応援の気持ちはきっと届く
王家所属として動くことにした。
なので、早速とばかりに、天塔・31階以降に進めるように手続きをお願いする。
騎士からの推薦状も渡した。
「………………ん? あれ? 確か、情報によると一昨日天塔に入って、昨日出てきたはず。なのに、もう31階に到達した?」
驚くジルフリートさんに向けて、到達したと頷く。
だから、騎士の推薦状があるのだ。
すると、ジルフリートさんが笑い出す。
「あははははは! もう31階に到達しているって! 何をどうすればそんな短時間で31階まで行けるのだ!」
どうすればって、どこにも寄り道せず最短で突き進めば行けただけだ。
あとはまあ、各ボスをどれだけ短時間で倒せるか、だろうか。
……まあ、俺はまともに戦っていないが。
精々、オーガの茶番の中で……いや、あれも俺は何もしていないな。
勝手に吹き飛んでいっただけだ。
「クラウが言っていたように規格外過ぎる! でも、そういう人物だからこそ期待が持てるというものだ!」
ジルフリートさんがそう言ってくる。
期待に応えられるだろうか?
天塔・31階以降に行ける「探索許可証」の発行は少し時間がかかるので、待っている間にもう少しだけジルフリートさんと話す。
「中立・仲裁の立場を強めるのではなく、根本的な問題解決はできないのか?」
「冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の対立をなくす、ということか?」
「そう。少なくとも、総本部以外――他のところでは多少はあるかもしれないが、それでもここまで明確な対立にはなっていない。それに、対立のきっかけとなったのはもう数百年も前のことなのだろう?」
「確かにここだけの対立であるのは確かだけれど、なくすのは難しい。両ギルドマスターは長命種で、そのきっかけの当事者なのだよ。時間が経ってかなり落ち着いたようではあるが、今でも思うところがあるのは間違いない」
当事者なのか。
そうなってくると、確かに難しいかもしれない。
「そのきっかけというのは?」
「当時の王の手記によると、天塔に挑んだある冒険者パーティが帰って来ず、全滅したと判断されたことにある。パーティメンバーに両ギルドマスターの身内が居て、全滅したのは互いに相手のせいだ、と言い争いを始めたのがきっかけのようだ」
それは、何かを言っても当事者ではないのだから口を挟むな、と言われそうだ。
となると、別の角度から考えて――。
「……なら、両ギルドマスターを変えるというのは?」
「無理だ。確かに対立はしているが、有能なのだよ。かなりの実績を挙げているし、数百年もギルドマスターで居られていることが何よりの証明だ」
確かに。駄目ならとっくに変えられているだろう。
となると、今直ぐどうこうというのは無理かもしれない。
いい案も浮かばないし、別のことを口にする。
「事情はわかったが、確かにどうしようもないかもしれない。なので、今はこっちでできることをしよう。といっても、俺がやれるとすれば、天塔の最高到達階の実績を挙げることか? 商業ギルド・総本部のような物量は、さすがに俺一人だと無理だし」
まあ、やれと言われれば……できなくもない、か?
50階以降に滞在して、狩りまくって素材はマジックバッグに入れれば全部持ち帰られるし。
ただ、それはこの国のずっと滞在するというか、居住すれば、だ。
さすがにその気はないので、できるとすれば最高到達階だろう。
「そうなるが……大丈夫なのか? 単独だと聞いていたし、実際に天塔に一人で入って攻略しているようだが、仲間は居ないのか? 当然だが、上に行けば行くほど危険なのだが……」
ジルフリートさんが心配そうにそう尋ねてくる。
まあ、今は居ないが、居ると言えば居る。
明かせない存在だが。
まっ、今は居ないけど。
今頃、どうしているだろうか?
元気にやっているだろうか?
……ちょっと会いたくなった。
でも、きっと今は自分のダンジョンにダンジョンマスターとして「青い空と海」の拠点作りを頑張っているのだろう。
俺はそんなアブさんを応援するよ。
頑張れ、アブさん。負けるな、アブさん。
何に負けるな、なのかはわからないが。
方向はわからないが、部屋の窓から外に向けてグッ! と拳を握って見せておく。
ジルフリートさん。そんな俺の行動は気にしないように。
「とりあえず、単独で大丈夫だ。まずは、行けるところまで行ってみる」
「そうか。その辺りの判断は任せるしかないが、それでももし何か必要な人員やモノがあるのなら言ってくれ。可能な限り対処しよう」
「わかった。……それじゃあ、今一つだけあるにはあるが――」
お願いしてみると大丈夫だった。
用意されたのは、「探索許可証」と大量の料理。
天塔・31階以降の攻略にどれだけの日数がかかわらないし、美味しい料理は活力の源である。
あればあるだけ助かるし、マジックバッグがあればこそ取れる手段だ。
期待の表れか、大量の料理を作ってくれたのは料理長だった。
試しにと少量を試食したが、どれも美味かったので、これで頑張れるというモノだ。
あと、ジルフリートさんが用意してくれた物に、回復薬と魔力回復薬があった。
一応マジックバッグの中に入ってはいるが、これもたくさんあっても困るモノではないため、ありがたく受け取っておく。
そうして、準備が整えば、あとは気力の回復。
「穏やかな木漏れ日亭」でしっかりと休み――翌日。
再び天塔へと向かう。




