持っていかれた感がある
別に、これが初めてという訳ではない。
以前にもあった。
確か……そう、冒険者の国・トゥーラの王都にあるアブさんのダンジョンで……地下四……いや、五……えっと、鉱山地帯、砂漠、海、空で、地下八階がアブさんの居た最下層だから……逆算して地下四階。うん。合っている。
そこで、冒険者パーティ「煌々明媚」のジーナさんを庇って、代わりに巨大ロックワームに丸呑みされたのが、前回の経験。
今、それと似たような状況だった。
バジリスク・特殊個体に飲み込まれ続けているのだ。
といっても、これは故意に、である。
現在、バジリスク・特殊個体を仕留めるのは難しい。
その理由は黒い靄。
黒い靄がこちらの攻撃の威力をすべて軽減させていて、決め手に欠ける状況になっている。
そこで思ったのだ。
黒い靄が漂っているのは、バジリスク・特殊個体の表面だけ。
なら、内部から攻撃をすれば? と。
だから、突っ込む形でわざと飲み込まれたのだ。
賭けのようなモノだったが、俺はその賭けに勝った。
さすがに、と言うべきか、内部にまでは黒い靄はないようである。
飲み込まれながら冷静に判断できるのは、以前の似たような経験があるからだろう。
そんな経験があるからこそ、体の内側からかな? と思い付いたし、それほど躊躇わずに決行できたのかもしれない。
あとは内部から攻撃を行うだけだが……未だにバジリスク・特殊個体は暴れているようで振動が伝わってくる。
これから魔法を放つ訳だし、もう少し落ち着いてもらえないだろうか?
……自分で暴れさせておきながら、今度は落ち着けというのは、さすがに傲慢だろうか?
……まあ、いいか。
とりあえず、時間が経つとバジリスク・特殊個体が復活するだろうし、決着を着けられるのなら早々に着けよう。
それに、このままだと胃に直行するし、そもそも以前に経験があるとはいえ、やはり飲み込まれ続けるのは精神衛生上良くない。
内部の感触が気持ち悪いというのもある。
不快感をできるだけ抱かないように意識を魔法に集中させていく。
魔力を練り上げる。
しっかりと回復させたし、まだまだ余力は充分。
その余力もすべて使うつもりだが。
念には念を。
ここで確実に倒すために。
これからやるのは初めての試み。
二属性の合成魔法は、黒い靄が漂う前の素の状態で防がれた……いや、耐えられた、か。
だから、それ以上の合成――三属性を合成する。
一応、ラビンさんの本にそのやり方は載っていたが、上手くいくかどうかは俺の魔力操作による制御次第。
だからこそ、選ぶのは習熟率の高い――受け継いだ順で火、光、風の三属性だ。
「『赤熱白輝緑吹』」
ごっそりと魔力が俺の体の中から抜けていく。
まるで暴れ馬のような、と言うべきか、少しでも魔力操作の手綱を緩めると、途端に暴発してしまいそうだ。
他のことは考えていられない。
魔法だけに集中する。
「『灼熱が作られ 呪縛を断ち切り 振るわれるが目に見えず』」
暴走では駄目なのだ。
きちんと、思い描いた通りの、しっかりとした魔法でなければならない。
暴走では、三属性が重なり混ざって膨れ上がったモノではなく、単発で放つのとそう大差ないモノになってしまう。
それに、ここに――バジリスク・特殊個体と戦っているのは俺だけではない。
皆に魔法が届かないよう、きちんと範囲も定める必要がある。
範囲外に魔法が及ばないように、自分の体を抱くようにして魔法を抑え込み、混ぜ合わせていく。
「『猛火が漂い 戒めを解き放つ あらゆるモノを断ずる』」
魔力操作が手から離れそう。
魔力制御が焼き切れそう。
体もどことなく痛みを訴え出してきた。
走る痛みで魔力操作と魔力制御に緩みが出そうになるが、ガッチリと噛み締めて耐える。
「『焼き斬る一筋の光 眩く白き輝刃 鋭き一閃』」
耐えて、耐えて……風刃に火属性と光属性の魔力を練り込むように混ぜ込んで凝縮していき――限界、というところで解き放つ。
「『熱輝嵐』」
輝く火を纏った風の刃が、バジリスク・特殊個体の体内を焼き切り裂いていく。
それは一枚や一方向ではない。
嵐の名を冠する魔法であると証明するように、俺を中心にした全方位に数十、数百と輝く火を纏った風の刃が増えていく。
振動はさらに大きくなり、バジリスク・特殊個体がさらに強く暴れ出したのを感じる。
だが、とめない。
ズタズタになっていくバジリスク・特殊個体の体内。
ほどなくして、輝く火を纏った風の刃は体外へと出始めたことを示すように、切り傷から外の光が舞い込んでくる。
あとは締めだ。
「『斬撃』」
輝く火を纏った風の刃を定めた方向だけに噴出させ、そのまま体を回転した。
ズバッ! とバジリスク・特殊個体の体内が両断されるのと同時に魔法が消える。
……ずるり、とバジリスク・特殊個体の斬った先がずれ落ちていく――と思えば俺が居る方にも落下感があって、ほどなくして大きなモノが床に落ちた音と振動を感じたあと、バジリスク・特殊個体の体は一切動かなくなった。
斬った先から這い出る。
最初に目に飛び込んできたのは、ピクピクと動いているバジリスク・特殊個体の頭部。
俺が切り落とした部分――。
「「はあああああっ! 愛する二人の竜蹴り」!」
ブッくんとホーちゃんが互いの背から左右の足を重ねて、上から飛来。
バジリスク・特殊個体の頭部に飛び蹴りを食らわせ、その威力と衝撃で頭部の一部が爆散し、それでバジリスク・特殊個体の頭部はまったく動かなくなり、絶命した。
合わせるように、巨体部も動かなくなる。
………………。
………………。
あれ? なんか締めをもっていかれた感がある!




