日常は生を実感できる
巨大な何かが動いても問題ないくらい広い――それこそボス部屋並に広い部屋の中に、ニーグ王子、クララ、ビライブの石像があった。
他に石像はないのは……多分、ここまで来ることができる人が居ない――現れていなかったからだろう。
冒険者ギルド・総本部で把握しているのも62階までだし。
三人の石像は水のリタさんの記憶の中にある当時そのままの姿で、まるで今にも動き出しそうなほどだ。
……いや、それは願望だろう。
まあ、それだけ生きているように見えるからかもしれない。
……ん? でも、石化したモノって解除したらどうなるのだろうか?
石化は、ある意味時間をとめるようなモノ。
解除すれば、再び時間が動き出す……こともあるのだろうか。
欠片も欠けることなく、完全なままなら、どれだけの年月が経っていようとも………………いや、こればっかりは俺だけで判断はできないな。
三人の石像もできれば持ち帰りたいが……それも難しい。
何故なら――。
「シュロロロ……」
バジリスク・特殊個体も居るからだ。
今は眠っているようだが、これ以上近付けば起きるだろう。
勝てるかどうか……で言えば勝てると思う。
それだけの魔力は受け継いでいるから。
しかし、それは周囲に及ぼす被害を何も考えなければ、だ。
戦い始めれば、周囲がどうなるかわからない。
ここで言えば瓦礫になるか、焦土のようなことになると思う。
バジリスク・特殊個体にダメージを与えようと思うなら、それぐらいの魔法を使わないと駄目な気がする。
――特殊個体。
並のバジリスクであればいくらでもやりようがあって、それこそ瞬殺できると思うが、特殊個体の方は実際に見ると……さすがに瞬殺は無理な気がする。
最初から全力合成魔法でいけばできそうな気もするが、その場合は三人の石像も無事では済まない。
アブさんの即死魔法なら……う~ん。弾きそうな気がする。
やはり瞬殺は駄目だな。
三人の石像がなければできそうだが、あれは破壊してはいけない。
もし、本当に石化状態を解除できて再び時間が動き出すなら、尚のことだ。
………………。
………………。
良し。一旦退こう。
ここでいつまでも見ている訳にはいかないし、自分だけで結論を出さない方がいい。
誰かに相談するべきだ。
水のリタさんに代わって三人の冥福を祈りに来たのだが……とんでもないモノを見つけた気がした。
―――
天塔・1階。
行った時と同じく数日かかったが、なんとか61階まで戻り、そこから魔法陣で1階に戻る。
「おっ! 兄ちゃん、無事だったんだね! 良かったよ。知った、話した相手が無事なんてのは! どうだい? 一本」
以前話した屋台のオヤジさんが、塩胡椒がしっかりと効いた肉汁滴る焼き鳥肉数個を串で刺したモノを差し出しながら、嬉しそうに話しかけてくる。
俺の無事を本当に喜んでくれているようだ。
61階以降に罠で死を実感して、心が少しばかり乾いていたが、屋台のオヤジさんの行動で少し潤う。
三人の石像にバジリスク・特殊個体と、どこか緊張していた体と頭も、余計な力が抜けていくようだ。
「ありがとう。いただくよ」
もちろん、お金は払う。
美味い。美味い。
「それで、今回はどうだったんだい? そこそこ実りはあったか?」
「そうだな。まあ、そこそこ」
さすがに言っても信じない……いや、信じられないだろうと言わない。
まあ、言っていい内容とも思えないし。
僅かだが満たされて潤ったあと、屋台のオヤジさんにお礼を告げて、天塔を出る。
―――
王都・ガレットに戻ってきた。
相変わらず勧誘される。
Fランクだと言えば手のひらを返されるのも変わっていない。
しかし、どこか日常感があり、生を実感できなくもないので、今なら許せ――。
「おっ! そこのお兄さん! もしかしてここに来たばっかり? それなら、商業ギルド・総本部所属になってみない? しかもアレだよ? 今日はすっげーレアな日――『ぺったんの日』だから! え? 知らない? そっかそっか。来たばっかりだもんね。なんと今日、受付嬢が全員ぺったんなの! 『壁ぺったん』に『隠し小山ぺったん』と『認めない闇ぺったん』!」
ないな。いや、やっぱり駄目だ。
意味がわからないし、放っておこう。
「あれ? 反応薄いね。あっ、もしかしてお兄さん巨乳派? そっかそっか。ごめんごめん」
おい、こら。人を勝手に判断して去っていくな。
そこはせめて、俺がFランクとわかって手のひらを返してから去っていけ。
はあ……と息を吐いて、先へ進む。
まずは「穏やかな木漏れ日亭」に宿を取り、次に王城へ。
そもそも石化した直後とかならまだしも、長い……とても長い石化状態から解除できるようなモノはあるのだろうか?
まずは手近なところに聞いてみようと思ったのだ。
王城……というより王家なら、そこら辺のことも詳しくわかるかもしれない。
冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部は、頼っていいか微妙というか、どちらか先に行った方を優遇しているのかと、変な文句を言われそうで面倒というのもある。
それに、一応王家所属ではあるし、そもそも三人の石像の中にはニーグ王子が居るのだから充分王家案件だ。
問題は王家――現国王である、ジルフリートさんに直ぐ会えるかどうかだ。




