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賢者巡礼  作者: ナハァト
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どちらが先かは重要な時がある

お昼はメンテナンスだったので、それと合わせて投稿します。

 とりあえず、これから反乱を起こすといっても、そう直ぐという話ではない。

 リノファ王女の呪いが解けなければ直ぐに行動を起こす予定だったことから、元々ある程度の準備はしていたようだが、今は少しばかり余裕ができたため、そこを準備時間にあてる、と。

 それでも急いだ方がいいのは間違いないため、実際に行動を起こすのは大体一週間後だそうだ。

 その間に他所で反乱を起こす仲間たちに行動開始の合図を送り、動きを同調させるらしい。

 なんでも、国内中央――王都とその周辺は「スキル至上主義」の影響が強くなっていて、逆に王都から離れれば離れるほどその影響は薄くなっていくのが現状であり、隣国と接しているところはさらに薄くなっている――というよりは、反対の立場である。

 反乱軍は、テレイル王子とリノファ王女を旗頭にしたゼブライエン辺境伯領軍が筆頭となり、思いと志を同じくする人たちと合流しつつ、「スキル至上主義」で苦しんでいる人たちを助けながら王都、王城を目指して進軍するそうだ。

 ちなみに、俺の居た公爵領は王都近辺で、そこを通るように調整してもらった。

 他に国内端の三方から同時に別の領軍が動き出し、王都で合流予定である。

 ただ、いくら王都で合流するといっても、もっとも狙われるのはテレイル王子とリノファ王女が旗頭のゼブライエン辺境伯領軍なのは間違いない。

 なので、俺はテレイル王子とリノファ王女の護衛として、二人から直接雇われた、という形を取ることに――なりそうだったのだが、そこでテレイル王子が待ったを入れる。


「いくら私が直接雇ったとはいえ、護衛は護衛でしかないため、それだけだと少し立場が弱いかもしれません」


 そう言って、少しだけ考えたあと……テレイル王子はニッコリと笑みを浮かべる。

 その目は「新緑の大樹」のリューンさんに向けられていた。


「こうしてリノファの呪いを解いてもらった訳ですし、いまさら疑う訳ではないのですが、改めて確認です。凄腕、なのですよね?」


「あ、ああ、いえ、はい。視界全体を覆うようなほどの炎の壁で『ゴブリ――』、第三特殊騎士団の行く手を遮りました」


 ところどころ言い直しながら、リューンさんがしっかりと答えた。

 テレイル王子の目が俺に向けられる。


「アルム」


 最初から名は教えていたが、漸く名を呼ばれたような気がする。


「アルムが母を救いたいという気持ちと、私がリノファを救いたいという気持ちは同じであると思っています。お互い大事な人を助けたいという思いは理解できるので、私たちは信用し合えると思っています」


 それは俺も思っていたことなので頷く。


「なので、色々と省いて手っ取り早くいきましょう」


 テレイル王子はリノファ王女をチラリと見て、笑みを浮かべる。


「書面などの公的に残るモノは時間がなくて無理と言い訳し、形式上、義兄弟として反乱に参加した、ということにしませんか? その方が私としてもやりやすいですし」


「いや、意味がわからない」


 正直に、何故そうなったのか? と真面目に問うと、至極簡単で明解な答えが返ってきた。

 要は、俺の魔法の力が強過ぎるのだ。

 反乱軍といっても、別に一枚岩という訳ではない。

 共通の目的で行動は共にするが、所謂、派閥というのが内部にはある。

 その派閥による俺への勧誘合戦で、内部分裂してもおかしくない可能性を、テレイル王子は考えていると教えられた。

 いや、そこまで……と思うが、改める。

 考えてみると、無のグラノさんたちもこれで一国を相手にできると言っていたし、実際多少流す魔力が増えただけで、檻が檻でなくなったのだ。

 その力を欲しがる者、利用しようとする者が現れてもおかしくないのはわかる。

 テレイル王子とリノファ王女の護衛という立場でもいいが、結局のところ護衛は護衛でしかなく、それだけだと完全には守り切れないというか、口頭だけでも義兄弟だと伝えた方がより確実――俺がそういうことを気にせず動くことができるらしい。

 それに、テレイル王子、リノファ王女、ゼブライエン辺境伯としても、俺の立場がより強い方が色々とやりやすい、とのこと。

 俺が自由に動けるための処置ということなので、納得する。


「ただ、二つだけ言いたいことがある」


「何かな?」


「まず一つは、俺は確かに魔法の力は強いが、それだけだ。身体能力的にはそれほどでもないので、誰か護衛を付けて欲しい」


 ほんと、魔法以外はまだまだなので。

 ただ、言ってみるものである。

 ゼブライエン辺境伯からの要請で、「新緑の大樹」が俺の護衛に就くことになった。

 よろしくお願いしますと頭を下げる。


「それで、もう一つは?」


 尋ねてくるテレイル王子に、俺は真剣に大事なことを尋ねる。


「義兄弟ということなら……どちらが兄で、どちらが弟に?」


「私、リノファだけではなく、弟も欲しかったのです。なので、私が兄で、アルムが弟でいいのでは?」


 ニッコリと笑みを浮かべるテレイル王子から、決して譲る気はないという意思が伝わってくる。


「待った! 見たところ、同じくらいだよな。それに、いまさら上が居るとか想像できない。俺が兄でもいいのでは?」


 反論。

 テレイル王子との間にバチバチと火花が散ったような気がする。

 ………………。

 ………………。

 双子、ということでテレイル王子と固い握手を交わした。

 それと、テレイル王子とリノファ王女からは、対外的には義兄弟として接しなければいけないと、「王子」、「王女」という名称を取り払い、口調はそのまま、間違っても変な敬語は使わないように、と念押しされた。

 気を遣うな、ということなので、そうする。


 そして、それから八日後の朝。

 ゼブライエン辺境伯領軍が王都に向けて出兵する。


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