見直したからといって、何かが変わる訳ではない
「散開っ!」
ラフトの言葉を合図にして、言った本人であるラフト、Sランク三人の内の前衛である槍持ち男性と双剣持ち勧誘に、ブッくんとホーちゃんがそれぞれバラバラに散って、バジリスク・特殊個体へと迫っていき、一気に距離を詰めていく。
石化眼を絞らせないためだ。
石化眼は、その視界に捉えたモノを石化させる。
見るだけで石化させるなんて反則だとしか言えないが、それは裏を返せば見られなければいいということ。
散らばった面々は、さすがという他ないだろう。
素早い動きで狙いを――バジリスク・特殊個体が視線を向けるとその範囲内から逃れて定めさせていない。
巨大な槌を持って重そうなラフトも、軽快な動きでバジリスク・特殊個体の視線を外している。
それに、バジリスク・特殊個体の方も、誰か一人に視線を固定できていない。
「お、らあ!」
バジリスク・特殊個体が槍持ち男性に視線を向けると同時に、ラフトが巨大な槌を振るってバジリスク・特殊個体の巨体を思いっ切り叩く。
ダメージが入っているかどうかはわからないが、それでも煩わしいのは間違いないのだろう。
バジリスク・特殊個体の視線がラフトに向けられるが、そこにブッくんの一発が入り、その巨体の一部が浮き上がる。
そこはさすがにダメージが入ったのか、バジリスク・特殊個体がどこか怒ったかのようにラフトを見ようとして――双剣持ち勧誘が乱撃を放つ。
かすり傷のような傷しか付けられていないが、目に見えてわかる傷をつけられる辺り、さすがはSランク、と認めるしかない。
……いや、やっぱり双剣持ち勧誘に関しては認められない。
アレがSランク……間違っている。強いようだけど。間違っている。
是非ともランクを見直して欲しい……多分、変わらないだろうけど。
……認めるのも、大事か。
とりあえず、バジリスク・特殊個体には、今双剣持ち勧誘が視界内に居ただろ! と言いたい。
まあ、見た瞬間に槍持ち男性がバジリスク・特殊個体の巨体に槍を突き刺したので、その痛みを感じたのか、少し身じろぎしたのでそれどころではなかったようだが。
惜しかった。いや、違う。槍持ち男性、すごい。
前衛の面々は、大体そんな感じで動いていた。
視線が固定しないよう、自分に向けられていない時は攻撃に移り、向きそうになると回避行動を取る。
また、バジリスク・特殊個体の攻撃は石化眼だけではない。
尾部分を振ってきたり、呑み込む、あるいは噛みつくといった行動も取っているが、そちらの方は特に問題ないと、誰もが上手く対処している。
ブッくんとホーちゃんは当然だと思うが、ラフトたちも選抜されただけのことはある、ということだろう。
ただ、バジリスク・特殊個体へのダメージについては……まあ、想定よりも与えられていない気がする。
あの巨体だと、多少の傷くらいであれば通じていないのと同義だ。
それでも、やはりと言うべきか、ブッくんとホーちゃんの攻撃はダメージとして食らっているようだ。
バジリスク・特殊個体も、二人には特に警戒している。
もちろん、後衛も大人しくはしていない。
後衛で主に動いているのは、ビネスとSランクの魔法使い。
「……こういう伝説に残りそうなのは、ビライブ兄さまたち――『王雷』に任せたかったのですが」
そう言いながら、ビネスが石化眼の視界に留まらないように横に移動しつつ、素早い手付きで弓を構えて矢を射る。
空気を裂くような音と共に矢は飛んでいき、向かう先はバジリスク・特殊個体の眼。
まずは石化眼を潰そうという狙いだが、飛来する矢を石化させたり、当たる直前で瞼が閉じられて跳ね返ったりと、達成はされていない。
けれど、効果はある。
ビネスの矢の精度は非常に高く、ほぼ的確にバジリスク・特殊個体の眼を捉えているため、対処しなければそのまま射られることになるのだ。
こちらとしてはそれでもいいのだが、バジリスク・特殊個体はそうではない。
そのため、その対処を取った時は明確な隙となり、前衛の攻撃機会を作り出していた。
Sランクの魔法使いに関しても、狙いはやはり眼なのは変わらないが、矢ではできないことをやっている。
バジリスク・特殊個体の巨体に合わせて、というのもあるが、Sランクの魔法使いの放つ魔法は大きい。
意図的に大きくしている。
眼を狙っているのは大きさに見合った威力のだが、それ以外は大きくしているだけ。
ダメージには到底ならないが、それでいいのだ。
大きくしているだけの狙いは、石化眼に対する前衛の壁だ。
前衛はどうしても大きく移動しなければいけない時や、バジリスク・特殊個体の攻撃を回避した際などに、大きいだけの魔法を上手く活用して、石化眼に自分の身を晒されないようにしているのである。
壁のあるなしの違いは大きい。
そんな後衛のさらに後方に、他の者たちが待機していた。
Aランクパーティ二つは石化している「王雷」を抱えているために戦闘参加できず、副団長と騎士たちはその護衛として、少しばかり後方に下がり、Aランクパーティ二つ共に居る魔法使いが土属性魔法で壁を形成して、石化眼から身を隠している。
ここに関しては、それでいい。
下手に動かれて「王雷」に何かあると困るどころの問題ではないのだ。
残る俺は――後衛が居る辺りで石化眼に晒されないように動きながら休憩中。
正確には、魔力回復中だ。
自然による回復だけではなく、今回用意された物の中に魔力回復薬もあるので、それも飲んでさらに回復しているのだが、まだまだ足りない。
合成魔法で魔力を消費し過ぎてしまった。
いや、魔法を放とうと思えば放てるのだが、現状充分にやり合えているので今は魔力回復に集中する。
直感でしかないが、そうしないといけない気がしていた。




