目の前のことより気になることもある
二人が泣き止むまで大人しく待つ。
それにしても、「王雷」のクララの兄・ラフトが冒険者ギルド・総本部の統括で、ビライブの妹のビネスが商業ギルド・総本部の統括とは。
というか、当時を知っている二人って、今の年齢はいくつ……いや、考えないでおこう。
ドワーフもエルフも長命種。
それも、確かエルダードワーフとハイエルフという、その中でもさらに長命で強い種族のはずだ。
当時を知っていても、生きていても不思議ではない。
そう思っていると、いつの間にか泣き止んでいたラフトが笑い出す。
「あっはっはっはっ! さすがは僕の妹だ! そう簡単にやられる訳がない!」
それはビネスも同様で。
「ふふふ。さすがはビライブお兄さまです」
既に泣き止んでいて、どこか嬉しそうだ。
二人は俺に視線を向けてくる。
「お前も良くやった! 歴代最高到達階というだけでなく、よくぞこの情報を伝えてくれた」
「迂闊に手を出さなかったのも正解ね。下手に手を出していれば、その特殊個体というバジリスクによって破壊されていたかもしれないもの」
「これで希望は見えてきた。冒険者ギルド・総本部主動で――といきたいが、こればっかりは質だけではなく数も必要だ。商業ギルド・総本部と……いや、王家とも、三柱として共同すべきだな」
「あら? あなたにしては殊勝な心掛けね。けれど、私としてもまったく同じ意見よ。万が一もあってはいけない。可能な限り不安要素は排除して、万全の態勢で行わなければ失いかねない」
「……一時休戦、だな」
「……そうね。今後のことは、これが終わったあとに考えましょう」
言葉通りに、協力し合うということを示すように、ソファーから立ち上がったラフトとビネスは握手を交わす。
「二人なら、そう言ってくれると信じていた」
ジルフリートさんも立ち上がり、握手を交わしている二人の手の上に自分の手を置く。
冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の対立が終わり、そこに王家も加わり、本当の意味での三柱となる――歴史的瞬間を俺は目撃した。
――と心の中で思いつつ、さすがにここで俺が立ち上がってさらに手を置くのは違うな、と考えていると、視界の端で一瞬だが本棚が動いたように見える。
……まさか、暗部の隊長に読んだことがバレたのか?
―――
少なくとも、俺に向けられる視線というか気配のようなモノは強くならなかったので、多分バレていないと思う……俺が読んだ、ということは。
なので、大丈夫だと思う。俺が読んでいたところを見ていたであろう暗部からの密告がなければ、だが。
それに、今はそちらを気にしていられないというか、目の前の話に集中だ。
まずはという形で、現在の対立について説明される。
「……ということは、冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の対立は元々そういう傾向にあったが、大きくなったきっかけは、『王雷』が居なくなって、ラフトがビライブのせいと言い、ビネスがクララのせい、と言い始めたこと、と?」
ジルフリートさんからそう説明され、俺が確認のためにそう口にすると、二人は申し訳なさそうに縮こまる。
ちなみに、二人は「さん」付けは要らないとハッキリ言われた。
大切な情報をもたらしてくれた恩人に、「さん」付けはさせられないと。
それはいいのだが……まあ、家族を失って思わず、といったところだろうか?
もちろん、二人も時間が経って冷静になったそうだが、当時は一ギルド員で相手よりも優位に立とうと頑張った結果、その時はもう統括という立場になっていたそうだ。
それは原動力になっている、と言わないだろうか? ……言わないか。
それで、冷静になって見ると、今のままでは行き着くところまで行き着く可能性があったため、それではいけないと統括権限で対立を緩め……今に至ると。
……そういえば、どこかの時期で一旦落ち着いた、みたいなことを聞いたな。
「では、今回の件で、もう対立はやめる、と?」
「そうだな。冒険者ギルドの方が上であると証明はされただろうし、上に立つ者としての寛容さは見せるべきだろう」
「そういうのは、商業ギルドのように世界を回せるようになったから言いなさいよ」
「は?」
「あ?」
煽るように睨み合う二人。
行った傍からバッチバチである。
冷静さはどこにいったのだろうか。
多分、この二人は根っこの部分が似ているというか、同じではないだろうか?
だから、対立するのが普通なんだろう。
まあ、俺としては、面倒な勧誘さえなくなってくれれば、それで構わない。
そのための改善として、まずは「王雷」の救出なのだが――。
「まず、ハッキリさせておきたいのだが、石化状態は解いて大丈夫なのか?」
ジルフリートさんが、ラフトとビネスの二人に尋ねる。
それは俺も知りたい。
二人を呼んだのは、そこを確認、あるいは判断してもらう意味もあったのだろう。
答える前に、ラフトが俺を見る。
「確認するが、石化はそのバジリスクの特殊個体で間違いはないな?」
俺が頷くと、ビネスが嘘ではないと言う。
「なら、問題ない。クララもビライブも。もちろん、ニーグもな。石化能力が強くければ強いほど、それは時をとめるのと変わらない。バジリスク。それも特殊個体と認識できるようなモノであれば、解除しても石化した時からそう変わらないだろう。まあ、クララたちが時間の流れを意識しているかは別だが……そういえば、三人だけか? リタ……『王雷』は四人パーティなのだが?」
ラフトがそう尋ねてくる。
そうか。それは知っているよな。
でも、今は言えない。
水のリタさんから了承を取っていないから、俺が勝手に言う訳にはいかないのだ。
「……いや、俺が見たのはその三人だけだ」
「そうか。そのバジリスク・特殊個体にやられたのかもしれないな」
神妙な表情を浮かべるラフト。
いや、生きている。
スケルトンとして、だが。
「……弔い合戦かもしれないわね」
ビネスも同様に神妙だ。
……いや、だから生きているから、弔いとは違うような……いや、でも、肉体としての死はバジリスク・特殊個体の石化が間接的に関わっていると言ってもいい訳だし、あながち間違ってもいない……気がしないでもない。
違うと言えないが、少しつらい。
そのあとは、天塔64階まで向かい、石化した「王雷」の回収と、バジリスク・特殊個体との戦いを想定して、冒険者ギルド、商業ギルド、王家から選抜された人員を集結させることと、石化解除に必要なモノを集めるのにも協力し合うということを話し合った。




