何かしらの縁はできていると思う
61階まで一気に戻る。
さっさと出たいという思いもあるが、戻れば戻るほど各所に配置していた人たちが加わって戦力は増していくので、より安全に戻ることができた。
まあ、ブッくんとホーちゃんの二人が居るだけで、61階以降も過剰戦力と言えば過剰戦力ではあるのだが。
バジリスク・特殊個体が異常で異質なのだ。
61階まで戻ると、そのまま魔法陣で1階へ。
一応、衆目に晒していいモノではないので、石化している「王雷」と半身近くが石化している副団長は選別メンバーが持ってきていた布で覆い隠し、手が槍と一体化するように石化している槍持ち男性はその部分だけを隠して、双剣持ち勧誘は裸足のままだが放っておく。
ラフトの武器は……まあ、当人は気にしていなさそうなので、いいか。
1階に戻ると歓声に包まれて囲まれそうになる。
これは歴代最高到達階数を抜くという、歴史を超える偉業だったのだ――建前上。
こちらから大半の者が対応に向かう。
その間に、俺とブッくんとホーちゃん、ラフトとビネス、Sランク三人、石化している「王雷」を抱えるAランクパーティ二つ、半身近くが石化している副団長と騎士たちだけは、この場を抜け出して王都・ガレットに戻り、そこでも住民から囲まれそうになったので、今度は無事な騎士たちが対応にあたって、残る者たちで王城にはい――。
「帰ってきたな。他の者たちは通っていい……しかし、お前だけは駄目だ。さあ、我が終生のライバルよ。決着の時が来た!」
ろうとして、以前にもとめられた後輩門番にとめられた。
ブッくんとホーちゃん以外はさっさと王城の中に入っていく。
ラフトとビネスから、ジルフリートさんへの説明は自分たちの方でしておくから、これについてはきちんと責任をもって片付けろ、と言われる。
いや、責任とか言われても困るんだが。
だって、これで三回目である。
この後輩門番、学習しないのだろうか。
しないんだろうな……何故なら、先輩門番が居てもしてくるのだから。
「お前は! また!」
先輩門番が飛び蹴りをかまし、後輩門番は倒れる。
さらに、先輩門番は倒れた後輩門番の両足の間に右足を入れて、後輩門番の両足を膝でクロスさせて反転させて腰を落とす。
かなりガッチリ極まっているようで――。
「く、くうう! 邪魔しないでください! 先輩!」
「邪魔だと……なんの邪魔だというのだ?」
「た、確かに、始まりは勘違いだったかもしれません」
いや、確実に勘違いだったが。
「ですが、それでできてしまった奇妙な縁――因縁は本物なのです!」
そんな本物と言えるような縁ができているのは初耳で、寧ろ一方的に絡まれているだけなんだが?
「だから、この因縁に終止符を打たないと、俺は先に進めないんです! 門番から騎士に!」
俺を手柄か何かだと思っている?
いや、手柄にはならないと思う。
この国の王であるジルフリートさんと友達……は違う気がするけど、少なくとも顔見知りなのは間違いない。
王家に所属してくれとジルフリートさんからお願いされた関係でもある。
別に何か問題を起こした訳でもないし、やはり手柄にはならないと思う。
そう思っていると、先輩門番が確認するように俺を見てきたので、そんなモノはないと首を横に振っておく。
先輩門番によるお仕置きがさらに強くなったのは言うまでもない。
「アルムには面白い知り合いが居るな」
一緒に待っていてくれたブッくんが、後輩門番をそう評する。
いや、知り合いでは……まあ、どういう関係かと問われると、それで正しい気がしないでもない。
とりあえず、もう少しきつめにお願いします、と先輩門番にお願いして、ブッくんとホーちゃんを伴って王城の中へと向かう。
―――
「無事に戻ってくれて嬉しいよ。ラフトとビネスから大概のことは聞いた。死者もなく、治癒できる範囲での負傷で済んだのは奇跡だな。今回のこと――特にバジリスク・特殊個体との戦闘においてアルムと、そちらの二人が大きく貢献したのも聞いている。ありがとう。本当に、ありがとう」
王城に入ると、ジルフリートさんが出迎えてくれて、そう口にした。
俺だけではなく、ブッくんとホーちゃんにも、同じように感謝の言葉を伝えてくる。
それが心からの言葉であるとわかったのか、ブッくんとホーちゃんは少し気恥ずかしそうだ。
こういうのに慣れていないのだろう。
まあ、だからといって俺も慣れている訳ではないのだが、それでも気恥ずかしそうにならないのは、まだ終わっていないからだろう。
「感謝は早いんじゃないか? いや、俺も行った全員で戻ることができたのは嬉しい。けれど、まだ『王雷』をダンジョンから持ち運んだだけだ。石化が解けた訳じゃない」
「……そうだな。今、国一番の薬師や錬金術師、回復魔法使いなどが集まって、石化している『王雷』を見てもらっている。それで、何やらアルムが石化解除に必要になるかもしれない――バジリスク・特殊個体の死体を持っている、と聞いたが?」
「ああ、役立ててくれ」
充分な広さが必要なので、ジルフリートさんの案内で王城の敷地内にある兵や騎士の訓練場に向かう。
そこにラフトとビネスだけではなく、Sランク三人にAランクパーティ二つ、他にも多くの人が集まっていた。
そんな中で、マジックバッグからバジリスク・特殊個体の死体を取り出す。
『………………』
ジルフリートさんだけではなく、この場に集まった人たちの中で初見だった人たちは言葉を失った。
予想以上の大きさだったからだろう。
迫力もあるし。
とりあえず、バジリスク・特殊個体との戦闘に参加した全員で、俺たちがやりました! みたいなポーズを取ってみた。
あとのこと――石化解除は任せよう。




