一枚向こうは別世界というのもある
レッドドラゴンを魔法一発で倒した。
でもこれは、当たりどころが良かっただけで、またやれと言われると難しい。
いや、できなくはないな。
要は、心臓部の位置はそうそう変わらないだろうから、そこら辺目掛けて数を撃ち込めば、その中のどれかが貫通して倒れるだろう。
一発で、は無理っぽいが、何発か、なら可能なのだ。
そもそも、最初に同じところ――その付近を目掛けて数発同時に放てば、時間的には同じくくらいで倒せると思う。
ただ、一発でもかなりの魔力を込めているので、さすがに連戦は無理……か?
………………。
………………。
いや、数戦くらいならいける。
ただ、それでやれなかった場合のことも考えると余裕も欲しいので……やはり、二、三戦したら休みは欲しい。
そう考えて結論を出している間に、共に来たラフト、ビネス、副団長が我に返る。
「いやはや。最初は驚いたが、単独で64階まで行けているのなら納得の強さだ」
「そうね。寧ろ頼もしいわ。バジリスク・特殊個体と戦闘になった時も頼れるってことだもの」
「なんと言いますか、あの時、王家に所属して欲しいと推薦状を書いた自分を褒めてやりたくなりました」
俺としては、ここまでできると言うことを見せて、バジリスク・特殊個体と戦いになった場合はある程度自由にやらせてもらおうと思っていたのだが、この調子なら大丈夫そうだ。
ついでに、俺が倒した分だけだが、レッドドラゴン数体をマジックバッグに収納しておいた。
いや、もちろん、それほど多くはないが、これまで天塔で倒した魔物は収納している。
いざという時の金策用に。
という訳で、ここから先は手早く人を通していく。
俺は一人でいけるため、一気に四人を通すことができた。
休憩も挟むが、その時は戦力持ちが動いているので問題ない。
冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の選抜メンバーを通し、そのあとに騎士たちも同じ要領で通していく。
戦力持ちが協力してくれたのでそれは早く終わる。
最後に戦力持ちも通し、誰も居ない――全員通ったことを確認したあと、俺は単独でボス部屋に入る。
……おっと、先ほどまでよく聞いていた、出会い頭のレッドドラゴンの咆哮がない。
その代わりに聞こえてきたのは――。
「ふふふ。ブッくん」
「な、なんだよ」
「なんでもなーい。呼んだだけー」
「なんだよ、それは」
「私のことは呼んでくれないのかな?」
「いや、呼ばなくても隣に居るし」
「えー? わかってないな。隣に居ても呼んで欲しい時があるんだけどなー。今とか」
「は? 意味がわからん」
「そこに意味を求めちゃいけませーん! 大事なのは、私が求めて言ってくれるかどうか、だよ」
「………………わかったよ。その……ホーちゃん」
「うん! よろしい! ご満悦です!」
うえ~……と吐きたくなった。
さっさと出たくなったが、入って来た扉はもう固く閉ざされている。
そういえば、そういう仕様だったな。
しかし、いきなり空間が変わったように感じたのだが、ダンジョンの中だよな、ここ?
ここだけ流れている空気が違う。
ボス部屋の外は殺伐としているし、実際先ほどまでレッドドラゴンを相手に殺伐とした関係を築いていた。
命のやり取りである。
というか、レッドドラゴンを連続で相手し過ぎてすっかり忘れていた。
単独で入るとこうなる可能性があることを。
しかし、どうやら、上手くいったようだ。
それは大変素晴らしい。
喜ぶべきことだ。
それは間違いない……間違いないのだが……帰りたくなった。
いや、帰れないから、通り過ぎたい。
それにしても、こちらに背を向けて仲睦まじい会話と様子を見せているのは、前回ここで会ったブラックドラゴンとホワイトドラゴンだ。
ブラックドラゴンの方がブッくんと呼ばれ、ホワイトドラゴンの方がホーちゃんと呼ばれているというか……その他がそう呼んではいけないヤツだろうな。
というか、カーくんが究極聖魔竜で、その種族と言っていいのかわからないが、そういう部分となるとカオス・ドラゴンの方で、カーくん。
……そういう部分の頭文字で呼ぶのが愛称になる、みたいなことだろうか?
いや、考察している場合ではないな。
早く出た方がいい。
幸いにして、奥の扉の方も死角なので、パッと行って、ガッと開けて、サッと出れば問題ないだろう。
前回は協力してくれた? ホワイトドラゴンも、さすがにこの甘い雰囲気が壊されたとあっては、許してくれないかもしれないし。
こそこそと移動する。
なるべく存在感を消して、できるだけ距離を取るように壁際を進む――のが悪かった。
――コ、ツーン……。
そんな風に音が聞こえた。
何が? と視線を向ければ、竜杖が壁に当たった音だったようだ。
こういうこともあるさ、と竜杖の装飾の竜がニヤリと笑みを浮かべたような気がする。
あるある、と顔を見上げれば、ブラックドラゴンとホワイトドラゴンがこっちを見ていた。
……少しの間見つめ合う。
どうも、と会釈して、自分、邪魔でしょうから行きますね、と扉を指し示し、奥の扉の方へ――行こうとしたら、ブラックドラゴンに遮られた。
「お前、少し前に来たヤツだな」
「いや、初見だ」
面倒そうな予感がしたので拒否。
ブラックドラゴンの眼光が鋭くなったので、さっと目を逸らした。
「何かやましいことでもあるような反応だな」
そんなモノはない。
そもそも、まだ二度目なんだし、そんなことを抱く方が無理だ。
助けて欲しい、とホワイトドラゴンを見るが、ごめんね、と軽く謝れってきたように見えた。
……何かあるのだろうか?
「……どこを見ている?」
ブラックドラゴンの声が低くなり、怒りを感じる。
……あれ? もしかして、嫉妬ですか?
ホワイトドラゴンが嬉しそうだ。
……なんというか、もうどうでもいいというか、さっさと行きたい気持ちが強くなる。
「ええと、それで、何か俺に用があるのか?」
「ああ、ある。お前から感じられる、とても強力なドラゴンの存在。もし、その存在が生きているのなら会わせて欲しい」
………………は?




