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賢者巡礼  作者: ナハァト
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まずは相手を見ることが重要

 天塔(ヘブンタワー)・64階。

 目的の部屋の近くまで来る頃には、大体百人は居た選抜メンバーも、俺、ブッくんとホーちゃん、ラフトとビネスに副団長、勧誘していた者を含めたSランク三名、嫁に勝てないリーダーのAランクパーティが二つと、騎士が数名と、二十人を超えたくらいの数しか居ない。

 それ以外の者たちは、ここから61階までの各所に配置されている。

 ここまで先頭に立って案内していた俺は振り返り、声を落として口を開く。


「……さて。もう気配は感じていると思う」


 何の? とは言わなくてもわかるだろう。

 目的の部屋の出入り口が見えるので、そこを指し示すだけで充分だ。

 そこから濃密な死の気配とでも言えばいいのか、言い知れぬ何かが既に感じられる。

 全員、ゴクリと喉を鳴らす。

 いや、全員ではないな。

 ブッくんとホーちゃんはまったく意に介していない。

 こそっとブッくんに尋ねる。


「……どうにかできそうか?」


「大したことはない……と言いたいが、厳しいな。久し振りに人化して気付いたが、本来の姿と違うからか、思いのほか力が出せない」


「さっきアレを一発で沈めたのに?」


 勧誘のSランクを指し示す。


「それくらいはできる。だが、この先の部屋の中に居るのも、それくらいはできると思うが?」


「……まあ、できるだろうな」


 あの巨体だ。

 そのまま突進してくるだけで同じことができるだろうし、ただただ脅威である。

 頭の中でその光景を思い描いてみる………………ちっ。避けるんじゃない。勧誘。バジリスク・特殊個体ももっと速く、本気で這えよ……いや、そうじゃない。

 今は勧誘も味方だ。

 確かにイライラしたのは事実だし、手のひら返しで王都・ガレットを破壊することになっても厭わないくらいだったが……あれ? 別に居なくなっても……いやいや、味方味方。そこを間違えてはいけない。

「王雷」を救うための味方だ。


「わかったのならいい。人化の状態だと、この先に居るのといい勝負ができる、といったところか。まあ、だからといって力だけで勝敗が決まる訳ではないが……しかし、そうなると困ることが一つある」


「なんだ?」


「竜であれば石化の一つくらいどうとでもできるが、この状態だと通じる可能性の方が高い。石化しないように立ち回る必要があるな」


 なるほど。そうなるのか。

 ……ん? 待てよ。人化したブッくんでいい勝負なら、元々ブッくんよりも強いというホーちゃんなら……どうなんだ?

 思わず視線を向けると、ニッコリと笑みを浮かべていた。

 アレは……読み解くとアレだな。

 ブッくんにとっていい勝負となるのなら、それは強くなるための糧になると、あんまり手出しする気はない、て気がする。

 まあ、元々予定にはなかった戦力だし、ブッくんが手伝ってくれるだけでもありがたい。

 そう思っていると、ラフトが声をかけてくる。


「……予想以上だな。いや、妹たち――「王雷」でも倒せなかったということなら納得の気配だ。……見て来て、大丈夫か?」


「ああ、部屋の外から覗くように見るだけならな。ただ、わかっていると思うが、下手にこちらの気配が強まると、間違いなく起きる。ここから数人ずつに分けて見てくるといい。見ないことには始まらない、というか、どう動くべきか決められないからな」


 数人ずつに分けて、部屋の外からバジリスク・特殊個体の姿を見て来てもらう。

 大半は……沈黙して戻ってくる。

 バジリスク・特殊個体を起こさないように、ではなく、その姿を直に見て圧倒されて、だ。

 勧誘のSランクも、この時ばかりは口を開かなかった。

 副団長も同様。


「大丈夫か?」


「……私個人であれば無理、と断じますが、ここに居るのは三柱の国・ラピスラの最高戦力と言ってもいい方たちばかりです。やれると信じていますよ」


 圧倒はされたが、気持ちの部分は落ちていないようだ。

 それは他のみんなも同じであり、やってやるぜ! という気持ちが見えている。

 中でも、ラフトとビネスは、石化状態の「王雷」の姿を見て、怖いくらいにやる気を漲らせていた。


「……気負い過ぎだ」


「何を! そこに! ………………いや、アルムの言う通りだな。命を賭して救っても、妹は喜ばない。全員無事に乗り切ることだけを考えなければ、石化から戻った妹に叱られてしまうな」


「そうね。それはビライブお兄さまも喜ばないわ。そのために気負いは必要ない。余計な力も、ね」


 自らを落ち着かせるように、ラフトとビネスは深呼吸を繰り返して、落ち着きを取り戻す。

 それに、最終目標はバジリスク・特殊個体の討伐ではなく、「王雷」の復活だ。

 そのために、今から逸ってはいけない。

 他のみんなも気持ちを切り替えるように深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻す。

 そんな中で異色だったのは、ブッくんとホーちゃんだろう。


「あれだけ大きいと食いでがあるな」


「ええ~? そう~? 石化眼持ちでしょ? 量はあるけど不味そうじゃない? お腹壊すよ」


 どちらかと言えば、ホーちゃんの意見に賛成である。

 しかし、なんとも頼もしいのは事実。

 そうして、敵が――バジリスク・特殊個体というのがどういう大きさであるかを理解した上で、ここに居る面々で話し合いを始め……即席である以上、下手に連携を求めても余計に混乱するため、ある程度方針だけはしっかりと決めて――行動に移る。

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