そう遠くないことなので間違っていません
竜二体が付いてくることになった。
ブラックドラゴンのブッくんと、ホワイトドラゴンのホーちゃん。
竜の姿だと目立つため、竜二体は人の姿を取る。
どちらも武闘家のような姿の黒髪の男性と白髪の女性。
それがブッくんとホーちゃんだ。
バジリスク・特殊個体と戦闘になった場合に手伝ってくれるそうなので、心強い味方ができたと思う。
俺が最後尾であったため、そのままブッくんとホーちゃんと連れて、ボス部屋から出て上へ。
―――
天塔・61階。
「えぇと……そちらのお二人はどなたでしょうか? 先ほどまで居なかったと思いますが」
副団長がそう尋ねてくる。
二人? ……そうか。見た目は人だものな。
この姿の時は人として数えるか。
それと、俺がいきなり連れてきたようなモノだし、副団長が困惑するのも無理はない。
なので、早速紹介を――していいのだろうか?
元々、竜であることをわからなくするために人の姿を取っている――と俺がバラすのは駄目だろう。
それに、いきなりブッくんとかホーちゃんとか言っても、さらに困惑するのは間違いない。
「少々お待ちを」
副団長に待ってもらい、ブッくんとホーちゃんを連れて、少し離れて相談。
………………。
………………。
相談して軽く物語を作って、副団長に語る。
「男性がブックで、女性がホーラー。強くなるために世界各地を巡って己を鍛えている恋人同士の武闘家で、以前知り合った関係です。相当強いので、今回の件――バジリスク・特殊個体と戦闘になったら手伝ってもらおうかと」
この場限りの名前でそうした。
愛称で呼んでもおかしくないようにしたので、適当である。
「ブックだ。ホーラーの恋人だ」
「ホーラーよ。ブックの妻」
「え? 妻? 恋人ではなく?」
あれ? と副団長が疑問を口にする。
瞬間、俺とブッくんはホーちゃんを連れて再度相談。
………………。
………………。
「婚約していたようです」
「婚約していました。先ほどのはアルムに話を合わせていただけで」
「そう遠くない未来の妻です」
「「そういうことです」」
俺とブッくんが揃ってそう締めくくったので、きっとこれで納得してくれるだろう。
副団長は何も言わず、少しの間考える素振りを見せたあと、俺をジッと見てくる。
これはなんだ? 何か言って欲しそうに見える。
そのまま見ていると、副団長の口がパクパクと動く。
なんか二言くらい言っているような………………。
「……おなか……空いた?」
違う、と副団長は頭を振る。
再度挑戦。
「……自分も……結婚したい? 副団長ならいい人が見つかりますよ」
そうじゃない、と副団長は頭を強く振る。
諦めては駄目だ。副団長。
いい人は必ず見つかる。
そう信じて……いや、そういう意味で頭を振った訳ではないようだ。
もう一度挑戦してみると……なんとなくだが……。
「言葉で、保証」
と言いたいような……いや、今言われたな。
なるほど。そういうことか。
「身の保証は俺がする。何かあれば責任は俺が取るから」
「そういうことなら、わかりました。ただし、これは王家所属だけで行っていることではありませんので、冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部――ラフトさまとビネスさまにも話を通しておかないといけません」
「わかった。これから向かう」
先に進ませた冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の選抜メンバーは、61階より先には進んでいない。
この先を知っているのはこの場で俺だけであり、安全を考慮して、ここから先は俺が先頭で案内するからである。
なので、今ここに選抜メンバーは全員揃っているのだ。
ラフトとビネスに、ブッくんとホーちゃんを紹介する。
その時、ちょっとした問題が起こったというか、勧誘していたSランクの者が、「恋の運命が始まる予感」とホーちゃんに声をかけた瞬間、ブッくんが一発で黙らせた――ということがあった。
ブッくんとホーちゃんの関係はしっかりと口にしたのに、そんなことを言い出したSランクのヤツが悪い。
逆鱗に触れてしまったのである。
寧ろ、一発で終わらせてくれたことに感謝した方がいいというか、命が終わっていた可能性があった。
ブッくんが手加減したのか、あるいはSランクのヤツが思いのほかしぶとかったか、真相はわからないが。
とりあえず、強さを示したということもあって、バジリスク・特殊個体と戦闘になった場合、心強い者が増えた、とラフトとビネスは受け入れた。
Sランクのヤツがこれで少し大人しくなったのは、副次的効果というヤツだろうか?
そうして、そこからは時間をかけて進めていく。
まずはここまで一気に駆け上がってきた疲れを取るために、魔物が出ないここ――61階の魔法陣がある部屋でしっかり休む。
魔法陣のある部屋は大部屋であるため、この人数でも休むことができる。
それで体調を整えてから、俺の案内で64階を目指す。
全員で64階の目的の部屋まで行くのではなく、要所で人を割き、いざという時に後退するための通路を確保していきつつ、安全を第一に優先して進むため、時間はそれなりにかかった。
ただ、その甲斐あって、誰一人欠けることなく、64階の目的の部屋――その近くに辿り着く。




