こういうのはハッキリと言った方がいいと思います
天塔・60階。
漸くここまで来たという感じ。
正直なところ、ここまで来たが……もう出たい。
今直ぐ飛び出したい。そこら壁を破壊して、「俺は飛ぶことができる!」と言いながら飛び出したい。
まあ、実際竜杖に乗って飛ぶことはできるが。
そういうことではなく、陽の光をさらに浴びたくなっている。
……一人だから、だろうか。
仲間が居れば違う気がしないでもない。
このまま考えていても陰鬱になりそうなので、気持ちを切り替えて先に進む。
時間をかけて進むが、ボス部屋に向かう前に魔物が出ない部屋があるので、そこで炎光線の檻で消費した魔力をきちんと回復しておいた。
何しろ、水のリタさんの記憶によると、60階のボスは通常でもレッドドラゴンである。
そう。竜種。
レッドドラゴンはその中でも火属性に特化していて、その口から吐かれるドラゴンブレスの炎は、ミスリルすら容易に溶かすほどの熱量だと言われている。
確かにそれも注意しなければいけないが、何よりヤバいというかマズいのは、レッドドラゴンの火属性特化は攻撃だけではなく防御にも関わっているということだ。
俺が一番得意としている、最初に受け継いだ火属性が通じない可能性が高い。
竜も個でその強さは当然変わるが、レッドドラゴンが火属性に強いのは間違いない。
対して水属性には弱いので、水属性魔法を使えばいいのだが……受け継いでからそれほど日が経っていないし、大丈夫だろうか?
ドラゴンが相手となると大威力、大魔力の魔法になるだろうし、細かいのだとまだしも、大きいのだとそのまま暴走しそうな気がしないでもない。
まあ、いざとなれば、それもアリだろう。
ボス部屋内を水で満たして呼吸できないようにして、俺は水属性か風属性で空気を確保すれば……良し。いける。
それに考えて居ても仕方ない。
先に行くのは決まっているし、あとは覚悟の問題だけ。
………………。
………………。
良し。いくぞ。
ボス部屋の扉を開けて中に入る。
「言いたいことがあるのなら、ハッキリ言って欲しいな」
「……だから、俺はお前のこ」
ボス部屋の中にレッドドラゴンは居なかった。
水属性魔法を使う必要はない、ということだが、問題はレッドドラゴンが居ない代わりに、人の三倍は大きいブラックドラゴンとホワイトドラゴンが居るということだ。
ブラックドラゴンは闇属性特化なので光属性が有効……問題ない。
ホワイトドラゴンは光属性特化なので闇属性が有効……こっちが問題。
闇属性……ない。
どうする? 一気に危機的状況だ。
いや、違った意味でも危機的状況である。
それは、ブラックドラゴンとホワイトドラゴンが向き合っており、男性と思われるブラックドラゴンは女性と思われるホワイトドラゴンの両肩を掴んで……聞こえてきた言葉から判断するに、どうやら告白の最中だったようだ。
しかも、それを俺が邪魔した形である。
静まり返っていると、扉の開け閉め音ってそれなりに聞こえるからな。
その上、ブラックドラゴンが俺の存在に気付き、こちらを見て固まっている。
頬が赤くなっている……可能性はあると思うが、鱗が黒いのでわからない。
ホワイトドラゴンからは、いいところで邪魔して……という僅かながら非難するような視線を向けられていた。
申し訳ないと思い、頭を下げる。
「……あっ、お構いなく。ただの通りすがりの凄腕魔法使いなだけですから。あっ、もう行きますので、どうぞ、続きの方を」
ぐっ、と入ってきた扉を押してみるが、やはり開かない。
仕方ないので奥の扉に行くしかないが……少し遠回りしていくか。
ボス部屋の隅の方に歩を進め、大丈夫。聞いていませんよ、と両耳を両手で塞いでアピールしておく。
「いや、待て! 俺はここの守護を任されている! 通す訳にかいかない!」
気にせずに、と言ったのに、ブラックドラゴンが俺の前に立ちはだかった。
俺は両耳から両手を放し、呆れた目を向ける。
「いや、相手をするのなら俺ではなく彼女の相手をするべきでは? 俺に構っている時ではないだろう? 言うべきことをまず言うべきだと思うが?」
「そうだね~! きちんと言ってくれないかな~! 聞きたいな~!」
ホワイトドラゴンがうしろで手を組み、上半身を少し前に、相手を窺うように顔を突き出して、ブラックドラゴンに向けてそう言ってきた。
俺は味方です、とホワイトドラゴンに向けて頭を下げておく。
「い、いや、その、ほら、今はそういう時ではないから、その……あとで」
「あとって……私は今言って欲しいのに」
「あ、え……いや、その」
返答に困るブラックドラゴン。
やれやれ。仕方ない。後押ししてやるか。
「そうだそうだ~! 今言ってやれ~!」
「いや、ちょ! 黙れ、人間! 今直ぐ口を閉じろ! 少しでも口を開いたら殺す! というか、今から殺してやる!」
「俺を殺す時間があるのなら、その時間を使って言えよ」
「良し! こ」
「そうだそうだ~! 私は今直ぐ聞きたいのに~!」
「ええ! いや、ちょっ、待って!」
ブラックドラゴンが殺意を向けてくるが、それでどうにかなる前にホワイトドラゴンが詰め寄ってきたので、ブラックドラゴンはそれどころではなくなった。
味方したから味方になってくれたのかもしれない。
正直助かった。
何しろ、真正面から戦って勝てる気がしない。
なんとなくだが、このブラックドラゴンは愛の力とかで弱点とかそういうのを無理矢理克服してきそうだし。
そう思っていると、ホワイトドラゴンがブラックドラゴンからは見えないように指先を動かして、先に行けと促しているのが見えた。
合わせて、奥の扉が少しだけだが勝手に開く。
ホワイトドラゴンがどうにかしてくれたのだろうか?
いいドラゴンだ。
なので、頑張ってください――と頭を下げると、ホワイトドラゴンからウインクを返された。
ホワイトドラゴンに詰め寄られてブラックドラゴンがワタワタしている間に密かに移動して、少し開いた奥の扉からボス部屋の外に出た。
「――て! 人間が居なくなっている!」
「そんなのいいでしょ? というか、これで邪魔者は居なくなったんだから、言えるでしょ? ね?」
「それは」
聞いていられるか、と俺は即座に駆けた。




