何も言わなくても待っててくれるのは嬉しい
準備が終わったので天塔へ向かう。
結構な大人数――百人近くでの移動とあって、注目度が高い。
王都・ガレットの人々から応援の声が次々と飛んできて、まるで祭りのような盛り上がりを見せていた。
というか、堂々と賭けをしている者も居る。
……失敗の方に賭けているのが多い。
その理由は単純明快で、冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部が協力なんてできる訳がない、というモノ。
対立の歴史が長いから……まあ、仕方ない。
でもまあ、双方の統括であるラフトとビネスも居るし、大丈夫だと思……いたい。
―――
天塔・10階。
大人数での移動であるため、それなりに時間がかかる。
けれど、最低でもBランク以上であるため、魔物の横槍が入ろうとも、余裕で対処できていた。
俺の道案内も天塔・61階からの話なので、そこまではただ付いていくだけである。
一応王家所属であるので、副団長と騎士たちの中に加わり、王都・ガレットでの観光や名産について教えてもらいながら進む。
今、先頭で進んでいるのは、ラフトとビネスだ。
戦いの勘を取り戻す必要があると、積極的に戦っているそうだ。
それでも全体の速度が遅くなっていないのは……まあ、まだまだ手こずるような魔物ではない、ということだろう。
なので、問題なく進めると思っていたのだが、天塔・10階に来て、俺はとある問題に気付く。
そう、レアボス問題。
前回、思い出してみると、60階までのすべてのレアボスを引き当てたような気がする。
……まあ、中にはレアボス? というのも居たような……いや、少なくとも通常ではなかったのは確かだ。
また、という可能性は低い。
しかし、ゼロではない。
でも、一度1階から行き直した時、10階、20階、30階の以前通ったところでは現れなかった。
これもいってしまえば、行き直しだ。
出ない……とは思う。
ただ、念のための確認はしたい。
前回が単独だったので、扉を開けるのが他の人だとどうなるのかを。
ボス部屋に入れるのは一度に五人までと、五人ずつでしか通過できないため、ボス部屋は天塔を進む上で一番時間がかかるかもしれない。
順番待ちをしている間に、水のリタさんの記憶の中から思い出す。
ここの通常はホブゴブリンとゴブリン四体。
前回、同じ構成だったが、明らかに通常ではなかった。
……浮気性のホブゴブリンを、嫁ゴブリン四体がフルボッコにしていたな。
そんなことを考えている間に順番が来て、俺と共に入る四人の騎士の内の一人が扉を開けた。
……うん。ホブゴブリンとゴブリン四体。それはどちらにしても同じ。
ただ、明確に違うのは、喋らないし、殺意のようなモノをこちらに向けて襲いかかってきたということ。
通常のようだ。
だからといって、それで困ることは一切ない。
共に入った四人の騎士たちがサクッと倒す。
俺はそこで「確認したいことがあるから先に行ってくれ」と先に行かせ、戻る。
全員が通るまで待ち、誰も残ってはいないことを確認して、俺は一人で開けて入ってみた。
……まさかね。
「誠に! 申し訳! ございませんでしたぁ!」
「………………」
ホブゴブリンが膝を折って頭を床に付け、本気謝りしていた。
謝っている対象は、仁王立ちしている嫁ゴブリン四体。
う~ん………………見なかったことにするのも優しさ、かな。
嫁ゴブリン四体と目が合ったので、行っていいですか? とジェスチャーで伝えると、どうぞと返されたので先に進む。
ホブゴブリンは俺に気付いていなかったが、あれは前回の続きなのか、それとも新たにやってしまったのか……まあ、それはホブゴブリンと嫁ゴブリン四体の問題だ。
俺には関係ない、と邪魔しないようにそっとボス部屋を出る。
出るのかあ……一回は出なかったのになあ……と少しだけ頭を抱え、まあ、出る時は出るモノだと達観するように納得させて、先へと進む。
上に上がると、騎士たちだけが待っていてくれた。
冒険者ギルド・総本部。商業ギルド・総本部。こういうー々何も言わなくても待っていてくれるってのが大事なんだからな。
天塔・20階。
急いであとを追う必要はない。
どうせ、上の方のボス部屋で詰まっている間に追い付くのだ。
それにしても、一人だと出てしまったな。
いや、それでも構わないのは構わないのだが、そもそもどれもまともに戦っていない。
……だが、レアボスってそういうことなのだろうか?
その辺りの確認の意味も込めて、もう一度やってみることにした。
予測通りというか、ボス部屋の前で先に進んでいた冒険者ギルド・総本部、商業ギルド・総本部の人たちと合流し、そのまま待って、騎士たちを先に行かせて、今回は狙って一人で入ってみる。
もちろん、通常の可能性もあることは頭の中に入れておく。
ついでに、前回のことを思い出してみる。
確か、20階に出てきたのは、ハイオークと狼の魔物六体で、飢餓状態で襲わせようとして、餌を抜かれた狼の魔物六体がハイオークを襲った――だったかな。
さて、今回はどうだろうか?
中に居たのは……おお! ハイオークらしき魔物と狼の魔物六体。
「ブハハハハハッ! 前任者は餌を抜き過ぎて襲われたようだが、我はそのような間抜けなことはしない! 飢餓状態を維持しつつ、少量だが餌を与え、襲われないように対策済み! 賢さが違うのだよ! 賢さが!」
ハイオークが宣言するように言う。
なるほど。前回の出来事を教訓にして、少し修正した訳か。
しかし、狼の魔物六体は俺を見向きもせずに、ハイオークをジッと見て涎をだらだらと垂らしている。
……あれ、前回と同じ狼だと思うのだが……ハイオークの味を覚えてしまったんだろうな。
前回のことを教訓にするのなら、狼の魔物六体も変えた方が良かったのかもしれない。
そこから先は前回とまったく同じだった。
ハイオークの号令と共に、狼の魔物六体はハイオークに襲いかかって……ぺろりと食べ尽くし、そのまま去っていく。
下手をすると、あの狼の魔物六体によってハイオークは狩り尽くされるのでは? と思いながらボス部屋を出て、上の階で待っていてくれた騎士たちと合流し、先へと進む。




