表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
262/614

浴びたくなりませんか?

 天塔(ヘブンタワー)・51~53階。

 推奨冒険者ランクA(天才)ということもあって、さらに注意深く、慎重に進んでいかないといけない。

 何しろ、俺は魔法使い。

 基本的な防御力は紙のようなモノだ。

 動きも別に素早くはない。

 一応、ドラゴンローブで攻撃を防ぐことはできるだろうが絶対ではないのだ。

 ドラゴンローブで覆われていない部分なら攻撃が普通に通るし、威力は防いでも衝撃はそのまま通ることだってあるかもしれない。

 いくら俺が超常と言ってもいい魔力を受け継いでいるとしても、物理は論外で魔法を使えなければ、あとは普通なのだ。

 明日の筋肉痛を気にしなければ、身体強化魔法全開で真正面からでも乗り切ることができると思うのだが……まあ、それをやった瞬間に翌日死亡確定だろう。

 なので、しない。

 本来ならここまで来ることができるような者ではないのだが、推奨冒険者ランクA(天才)でも充分に通用する魔法と魔力って……無のグラノさんたちの凄さが改めてよくわかる。

 それに、水のリタさんの記憶で天塔(ヘブンタワー)内の通路・経路がわかっているのも非常に助かっていた。

 遠距離からの不意打ち、遠回り、魔法をバラ巻きながら逃走――と取れる手段はなんでも取って、時間をじっくりとかけて進んでいく。


「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球(ファイヤーボール)』」


 ただの火炎球(ファイヤーボール)ではない。

 魔力を込めて、通路に隙間がないほどの巨大な火炎球(ファイヤーボール)である。

 その上で、一発ではない。

 連発する。

 何度も……何度も……。

 大体四、五発撃って倒せるかどうかが、51階以降に現れる魔物の平均だろうか。

 普通に耐えるのも居る。

 その場合は大抵火属性に強いヤツなので、別の属性で対処できた。

 それでも倒れない、あるいは俺が受け継いでいない属性だけが弱点――というのも居るので、その場合は魔力をさらにつぎ込んで力業でどうにかする。

 駄目なら逃げた。

 しかし、一度の戦闘での魔力の消費が大き過ぎる。

 巨大魔力四人分なので、余裕があるといえばあるのだが、だからといって限界がない訳ではない。

 一応、少しでも魔力消費を少なくするために、強いが消費も大きい魔法ではなく、少ない魔力で連発できる魔法を選択しているが……もっと効率がいい方法はないだろうか。

 ある程度時間をかけて進んでいるので。その分魔力も回復しているので尽きるということはないのだが、このまま強行した場合はさすがに尽きそうな気がする。

 他にも心配事があった。

 安全面を第一にしているので、一日かけて51階から52階に着き、そこからさらに二日かけて52階から53階に辿り着いていると、上に行くのに時間がかかり過ぎている。

 そうなってくると、今度は食料も怪しい。

 一応、王城の料理長の料理はまだ残っているが、その数は目に見えて減っていて、それがなくなってもあるにはあるが……う~む。

 あと、最大の問題と言ってもいいかもしれない。


「陽の光……浴びたい」


 切実である。

 本当に、切実である。

 陽の光をここまで望むとは思わなかった。

 なんというか、こう……健康……そう。健康的な意味で陽の光を体が求めている気がする。

 そのためにも、早く攻略というか、目的の階に辿り着きたいのだが……う~ん。

 ………………。

 ………………。

 思い付いた。

 やってみる。


「『赤燃 道先を遮り 留め囲いて 此処に縫い付け閉ざす 炎檻(ファイアケージ)』」


 自分を中に閉じ込めるようにして、炎の檻を作り出す。

 大きさは、縦横共に通路一杯にする。

 これで逃げ場というか、避け場はない。

 魔力をさらに込めると炎が光線のように圧縮されていき……ついでに熱い。それは我慢。

 結果。炎光線の檻が形成される。

 あとはこのまま移動できるかどうかだが……駄目か。いや、諦めるのは早い。結局のところ、これは俺の魔力で形成され続けている訳だし、というか受け継いだ記憶の中でそういうことをやっているのだから、あとは俺次第でできる可能性はある。魔法は自由だ。失敗してもいいじゃないか、ここはダンジョン。ここまで上階に来ると、俺以外の人の姿は見えないし。大丈夫。大丈夫。失敗しても次が……いや、失敗は嫌だな。

 ………………。

 ………………。

 どうにかなった。

 大切なのは、魔法を放つ時に狙いを付けるように、檻の位置を常に意識しておくこと……だろうか。

 それを実感した時、丁度通路の先で一つ目の巨大な人型魔物が俺に気付く。

 雄叫びのような咆哮を上げて襲いかかってきて、炎光線の檻を無視して突っ込んできた――が、そのまま炎光線によって縦にいくつか切り分けられて絶命した。

 良し。バッチリの威力だ。

 とりあえず、これで肉体がある系統は大丈夫だろう。

 死霊系は駄目かもしれないので、現れないことを願っておく。

 通用しないのには、マジで逃げよう。

 という訳で、炎光線の檻を維持したまま進む。

 魔力消費は大きくなったが、いざとなれば魔物が出ない部屋(安全地帯)で回復を図る。

 何より、これで多少強引に進むことができるようになったので、かなり速く進めるようになった。

 これが大きい。

 食料というか王城の料理長の料理も足りるだろう。


 天塔(ヘブンタワー)・54階~59階。


 順調に進むことができた。

 それでも中には一日では上階に行けない日もあったが、それでも命には代えられない。

 ……アブさんが居ればもう少し……いや、かなり楽なのに、と本気で思う。

 一週間以上かけて――漸く辿り着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ