ほんと、意識を逸らした瞬間に来ることが多い
天塔・30階。
まだまだ余裕。
騎士たちと談笑しながらでも進むことができる。
油断し過ぎかもしれないが、それは俺だけかもしれない。
騎士たちは俺と談笑しつつも、魔物が現れた時は――というか、現れる前には既に反応していて、ほぼ瞬間的に倒していた。
その姿は油断も隙もない感じで、非常に頼もしい。
また、これまで冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の対立に巻き込まれてきたからかもしれないが、基本的に穏やかな人が多い気がする。
待っていてくれるし。
俺の中で好感度爆上がり中だ。
三柱の国・ラピスラの騎士はいい騎士だ。
こんなにいい騎士がたくさん居るぞ、と広めたくなった。
王家所属はこんな人ばかり……いや、あの後輩門番が居たな。
……先輩門番がどうにかすることを願う。
そうこうしている内に、ボス部屋に辿り着く。
先に行ってもらい、単独で入る。
「………………」
誰も、何も居なかった。
確かに、オーガの男女が愛の逃避行をしていたヤツだったはず。
居ない、現れないということは、無事に……いや、よく見るとボス部屋の中央に立て看板が一つある。
――『あなたのおかげで現在逃亡中です。どうぞ先にお進みください』。
なるほど。先に進んでいいようだ。
……まあ、無理矢理関わらせられただけだが、それでも関わったのは事実。
幸せになって欲しいものだ……。
それにしても、代わりは見つからなかったのだろうか? それとも、あとを追っている最中で居ない?
無事に逃げ切れよ……というか、「あなたのおかげ」て、俺に向けてなのか?
確認できないし、戦わずに進む、というレアだった――と割り切って、先に進むことにした。
―――
天塔・40階。
31階に着いて直ぐある魔法陣の部屋で一泊した。
魔法陣の部屋は総じて魔物が出ない安全地帯なのだ。
来たるバジリスク・特殊個体と戦いに向けて、体調は万全に整えておかないといけない。
先行している冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部も、適度に休んでいるだろう。
……休んでいるよな? 相手よりも先に、と競い合って休まず進んでいるとか……そんなことないよな?
思わず、騎士たちに大丈夫だよな? と聞いてみるが、ハハ……と乾いた笑いしか返ってこなかった。
どうせ上の方で詰まった時に追い付くだろうから、放っておこう。
翌日。
40階まで行き、ボス部屋の前まで行くと、待っている者は誰も居なかった。
もう通り過ぎていたようだが……夜通しではないよな?
昨日と同じく先に騎士たちを行かせて、俺は単独でボス部屋に入る。
「ブオオオオオオオオオオッ!」
ミノタウロス? が居た。
どうやら無事に乗り切ったようで、その手に持つ大斧をぶんぶんと振り回しながら咆哮を上げて戦う気に満ち溢れている。
……ふっ。漸く、死闘が始まる訳か。
「さあ、来い!」
「ブオオオオオオオオオオッ!」
ミノタウロス? が大斧を振り上げ――。
――ゴロロロロロ。
と雷が鳴ったような音が響き――。
――ギュルルルルル。
何かが絞られるような音が続いた。
音の出所は、ミノタウロス? のお腹。
ミノタウロス? はだらだらと汗を掻き始め、内股になる。
小刻みに震え、何かを耐えているようだった。
……まあ、そうなんだよな。一度経験すればわかるが、一度で治まらないというか、少し時間が経って忘れた頃に戻ってくるんだよ。
「……扉、開けようか?」
俺の問いにミノタウロス? は小さく頷く。
扉を開けると、ミノタウロス? は前回と同じく、助かりました。ありがとうございます。と小さく頭を下げて去っていった。
今回も間に合うといいな。
いいことしたな、といい気分で上へと向かう。
―――
天塔・50階。
ちらほらと、冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の選抜メンバーたちを見かけるようになる。
といっても、置いていかれたとかではなく、石化解除に必要な素材を集めているようだ。
ここまでは推奨冒険者ランクBであるし、大丈夫だろう。
ボス部屋前で合流すると思っていたのだが、しなかった。
なんというか……飛ばしているなあ。
騎士たちも大丈夫だった。
手伝いが必要ないというか、副団長が強く、きちんと引っ張っていってくれている。
騎士たちが全員通過したのを確認したあと、俺はこれだけの人が連続して通っているのなら、どこかで誰かがレアボスを引いているのでは? あとで聞いてみるか? と考えながら単独で入った。
「ふはははははっ! 現れたな! 我が宿敵よ! 行くぞ! 大合体!」
ボス部屋の中で散らばっていた金属の塊が集い、組み合わさって、さらに大きな形――見た感じで言えば、手や足、胴体といった形を取っていき、最終的に人型に。
それが、ド、ズゥン! と大きな音を立てて床に降り立つ。
「最硬合体! プラチナゴーレム!」
……おかしなところは何もない。
きちんと人型ゴーレムの形だ。
おお~、と拍手を送る。
今回は上手くいったようだ。
機嫌の良さそうなプラチナゴーレム。
というか、勝手に俺を宿敵認定しないで欲しい。
寧ろ、救ったと思うのだが?
「前回は不覚を取った! しかし、今回はそうはいかない!」
……まあ、取ったのは不覚というか、どこか間抜けな姿だったがな。
「見せてやろう! 我の新たな合体を! その姿に! その強さに! 震えるがいい!」
プラチナゴーレムがそう言うのと同時に、指をパチンと鳴らす。
すると、奥の扉が開き、そこから別のゴーレム――キラキラと輝くクリスタルゴーレムが現れた。
「行くぞ! 超合体! 水晶連結!」
プラチナゴーレムが飛び上がり、クリスタルゴーレムがそのあとを追うように飛び上がって、その途中で体がバラバラになった。
砕けた? と思ったが、違う。
バラバラになったクリスタルゴーレムが、プラチナゴーレムの体に組み合わさっていく。
装飾のように組み合わさる部分もあれば、鎧のように覆う部分もあり、プラチナゴーレムの手足の先にそのままクリスタルゴーレムの手足が組み合わさって、最後に頭部も組み合わさって兜のように。
巨大なプラチナゴーレムが、さらに巨大な姿となる。
「オオオオオオオオオオッ!」
咆哮と共に力強さを示すようなポーズを取り、そのまま下りて着地を――あっ。それはマズいのでは? と思ったが、遅かった。
勢い良くド、ズゥン! と着地した瞬間、足先のクリスタル部分が砕け、バランスを取ろうと地面に勢い良く手を伸ばすと――手先のクリスタル部分が砕け、体から落ちてクリスタルの鎧部分が砕け、最後に頭を打ってクリスタルの兜も砕ける。
残ったのは、なんでもないプラチナゴーレムのみ。
「………………」
「………………」
プラチナゴーレムは両手で顔を覆い、そのまま震え出す。
声を上げずに泣き始めた。
これは……そっとしておいた方がいいだろう。
というか、一番泣きたいのはクリスタルゴーレムだと思うのだが。
そう思いながら、クリスタルゴーレムが開けた奥の扉から先へと進んだ。




