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賢者巡礼  作者: ナハァト
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絵的に自分が悪く見えることだってある

「……そうか」


 俺が事情を話し終わると、テレイル王子はそれだけ言って目をつむる。

 何かを考えるような、大きな決断する前のような雰囲気だ。

 リノファ王女は、俺を見ながら泣きそうになっている。


「うっ……ぐすっ」


 泣いた。

 感受性が強いのかもしれない。

 ただ、俺を見ながら泣かれると、俺のせいのように見えなくもないから、できれば違う方向を向けて泣いて欲しい。

 ……どこかから訴えられないか不安だ。

 老齢の執事が、リノファ王女にそっとハンカチを差し出す。

 あの仕草……できる執事だ。

 俺の中の執事見習いの血が騒ぐ。

 対抗して俺もハンカチを……しまった。今はハンカチを持っていない。

 国をどうにかではなく、ハンカチをもらっておけばよかっただろうか。

「新緑の大樹」は怒りを隠さずに表していた。

 これだから貴族は……今のこの国は……と、俺がやられたことに対して怒ってくれているのが見てわかる。

 いい人たちだ。

 仲良くしたい。


「テレイル殿下!」


 ゼブライエン辺境伯がテレイル王子に向けて跪き、強い視線を向ける。

 そこには覚悟のようなモノが宿っているように見えた。


「やはり、今こそ立ち上がるべきかと! このままではフォーマンス王国は内部から腐り切り、この者の身に起こったこと以上のことが起こるやもしれません……いえ、既に起こっていたとしても不思議ではありません!」


 口調も丁寧なモノに変わっている。

 俺より酷い扱いは……まあ、居るだろうな。

 それが、今のこの国の実情だ。


「殿下が立ち上がるのであれば、私は殿下の剣と盾となり、腐敗した王家を討ち取ってみせます! この思いと考えは私だけではなく、幾人かの仲間も同じ思い、志を抱いております! 殿下が一声上げれば、その者たちも集まることでしょう! この国のために、その時が来たのです!」


 なので、どうか! と頭を下げるゼブライエン辺境伯。

 テレイル王子は少しだけ間を置いてから、俺を見てくる。


「事情はわかった。こちらの事情も話すので、よければそれで判断してくれませんか?」


「判断? なんのだ?」


「協力に足る相手かどうか。それと、こちらに協力してくれるかどうかを」


 ……テレイル王子の目は真剣そのものだった。

 俺は大きく息を吐く。


「聞こう」


 長くなるようなので、椅子を用意してもらい、座って聞く。

 あと、誰もこの部屋から出ていこうとしないので、俺以外は事情を知っているようだ。

 ……話は本当に長かったので、要点だけ纏める。


 まず、テレイル王子とリノファ王女は、「スキル至上主義」に反対の立場を明言しているのは間違いなかった。

 どこにも差があるのは仕方ないが、誰に得手不得手があり、よりできる方を優遇するのは仕方ないというか、より頑張っている方を応援したくなるのが心情である、と考えている。

 要は、相応であるべきだ、ということらしい。

 ついでに言えば、ゼブライエン辺境伯とあといくつかの貴族も、テレイル王子とリノファ王女に同調している。

 あっ。もちろん、俺が居た公爵家は「スキル至上主義」とずぶずぶの関係だ。

 滅びろ。

 それで、テレイル王子を旗頭にして、現フォーマンス王国に対して軍を率いて反乱を起こそうと画策しているそうだ。

 テレイル王子とリノファ王女がここに来たのは、リノファ王女の呪いに関してだけではなく、その反乱軍に合流する意味も含まれていた。

 リノファ王女の呪いが解けなければ、テレイル王子は反乱軍を率いて即時王都に向かう予定だったんだと。

 俺のおかげで、準備も整わずに進軍しなくて済んだと感謝された。

 ということなので、これ、いずれ反乱が起こったっぽいな。


 それと、リノファ王女に呪いをかけた呪属性魔法使いは、「スキル至上主義」によって王家に召し抱えられた者だそうで、王と第一王子による指示とのこと。

 つまり、テレイル王子とリノファ王女の父と兄。

 家族が? と思うが、元々家族としての関係性は希薄だったらしく、寧ろ「スキル至上主義」の反対を明言していたことで常々邪魔に思われているそうだ。

 また、第一王子の母は存命だが、テレイル王子とリノファ王女の母は既に病気で亡くなっていて、それも槍玉に挙げられてこき下ろすことがあるらしい。

 よし。そいつら殺そうと思った。

 それが呪いをかけるまでになったのは、リノファ王女が得たスキルが関係しているそうだ。

 スキルの詳細は自分の口からは言えないとテレイル王子から教えられなかったが、かなり影響力があるスキルだそうだ。

 この国だけではなく、世界的に。

 世に知れ渡れば発言力が大きく増すそうで、そんな人物が「スキル至上主義」に反対の立場なのは色々不味いと、殺しにかかってきたそうだ。

 いやもう、ほんと、ぶち殺してやろうと思った。


 そして、最後にテレイル王子は俺に改めて問うてくる。


「キミがなんとしても、どのような手段を用いても母を助けたいと思うように、私はなんとしても、どのような手段を用いてもリノファを助けたい。だから、そのために協力するし、協力して欲しい」


 テレイル王子の目を見て、その思いと覚悟は、俺と一緒だと思った。

 なら、答えは決まっている。


「ああ。協力してもらうし、協力しよう」


 俺とテレイル王子は力強く握手を交わした。

 という訳で、反乱……起こします。


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