信じられなくても事実は事実
天塔・64階に、共に向かう選抜メンバーと会う――というか紹介される。
まず、隊長クラス。
冒険者ギルド・総本部側代表――ラフト。
品質が高そうな服から一転、重騎士のような厚い鎧に身を包み、身の丈以上の巨大な槌を片手で軽々と持っている。
見た目以上の力の持ち主のようだ。
「いやいや、本気か?」
「妹を救いに行くのだ。兄が行かなくてどうする」
「そうかもしれないが……戦えるのか?」
「安心しろ。これでも元Aランクまで上り詰めているし、普段から鈍らない程度には天塔で戦っている。まあ、実戦に対する勘の方は間違いなく鈍っているが、それは64階に行くまでに取り戻そう」
……まあ、本人が納得しているのならいいか。
家族を助けたいという気持ちはよくわかる。
それに、バジリスク・特殊個体を相手取ろうとするのなら、少なくともAランク以上でないと駄目だろうから、基準は満たしていると言ってもいい。
次、商業ギルド・総本部側代表――ビネス。
こちらも品質が高そうな服から一転、体の各所に投擲用らしきナイフが仕込まれた軽装に身に纏い、矢筒を背負い、何やら妙な力を感じられる弓を手に持っている。
なんというか……野戦的?
「えっと……」
「……ビライブお兄さまを救い出すのに、私以上の適任が居るとでも?」
「いや、聞きたいのはそういうことではなく……」
「安心しなさい。そこのと同じランクというのは癪だけれど、私も元Aランクよ。ビライブお兄さまが天塔で消息を絶ったから、そこを調べるついでにね。まさか、64階まで行っていたとは思わなかったけれど」
まあ、戦えるなら構わない。
ただ――。
「ああ? 同じランクが不服なのは僕も同意見だ。けれど、そもそも同じランクであったとしても、その中で差があるのは明白だ。そこのところを弁えて欲しいな」
「あなたにしては殊勝な心掛けね。つまり、同じランクであっても、私の方が上だとわかっているってことよね?」
「あ?」
「は?」
睨み合う二人。
できれば仲良くして欲しい。
少なくとも、連携は取れる程度には。
「いやはや、何やら大事になってまいりましたな。ですが、これが双方にとって良い関係になるきっかけになってくれるといいのですが……期待していますよ」
睨み合う二人を呆れた目で見ていると、そう声をかけられる。
その人物は、騎士団の副団長。
天塔・31階で俺に推薦状を書いてくれた、三十代くらいの男性だ。
王家側の隊長クラスである。
「頼りにしている」
「ご冗談を」
いや、冗談でもなんでないのだが。
割と……いや、マジで本気なのだが。
あっ、もしかして、ラフトとビネスのことと、バジリスク・特殊個体のことの両方だと思っているのかな?
安心して欲しい。
両方共に頼りにしている。
という三者が、隊長クラスで、その下に各勢力の選抜メンバーが居る、という形だ。
大体どこも数十人居るのだが、全員でバジリスク・特殊個体と戦う訳ではない。
まあ、そもそもバジリスク・特殊個体と戦うと決まった訳ではないが……石化している「王雷」に手を出したら動き出しそうなんだよな、アレ。
だから、戦うメンバーも居るのだが、そちらは選抜の中でも精鋭だけ。
選抜メンバーの大半は、バジリスク・特殊個体と戦闘になった場合、石化した「王雷」が傷付かないように守ることと、もしもの場合の61階までの逃走経路の確保、あとは物資の運搬などといったことである。
なので、大半はまともというか、別に気にしない。
しかし、バジリスク・特殊個体と戦闘を想定した精鋭の方――そちらには、少し言いたいことがある。
まず――。
「よろしく頼むぜ! ……ん? どこかで会ったような……」
「よろしくお願いしますね。冒険者ギルド・総本部よりも商業ギルド・総本部の方が頼りになると……おや? 一度お会いしたことがあるような……」
「は? おい、待てよ。商業ギルド・総本部のヤツの方が頼りになるってのは納得できねえな! 頼りになんのは冒険者ギルド・総本部に決まってんだろ!」
「やりやれ。冒険者ギルド・総本部の者は現実が見えていませんね。素直に認めた方が楽になりますよ」
「ああん?」
「ふふふ」
冒険者ギルド・総本部所属パーティのリーダーと、商業ギルド・総本部所属パーティのリーダーが睨み合う。
というか、この二つのパーティ……憶えがある。
アレだ。「穏やかな木漏れ日亭」の食堂で暴れようとして、俺が魔法で外に放り出した二つのパーティだ。
それがわかったのは、直ぐそこに、あの時見たそれぞれの奥さんが居るからである。
なんとこれが、と言うべきか、共にAランクで、その中でも上位の実力者――戦闘に関してはAランクで一番と言われているパーティらしい。
信じられない。
ただ、今はリーダーがそれぞれの奥さんに呼ばれて、喧嘩するな、仲良くしろ、と片や激しく、片や穏やかだがどこか怖い感じで説教を受けている。
いやいや、上で喧嘩されても困るので、もっと言いきかせて欲しい。
ちなみに、パーティメンバーの方は既に仲良くしていて、穏やかに話しながら連携についての確認をしているようだ。
リーダー……メンバーを見習って欲しい。
ただ、ここはまだまともというか、奥さんから念を押されているようだし、メンバーが優秀そうなので大丈夫だと思う。
それよりも信じられない……いや、信じたくない存在が居るのだ。
「あれ? お兄さん、どこかで会った? もしそうなら、こうして会ったのは運命。聞いたところによると、王家所属みたいだけど、どう? 冒険者ギルド・総本部所属にして、共に大成功物語、体験してみない?」
俺の記憶が確かなら、天塔・31階から上は「探索許可証」が必要だと教えられたあと、王都・ガレットに戻ってきた時に勧誘してきた者の中の一人、だったはず。
成功してみない? みたいなことを言ってきたヤツ。
改めて見ると、金髪で顔立ちも良く、今は軽装に二本の剣を腰に交差させて差している。
これが、こいつが……Sランクで、連絡が取れた中で最強のヤツだそうだ。
「いや、意味がわからん」
「あれ? なんか前にもそんな返しを受けたような……気のせいか! それにしても、なんともご機嫌な依頼だから、頑張っていこうZE!」
別の人に変えて欲しかった。
ちなみに、他にもこいつに勧誘されたような……というヤツをちらほら見かけたのだが、どれもS、Aランクらしい。
何か納得できなかったからだろうか……不安になってきた。
俺の理性……もつかな。




