帰るまでがダンジョンです
バジリスク・特殊個体を倒した。
ただ、多くの者がそれなりに疲労困憊であるため、直ぐに動くのは危険を高めるだけだと判断して、一旦というか少し休むことにする。
逸る気持ちもわからないでもないが、これで終わった訳ではない。
無事に外まで戻るまでがダンジョンである。
ほぼ半身が石化している副団長も――。
「私のことは気にしなくて構いません。まずは全員で無事に戻ることを考えて行動しましょう」
と優しい笑みを浮かべて言った。
こういうところだぞ! 冒険者ギルド・総本部に、商業ギルド・総本部!
今は誰もが休息を取っているのだが、先ほどまで騎士たち以外は直ぐ動こうとしていたのだ。
特にラフトとビネス。
石化している「王雷」を連れて帰るための最大の障害がなくなったと嬉しいのはわかるが、周りの状況を無視して行こうとするな。
「王雷」が石化から回復したら、その辺りのことを伝えようか? とやんわり言うと大人しくなった。
ラフトは妹のクララに、ビネスは兄のビライブに、頭が上がらないのかもしれない。
それくらい大人しくなった。
もう少し、組織の一番上である、ということを心掛けて行動してもらいたい。
……まあ、そういうのを忘れるくらい嬉しいことなのだ。
休息に関しては、幸いと言っていいのか、バジリスク・特殊個体の巨体がこの部屋の出入り口を封じているので、外から魔物が入ってくることはないので、安心して休める。
そうして休んでいる最中、ラフトは妹のクララに、ビネスは兄のビライブに、それぞれ声をかけていた。
石化中だし、聞こえていないと思うのだが、もしかしたら思いは伝わっているかもしれない。
……同じく石化中の「王雷」のリーダーであるニーグがポツンとしているので、少し寂しそうではあるが。
直接関わりのあるラフトのビネスがクララとビライブにかかりきりで、それ以外は居ないからな。
まあ、水のリタさんの記憶を持つ俺がギリギリ該当しそうではあるが、今はブッくんとホーちゃんから、外側から見たバジリスク・特殊個体討伐の光景を聞くのに忙しい。
俺が自らバジリスク・特殊個体の体内に突入しても、バジリスク・特殊個体はまだ眼の痛みで暴れていたそうだ。
……まあ、あの巨体からすれば人一人くらいはなんともない大きさというのもあるんだろうが、眼の方の異物は取れない時は本当に取れないというか、取れたとしても異物感は残るというか、気になり続けるから困りモノだ。
バジリスク・特殊個体も、きっとそうだったのだろう。
それでそれほど時間が経たずに、バジリスク・特殊個体の喉元辺りが一気に膨れ上がって、そこから輝く火を纏う風の刃が次々と飛び出てきた。
その様子から俺が何かしていると察知して、皆は余計な手出しをせずに距離を取ったそうだ。
なので、俺の魔法で皆に何かあった――というのはなかった。
ホッと安堵。
しかし、喉元辺りか……もっと奥の方に入り込んでいた感じだったのだが、そこら辺は体感か。
それに、確か蛇は獲物を飲み込むのがゆっくりだったはずだから、そういうのも関わっているのかもしれない。
続きを聞く。
それで輝く火を纏う風の刃がバジリスク・特殊個体の喉元付近の全方位をズタズタにし、黒い靄も斬り捨てていたところで、今度は輝く火を纏う風の刃が一方向に飛び出し始め、それがぐるっと回って喉元を両断して、頭部と胴部を斬り離したそうだ。
驚きなのは、それでも生きていたらしい。
頭部と胴部に漂う黒い靄がうねうねと動き出して、くっ付こうとしたそうだが、それぞれの断面に残っていた輝く火が一気に燃え上がって、くっ付くのを阻害――するどころか、逆に黒い靄に燃え移り、そのまま燃やし尽くしていき、黒い靄は途中まで燃やされたあと、力尽きるように霧散していったそうだ。
三属性合成の魔法は想定していた以上の威力だったようだが……失敗しなくて良かったという思いの方が強い。
それで、一応というか、バジリスク・特殊個体の頭部がピクピク動いていたので、念のためにという意味を込めて、ブッくんとホーちゃんが飛び蹴りを食らわせてとどめを刺した、と。
………………。
………………。
うん。持っていかれているな、締めを。
まあ、いいんだけどな。それでも。
大事なのは、バジリスク・特殊個体を倒した、ということだ。
そうして、しっかりと休息を取ってから動く。
半身近くが石化している副団長は、騎士たちが担いでくれるので問題ない。
先頭に立つのは、俺、ブッくんとホーちゃん、ラフトとビネス。
その視線の先にあるのは、この部屋の出入り口を塞いでいるバジリスク・特殊個体の巨体。
先ほどまで外からの魔物の侵入を防いでいてくれたが、今はその逆というか、俺たちをここから出さないようにしている壁のように見えた。
「さっ、どかすか」
皆で力を合わせればいけるだろ。
もしくは、ブッくんかホーちゃんであれば単独で動かせる気がする。
「……一部は持って帰ろう。バジリスク・特殊個体による石化だ。石化解除に素材が必要になるかもしれない」
「そうね」
ラフトとビネスがバジリスク・特殊個体の素材――血、肉、鱗といったモノを剝ぎ取るために動く。
特に頭部――石化眼は必要かもしれない。
「これだけ大きければ飽きるまで食えるな」
「でも、さすがにこんな大きなのを持ち運ぶのは、この身では無理よ」
ブッくんとホーちゃんの会話が聞こえ――ぽん、と手を打つ。
物は試し――とバジリスク・特殊個体の胴体をマジックバッグに入れてみ――入った。
一部とかではなく全部。
誰もが言葉を失う。
……そういえば、見た目以上の容量っていう説明があっただけで、どこまで、というのはなかったな。
さすがはラビンさんの用意したモノ。
「……まあ、必要かもしれないのなら持って帰れるんだし、いっか」
そういうことで落ち着いた。
剥ぎ取りというか解体は王都・ガレットに戻ってから。
一部爆散しているが頭部も回収。
そこで気付いたというか、石化している「王雷」もマジックバッグに――いや、それはいいか。
――マジックバッグに生物は入らない。
きっと入らないし、何より絶対に守らなければいけないという思いで、これからの帰路も気を引き締めることができる。
忘れ物はないか皆で確認してから、この部屋を出て来た道を戻っていく。




