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賢者巡礼  作者: ナハァト
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ピンポイントで走る痛みはつらい

 バジリスク・特殊個体の戦闘は、危なげなく進んでいる。

 つまり、見た感じで言えば、こちらが優勢――。


「へぶっ!」


 ではないかもしれない。

 双剣持ち勧誘が、バジリスク・特殊個体の尾部分にぺしんと叩かれ、ぽーん! と飛んで行った。

 いいぞ! バジリスク・特殊個体! と思わず叫んで親指を立てたくなった。

 しかし、そこはSランク。

 まず、叩かれると同時に双剣を突き刺していた。

 その上で、叩こうとしていた尾部分の動きに合わせて自ら後方に跳んでおり、叩かれる威力を抑えている。

 双剣持ち勧誘は空中でくるっと一回転して華麗に着地。


「あはっ! やるね! この(スネーク)!」


 ニヤッと笑い、駆け出す。


「余計な手間をかけさせるな!」


 槍持ち男性が、槍を器用に振るってバジリスク・特殊個体の尾部分に突き刺さっている双剣を抜き取り、そのまま弾き飛ばす。


「手間じゃなくて、見せ場を作ってあげたんだYO!」


 飛んだ先で勧誘が受け取り、双剣持ち勧誘に戻って戦線復帰。

 この一連の流れが妙に様になっていて、イラっとした。

 バジリスク・特殊個体との戦いは続いている。

 確かに、こちらの方がどことなく優勢に進んでいるように見えるが、バジリスク・特殊個体にダメージを与えられているかは見た限りではわからない。

 その代わりという訳ではないが、こちらもそこまで優勢という訳ではなかった。

 何しろ、視線を避け続ける動きを続けないといけないのだ。

 その動きは中途半端では捉えられるため、全力に近い行動速度が必要である。

 ――長時間は不可能だ。

 Sランクの魔法使いの魔法の壁で多少なりとも休憩は取れるが、その後の動きは休憩した分以上の消耗だろう。

 バジリスク・特殊個体との戦いは短期決戦が望ましいが、相手が相手だけに難しい。

 どうしても戦いは長引いてしまい、疲れが見え始めた者から目に見えた被害を受けていく。

 最初に受けたのは、双剣持ち勧誘。

 視線回避の速度が疲れで若干遅れた瞬間、足部が石化眼に捉えられてしまう。

 幸いと言っていいのか、見られた部分が靴だけで、直ぐに脱いだために体の方には届いていなかった。

 代わりの靴なんてない。

 バランスが悪いと、双剣持ち勧誘は今裸足で戦っている。

 次いで、槍持ち男性。

 右手元部分が槍と一体化するように石化してしまった。

 それでも不都合は一切ないと言わんばかりに戦っている。

 ラフトは、巨大な槌を隠し切ることが難しく、一部は石化して砕けてなくなっている。

 まだ大半は残っているので槌としての形は保っているが、いつ全体がなくなってもおかしくない。

 無事なのは、ブッくんとホーちゃんの二人だけ。

 この二人はまあ、さすがはドラゴン、としか言いようがない。

 人の姿を取っていても強い。

 多分、Sランクの槍持ち男性と双剣持ち勧誘よりも。

 ただ、それでもバジリスク・特殊個体を倒せていないのは――おそらくだが、本調子ではないからだ。

 人の姿となるのが久々と言っていたし、まだ慣れが必要なのもしれない。

 後衛とさらに後方の面々の方はまだ平気である。

 どうやら、バジリスク・特殊個体は何度も直接攻撃を受けたことで、前衛の方から先に潰したいようだ。

 だが、そうはさせない。

 そろそろ俺の魔力が回復しそうだ――と思ったところで、気付く。

 まるで水のリタさんが警告するように、記憶の一部が頭の中に展開して――わかった。

 過去と今――バジリスク・特殊個体の違いが。

 それを警告として口に出す前に、事態は動く。


「――ふっ!」


 短い呼吸と共に、ブッくんが前に出た。

 これまでで一番素早い動きだったのは、人の体に慣れてきた証拠だろう。

 バジリスク・特殊個体に一気に肉薄する。

 けれど、バジリスク・特殊個体はその動きに気付いており、タイミングを合わせて尾を振るっていた。

 ブッくんは飛び上がってかわす――といったところで、バジリスク・特殊個体が視線を向けようとする。

 空中では避けられまい、と。

 ブッくん一人であれば、石化させられていたかもしれない。

 しかし、ブッくんには頼れる恋人が居るのだ。


「私を前にして余所見とはね! お馬鹿さん!」


 バジリスク・特殊個体の巨体の下で、ホーちゃんが蹴りを放つ。

 その威力は、蹴り上げたバジリスク・特殊個体の巨体を天井まで届かせるモノであった。

 バジリスク・特殊個体の表情が痛みを訴えるモノに変わり、視線がブッくんから強制的に逸らされる。


「はあああああっ!」


 そこに、拳を固く握ったブッくんが迫り、殴り――。


「駄目だ! ブッくん! 離れろ!」


 声をかけるがもう遅い。

 バジリスク・特殊個体の眼が見開かれたかと思えば、その身から黒い靄が噴出して纏い出す。

 ブッくんの拳は、その黒い靄が絡め取るような形で阻み、バジリスク・特殊個体の巨体に届かなかった。

 そこに、バジリスク・特殊個体が尾部分を振るい、ブッくんはもろに食らって吹き飛び、壁にめり込む。


「ブッくん!」


 ホーちゃんがブッくんの下へ向かうが、他はバジリスク・特殊個体から目を逸らせない。

 全員が驚愕するのと同時に、嫌な感じを受けているのがわかる。

 その理由は明白で、黒い靄だ。

 あれを見ているだけで不快感を抱いてしまう。

 他にも明確な変化が起こり、これまで付けていた小さな傷がすべて癒える。


「シュロロロロロ……」


 なんというか、バジリスク・特殊個体が、肉食獣が獲物を見定めた時のような嫌な笑みを浮かべる。

 全回復かどうかはわからないが……いや、全回復と考えるべきだな。

 バジリスク・特殊個体と、また最初からやり直す羽目になった訳か……いや、最初からではないな。

 こちらは傷付いた、あるいは消耗したままなのだ。

 ズルいぞ! と素直に思う。

 だが、危機はそれだけではなかった。

 バジリスク・特殊個体はそこで気付いたのだ。

 前衛、後衛――そのさらに奥に居る一団が、俺たちの弱点(ウィークポイント)だと。

 おそらくだが、バジリスク・特殊個体から見ると、前衛と後衛で攻めているのではなく、奥の一団を守っているように見えたのかもしれない。

 石化眼でAランクパーティの魔法使いが張っていた土壁とその前方周辺が石化し、巨体を生かして尾部分を突くように伸ばす。

 ラフト、槍持ち男性、双剣持ち勧誘、ビネス、Sランクの魔法使いと、誰もがその行動をとめようと、あるいは軌道を逸らそうとするが黒い靄がすべて阻む。


「避けろぉ!」


 声をかけながら俺も向かう。

 魔法は――間に合わない。

 いや、声も。

 バジリスク・特殊個体の尾部分が石化した土壁を破壊。

 土煙が大きく舞い――そこから「王雷」を担ぐAランクパーティ二つと、副団長、騎士たちが飛び出す。

 バジリスク・特殊個体の石化眼が、Aランクパーティ二つに向けられる。


「させませんよ!」


 副団長がAランクパーティ二つの最後尾に居る人物の背中を押して、バジリスク・特殊個体の視界から外させる――が、それは自身の突き出した腕から肩付近まで、それと前に突き出した足を犠牲にした行為。

 凡そ半身近くが石化した副団長が倒れる。

 バジリスク・特殊個体が邪魔した報いと副団長を見るが、その前に騎士の一人が副団長を守るように立つ。

 今回の件が終われば幼馴染の恋人と結婚する、と言っていた騎士だ。

 纏めて石化させる、とバジリスク・特殊個体の眼が怪しく光る。


「させるかよっ!」


 何か考えがあった訳ではない。

 体が勝手に動いたのだ。

 バジリスク・特殊個体の視線を遮るようにして横向きに飛び込む。


 ――石化、するだろう。けれど、それが誰かを守ったのなら。


 キンッ! と何か音がした――かと思えば、同時に失敗に気付く。

 飛び込んでしまったのだ。

 このまま石化して落ちたら砕けるのでは? と考えている間に側面から落ちて横っ腹を痛打、ついでに肘を床に打ってビーンと痺れが走り――。


「う、うう……」


 横っ腹ももろだったので痛いは痛いが、肘の痺れはよりきつい。

 少しの間、悶え――ん? あれ? 痛い? 痺れ?


「……なんで石化していないんだ?」


 石化眼を食らったと思ったが、石化していなかった。

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