何故かわかる時がある
まず大事なのは、石化している「王雷」の回収である。
ただ、回収すればいいだけではない。
傷付けずに、だ。
欠ける……くらいなら大丈夫だろうか?
折れるのはさすがにマズいと思う。
……いや、もしかすると、一度折れても石化解除時にくっ付いていれば大丈夫なのでは………………不確定要素過ぎるな。
やはり、折れるのはマズい。
欠けるなら……それも箇所によるな。
例えばだが、髪の一部くらいなら大丈夫なのでは?
さすがに全体的だと問題だが、硬貨くらいの大きさなら……まあ………………命に別状はないかもしれないが、俺は嫌だな。
悩みの種になって、それが心労となって全体に広がっていくかもしれない。
結論として、やはり無傷であるべき、に落ち着く。
そのために回収を念頭に置いて動く。
「……シュロロロ……シュロロロ……」
巨大な部屋の中を覗くと、バジリスク・特殊個体が奥の方でとぐろを巻き、寝息を立てている。
うしろを確認。
ここまで来た全員が揃っており、俺が頷くと頷きが返される。
そして、物音を立てないようにゆっくりと石化している「王雷」の下へ。
先頭は俺だ。
いや、他にもラフトやビネスが先頭に立とうとしたのだが、揉めたのだ。
煩くする訳にはいかないとわかっているからだろうが、どちらも黙って睨み合いを始めたのは怖かった。
アレかな? 先に目を逸らした方が負けなのだろうか?
ただ、それだと永遠に決着が着きそうになかったので、王家所属として俺が割り込んだ。
副団長を前にする訳にもいかず、俺が先頭に立つことにした。
こうでもしないと、まず間違いなく相手より先に行こうとして――その先の未来は容易に想像できる。
なので、そうするしかなかった。
といっても、俺も万が一のための用意はしておく。
俺の直ぐうしろを付いてくるのは、ブッくんとホーちゃんだ。
……いざという時は頼むぞ。
竜としての感性で寝起きを察知することを願う。
そうして、音を立てないように……。
「……シュロロロ……」
ゆっくりと進んで……。
「……シュロ」
バジリスク・特殊個体の寝息がとまると同時に、俺も動きをとめる。
後方の確認はできないが、音が聞こえてこないので、しっかりととまったようだ。
バジリスク・特殊個体の反応から目を逸らさない。
いつでも動けるように……。
「……シュロロロ……」
……大丈夫なようだ。
再度進んでいく。
「……シュロ」
ピタッ! ととまるが、問題が一つ。
片足が上がった状態だった。
……ゆっくりと音を立てないように下ろしていいだろうか?
でないと、我慢し切れずに、バンッ! と足を下ろすというか落としてしまいそうだ。
それに、突発的だったため、体勢が少々悪い気がする。
……プルプルしてきた。
俺は……足を下ろすぞぉ!
「……シュロロロ……」
直前でグッと踏みとどまり、音を立てないように足を下ろす。
思わず振り返ると、全員ホッと安堵していた。
もちろん俺も。
注意深く進んでいく。
ここで多少時間がかかろうとも、これまで経っていた時間からすれば僅かでしかない。
焦る必要はないと自分を落ち着かせて少しずつ進んでいく……が、途中で足をとめる。
石化している「王雷」にはまだまだ届かない。
けれど、これ以上先には行けない……いや、行けるは行けるのだが……なんだろう。
別に根拠がある訳ではない。
けれど、わかるのだ。
これ以上先に進めば、バジリスク・特殊個体が目覚める、と。
冒険者の勘とか、商売人の商機とか、そんな不確かなモノでしかないが、当人には何故か確信できてしまう。
そんな感じが俺の身に伝わっている。
うしろを見る。
誰もが困惑した表情であったが、次第に俺の行動の意味に気付いていく。
声を出す訳にはいかないので、ここで開始と俺が頷くと、頷きが返される。
このような場合も想定してあった。
初手は俺、で既に決まっている。
決め手となったのは、先のレッドドラゴン。
俺が悠々と魔法で倒していたのを見て、この中で最大攻撃力を持っているのが俺だと判断された。
まあ、膨大魔力四人分を受け継いでいるので、俺もそう思う。
他の最大攻撃力となるとブッくんとホーちゃん……いや、ホーちゃんの方なのだが、ホーちゃんが何も言わないので、攻撃するとなった時は俺がすることになったのだ。
という訳で……覚悟完了。
ある意味、ここが最大の機会である可能性が高い。
もし、最初の一撃で倒せれば問題ないし、致命傷を与えることができれば、戦いになっても有利に進めることができる。
最悪なのは、通じなかった場合だが……今は考えない。
だから、今から放つべきは俺が放てる最大魔法。
実際はもう一段階上があるのだが、そっちは未だ制御が甘いというか、できる気がしないというか、放つことはできるが周囲への影響無視なため、間違いなく石化している「王雷」が砕けるので、確実に放てて「王雷」に害が及ばない方を選ぶ。
これで決まってくれ――という思いを込めて、体中に魔力を漲らせていき――全力で放つ。
「『白輝赤熱 天から隠れることはできず 上に立つことを認めず 悪逆に対して 噴出し立ち昇り 裁きを下す光柱 裁きを下す光柱 断罪光炎柱』」
初手。合成魔法でいった。
ごっそり魔力が持っていかれるが、それだけの威力はあると自負できる。
バジリスク・特殊個体の上下に巨大魔法陣が展開し、その両方から輝く炎が注がれて挟み込み、その内部のモノを焼き尽くす。
瞬間的に、ではない。
さらに魔力を注ぎ続け、内部を延焼し続ける。
それなりの距離があるにも関わらずその熱はこちらまで届き、一気に汗が噴き出した。




