告知なしにしては危険です
………………なんか石化しなかった。
横っ腹は痛いし、肘はまだ少しばかり痺れているが、それだけ。
石化している部分は一切ない。
……何故? と首を傾げる。
あれ? とバジリスク・特殊個体も――いや、他の皆も同じく首を傾げていた。
まさか、と竜杖の竜を見るが……違う、と言っている気がしないでもない。
――キンッ! とまた音が鳴った。
音のした方に視線を向ければ、バジリスク・特殊個体の怪しく光る眼とバッチリ目が合う。
あっ、どうも、こんにちは。
いや、違う。
マズい! 石化――キンッ! と再び音が鳴って、俺は石化していない。
「………………」
「………………」
あれ? もしかして、だけど……キンッ! という音ってバジリスク・特殊個体の石化眼を弾いている感じ?
つまり、俺には……石化眼が効かないってこと?
……なんで?
そうであったとしても、理由がわからない。
というか、そうであったとして……バジリスク・特殊個体の眼がガッチリ俺を捉えているというか、「お前に狙いを定めた」という感じだ。
……俺の危険度、上がってない?
再度、キンッ! と音が鳴る。
バジリスク・特殊個体が怒りの表情を浮かべて石化眼で俺を見続けるが、やはり通じず、地団駄を踏むようにその巨体を揺らすが、結果は変わらない。
ラフトたちが絶好の機会だと攻撃を開始するが、黒い靄に防がれて、バジリスク・特殊個体の巨体には届かなかった。
これまでであれば、バジリスク・特殊個体の狙いはそれで他所に向くのだが、今は完全に「俺に狙いを定めた」状態で見向きもしない。
どちらも攻撃を通せないという不思議な状況になった。
どうしてこんなことに……と思っていると、ブッくんとホーちゃんがこちらに駆けてくるのが見える。
ブッくん……無事だったようだ。
見た目にダメージを受けた様子はないので、さすがはドラゴンと言う他ない。
二人はそのまま俺の下に来て――俺を盾にするようにして背後に隠れる。
……それはさすがに酷くないか?
「おい、俺を盾にするな」
「そう言うな。石化眼を防げるのだから、ここが安全なんだ」
「さすがね、それ」
ホーちゃんが指し示すのは、ドラゴンローブ。
「え? ドラゴンローブが防いでいるのか?」
「それ以外に何があるの? 私もブッくんも、それにその杖の竜も、まだあの蛇の石化眼に対抗できないわ」
ホーちゃんが呆れた目を俺に向ける。
なんか、すみません。と謝りたくなった。
ただ、当事者ではなく鱗だけなのに……カーくんの鱗、それとその鱗を使っているドラゴンローブ、すごいとしか言えない。
今度……いや、これから洗濯する時は、優しく丁寧に痛まないようにして、長く着られるようにしよう。
あと縮まないようにと、洗濯皺も付かないように気を付けないといけない……いや、それを考えるのはあとだ。
今度、母さんに相談を……すると、あの使用素材が謎の洗剤を使われる可能性があるな。
それでも大丈夫だと思うが、やはり自分の方で……いや、そうではなく、今は――。
「ブッくんとホーちゃんは防げないのか?」
「無理だ……いや、無理になった、と言うべきか。あの黒い靄が出始めてから、あの蛇の力が一気に高まった。竜に戻っても石化する速度を遅らせる程度にしかならない」
「黒い靄か……」
水のリタさんの記憶の中にある、バジリスク・特殊個体の姿。
「王雷」のリーダー、ニーグの雷属性ですら勝てなかった。
「……ブッくんとホーちゃんなら、あの黒い靄を越えて攻撃できるか?」
「難しいな。中途半端な攻撃では通用しないのは確かだ」
「……そんなに強くなっているのか。なら、このまま決定打に欠けて勝つのは難しいか?」
「難しいが、勝敗はまだ決まっていない。やれることはまだあるはずだ。この姿にも漸く慣れてきたしな。それに、初めからこの姿で助かった。竜のままならいい的でしかない」
ブッくんが、助かった、と息を吐く。
確かに、竜にも通じる石化眼であるのなら、竜の巨体は的にしかならない。
「それにしても、あの黒い靄は何かしら? あの蛇の元々の力というよりは、後付けの力っぽいし、嫌な感じしかしないわ……」
ホーちゃんが疑問を口にするが、俺とブッくんはその答えを持っていない。
気にはなるが、バジリスク・特殊個体が答えるとは思えないし、この場に居る誰も答えられないだろうから、それは後というか倒すことに集中する。
ホーちゃんもそれをわかっているので、それ以上のことは口にしない。
とりあえず、アレだ。
俺もできることをしていこう。
きっと、その先に勝利があるはずだ。
だから、まずは……魔力も回復したことだし。
「『白輝 断絶し 闇を閉ざす 不可侵の輝き 光檻』」
バジリスク・特殊個体を内部に閉じ込めるようにして、室内すべてを照らすように強い光でピカッと展開。
魔力をそれなりに込めたので、かなりの光量である。
それこそ、視界を白く塗り潰すほどの。
石化眼で一部が石化するが、瞬間的にとはいえそれだけの光を直視したのだ。
「シュロロロロロッ!」
光の檻の内部で、バジリスク・特殊個体が暴れ、その動きで光の檻は砕け散って消えた。
まあ、急に眩い光を見たのだ。暴れるのもわかる。
きっと今は視界が白く染まり、「眼が! 眼がぁ!」と思っているに違いない。
そういう暴れ方だ。
俺も経験した身なので気持ちがわかる。
ただ、予想に反してというか、突然やったので――。
『うぅ……目がぁ……』
自分で発したので俺は目を閉じて、ブッくんとホーちゃんは俺を盾にしていたので平気だったが、それ以外の皆は目を押さえて呻くことになった。
なんか……ごめん。
けれど、なんだろうな。
こう……石化眼を気にしなくてよくなったからか、調子が上がってきたというか、思考がすっきりしてきたというか、いつも通りになってきた気がする。
今は思い付いていないが、黒い靄もどうにかできそうな気がするし……うん。なんか勝てそうな気がしてきた。




