまも関わっているのよ。商業ギルド・総本部も協力させるわ。癪だけど、私たちが協力し合えば、果たせない要求はないわよ」
三人はこれなら――と何やら相談を始めていたが、俺は別のことを考えていた。
強力な聖属性持ちか。
一人、聖女に心当たりがあるな。
ついでという訳ではないが、ブッくんとホーちゃんのことも話に行けるな、と思った。




