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賢者巡礼  作者: ナハァト
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不意に見つかる時があるから要注意

「再び現れたその心意気や良し! さあ、再戦だ!」


 王城の門に着くと、以前も絡まれた後輩門番が再び絡んできた。


「さあ、来い!」


 後輩門番が俺に向けて槍を構える。

 いや、再戦も何も一度も戦っていないのだが?

 それに、今日は以前と違う。


「お前はまたそんなことを!」


 先輩門番が後輩門番の頭を叩く。

 一応軽くではあるのだが、兜を被っているので手が痛くないのだろうか?

 そのまま先輩門番は後輩門番の足を払って倒し、覆い被さって腕を取り、流れるように体の向きを相手の腕を中心にして回転させて、腕を極めながら体を倒しつつ、自身の足を後輩門番の首にかける。


「ちょっ! 先輩! 無理! 無理無理!」


 取られた腕が完全に極まっているためか、後輩門番はつらそうだ。

 解放して欲しいというささやかな抵抗なのか、後輩門番は先輩門番の足を空いた手でぺちぺちと叩いている。

 先輩門番はそれでもやめない。

 いいぞ。もっとやれ。と思いつつ、先輩門番に声をかける。


「もしかして、以前と今回以外にもこんなことを?」


「いや、絡んでいるのはお前だけだな」


「門番だからな! それくらいの見極めはできる!」


 後輩門番が自信満々に言う。

 その姿は無様だが。


「………………もっと厳しくしてくれ。あっ、行っていいか?」


「言われずとも。それと、あんたが王家所属なのは通達されている。城の前にも兵が居るから、そっちで用件を伝えてくれ」


「わかった。助かる」


 後輩門番の絶叫が背後から聞こえてくるが無視して王城へ向かう。


     ―――


 先輩門番に教えてもらった通り、王城前に居る兵士に話を通し、迎えに来たメイドのあとを付いていく。

 辿り着いたのは、以前も来た部屋。

 ここで待つ。

 王城の部屋ということで豪華な部屋で、自分はこういう部屋には住まないだろうなと思っているので、どこか落ち着かない。

 また、以前と違ってジルフリートさんも直ぐ現れない。

 王さまだし、忙しいのだろう。

 だから、手持ち無沙汰だ。

 ……一応、壁際に本棚はあるのだが、勝手に読んでいいのだろうか?

 俺が案内された訳だし、ここは客室だと思う。

 読んでいいと思うし、時間潰し的な内容の本ばかりだと思うが、だからこそ、と考えられなくもない。

 実は秘密だった本とか、暗号に使われていたり、執事とメイドが本に伝言を残して秘密の逢瀬を重ねている……あるいは本の中をくり抜いて金貨を隠している、あるい宝の地図であったり……いや、考え過ぎか。

 そんな訳な……いや、待てよ。そう考えることも見越して――という可能性も考えられる。

 万が一、ということもあり得るのだ。

 それならそれでいいが、問題は見つけた場合である。

 見つけた瞬間、運悪く見られて発覚したり、はたまたうしろに暗殺者が立っていた、なんてこともあり得るだろう。

 くっ。迂闊に手が出せない。

 それ相応の覚悟が必要だ。

 どうする……どうすればいい……ここは思い切って……いや、しかし……。


「いや、待たせてしまったな。抜け出せない、つまらない会議があって……どうかしたのか? 難しい顔を浮かべているが?」


「いや、なんでもない」


 考えている間にジルフリートさんが来たので、そのまま話をするために、対面するようにソファーに腰を下ろす。


「それで、何やら報告したいことがあるということだが、どういった内容だろうか? 天塔(ヘブンタワー)で何か妙なモノでも見つけたか? 新種でも見つかれば実績となって、王家としても助かるのだが」


「………………」


 悩む。

 ここに来て、どう説明したモノか。

 そこら辺を考えていなかった。

 けれど、確かなことは一つだけある。


「……できれば、知る人は少ない方がいいと思う。知ってどうこうはできないと思うが、それも絶対ではないし」


 多分、居ると思う。

 だって、相手は王さまだし。

 俺がそう提案すると、ジルフリートさんは俺の顔をジッと見て……。


「………………いいだろう。それに、私が直接引き抜いた人材だしな。信じているとも」


 多分、俺以外の人たちに向けて言ったのだろう。

 ジルフリートさんが「呼ぶまで退け」と言うと、なんというか空気が軽くなったというか、気配が薄れたというか。

 やっぱり居たな、影ながら守っている存在が。

 正直俺が一人で居た時から居たような気がするから、迂闊に本棚をいじらないで良かった。

 ……あっ、もしかすると、そういった人たちの連絡に使われていた可能性も。


「これで大丈夫だ。さあ、話してもらえないか?」


「ああ、わかった」


 とりあえず、俺が水のリタさんの記憶を持っていることは省いて……一気に61階まで上り、そこから64階まで進んだこと、それと64階で見た光景をそのまま一気に伝える。

 ジルフリートさんも驚きを露わにして口を挟もうとしてきたが、途中からまずは俺の話をすべて聞くことにしたようだった。

 そして、最後に――。


「それで、石化したままのニーグ王子たちを運び出そうとも、バジリスク・特殊個体が邪魔で、どうしたものかと思い、相談に来ました」


 そう締めくくる。

 ジルフリートさんは少しの間考えたあと――。


「……いくつか疑問があるが、一つだけ聞いておきたい。何故、その石像がニーグ王子たち――『王雷』であるとわかる?」


 まあ、当然の疑問だな。

 でも、こればっかりは仕方ないのだ。

 ただの石像と言えば動くかどうかわからないし、動いても小規模というか、万全の態勢とはならないだろう。

 万全の態勢で動く必要がある以上、その石像が誰であるかを伝えなければいけなかったのだ。

 だが――。


「申し訳ないが、それは言えない。それは俺だけに関わることではないからだ。ただ、言ったことは紛れもない真実だ。嘘偽り、謀りの類では一切ない」


 無のグラノさんたちのことを軽々しく言う訳にはいかないというのもあるが、そもそもそっちを話しても信じてもらえるかどうか怪しいというのもある。

 少しの間、ジルフリートさんと見つめ合い――ジルフリートさんが息を吐く。


「……どのみち私では判断はできないか。しかし、内容が内容だけに、真実であれば………………その話、人を呼んでもう一度してもらってもいいか? 真偽がわかる者が居る」


「別に構いませんよ」


「そうか。助かる」


 そう言って、ジルフリートさんは立ち上がって部屋の外へ出て行った。

 どんな人が来るのだろうか……というか、また待つことになるのか。

 ………………また気配が戻って来たような気がするが、本棚の本……読んでいいのか悩む。

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