確率が集約する時って本当にくる?
天塔・60階。
51階の魔法陣で、石化解除に必要なモノの採取を行っていた者たちが1階に戻っていく。
元々その予定だったようで、これ以上は自分たちの力量を越えているから無理、と言っていたのだが、確かに51階より上は推奨冒険者ランクA。
一線を画す力が必要だ。
現れる魔物も強くなっているので、先行している冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の選抜メンバーも、その進行速度はさすがに落ちた――ということもなく、ボス部屋の前で合流した。
途中で出会うと思ったのだが……選抜されただけのことはある、ということか。
それに、話を聞く限り、別に強行もしていないそうだ。
というのも、ランクS、Aまでいくと自分のできることがわかっているし、一時的な仲間であったとしても、ある程度他の動きも把握できるため、連携とまではいかないが、邪魔にはならない程度には共闘できているらしく、すいすいと進むことができたらしい。
また、どうやらラフトとビネスが率先して共闘しており、上がそうなら下も、と諍いも起こっていないそうで、どうなることかと思っていたが、これなら……バジリスク・特殊個体と戦闘になっても大丈夫かもしれない。
そうして上手く噛み合う、みたいな状態になって、休む時はしっかりと休んでいたにも関わらず、自然と速度が速まっていき、今に至っている、と。
……まあね、ほら。俺は騎士たちと穏やかに進んでいたから。
決してこちらの歩みが遅かった、という訳ではないはず。
それに、そのおかげというか、騎士たちとはかなり仲良くなった……と思う。
これを無事に乗り切ったら、幼馴染の恋人と結婚する! と宣言した騎士に、他の騎士たちと一緒に祝福の言葉を送ったくらいだ。
結婚式には是非来て欲しい、と言われるくらい仲良くなった。
そして、騎士たち以外の選抜メンバーがボス部屋前で立ち止まっていた理由は、単純にここを通過できるだけの戦力を持っているのは、選抜メンバーの中でも数人しか居ないからである。
ボス部屋は最大五人でしか挑めない以上、通過できるだけの戦力持ちを二、三人加えて往復させていくしかない。
幸いと言っていいのか、Sランクも居ることだし、時間はかかるがこれで全員61階に行ける。
といっても、さすがに連戦し過ぎるのは無理なため、今は休憩中のようだ。
ラフトとビネスが居たので声をかける。
「お疲れさま……と言いたいが、かなり疲れているようだが大丈夫か? ここが本番ではないぞ」
「問題ない。鈍った体を鍛え直す必要があるから今は多少無理をしているが、休める時はきちんと休んでいる」
「本番で動けない、なんてことにならないようにしっかり調整しているから、心配しなくても大丈夫よ」
二人共呼吸は乱れているが、しっかりと答えが返ってきた。
これなら、まあ、大丈夫だろう。
ついでに、ここまでの間にレアボスが出たどうか聞いてみたが………………出なかったようだ
そんな馬鹿な、と言いたい。
なら、俺が出会ってばっかりなのはどうして………………確率が俺に集約している、とでもいうのだろうか?
そんなことはないと思いたい。
まあ、出たモノ、出るモノは仕方ないと諦め、今はここから先のことだと周囲を見回して数える。
……ふ~む。大体半数くらいは既に通過しているようだ。
となると、ここで騎士たちが増えて……戦力持ちの負担が増えた訳だが……少し考えてみる。
のんびり来たし、特に疲れてはいない。
道中の魔物は騎士たちが率先して倒してくれたから、魔力も余裕があるというかまったく減っていない。
まあ、使っても直ぐ回復するんだが。
………………。
………………。
騎士たちは、俺が通すか。
……へへっ。友達だからな。
となると、早く通過すれば、それだけ休憩の時間も増えて、しっかりと休めるはず。
ここの通常は……確かレッドドラゴン。
レアボス? は……単独じゃなければ出ないだろう。
出たらその時だ。
とりあえず、レッドドラゴンを倒せる魔法となると……難しい。
竜鱗は総じて物理だけではなく魔法にも強い。
並の魔法では通じないだろう。
つまり、並ではない魔法なら通じる訳だ。
それなら大丈夫。
消費魔力度外視で放てば……倒せると思う。
一回、試してみたいから、戦力持ちに付いてきてもらうか。
もしも倒せなかった時のために。
問題はどの属性の魔法でいくかだが……相性的に水属性が無難だろう。
その上で高威力か……なんかあるかな?
水のリタさんの記憶の中にある水属性魔法に関することを探り………………あった。
あとは実際に試すだけ。
ラフトとビネス、それと副団長に付いて来てもらい――。
「……自分で開けないのか?」
ラフトの問いに、俺は頷きを返した。
一応。念のため。万が一に備えて。
ボス部屋の中に入り――。
「グワアアアアアッ!」
レッドドラゴンが咆哮を上げる。
良し。通常ボスだ。水属性魔法。
「『青流 集約して穿ち 削り貫く 一筋の流れ 水光線』」
レッドドラゴンに向けて手のひらをかざして、発動。
魔力増し増しで、手のひらから水が光線のように放たれる。
レッドドラゴンはその程度の魔法問題ないとでもいうように、にやりと笑みを浮かべるが、水光線は胸部を貫いた。
レッドドラゴンは笑みを浮かべたまま倒れ、ピクリとも動かない。
当たりどころが良かった……心臓部でも貫いたのだろうか?
かなり魔力を込めたが、相性で有利でもこれ以下の魔力量だと通じない気がするので、さすがは竜鱗である。
でも、やれることはわかった。
これで騎士たちを通過させることができるが……ところで、ラフトにビネスに副団長。どうしてそんな口を開けて呆気に取られたような表情を浮かべているんだ?




