いざという時は実力行使もいとわない
王城の一室で待たされていると、宿屋で会った、王家関係者と名乗っていた男性が再び現れた。
それは別に構わない。
こうして王城で会った訳だし、王家関係者というのも嘘ではないと、目に見えてわかったくらいだ。
ただ、それでも、気になる点が一つ。
……なんか服装が豪華なんだが。
具体的に言うのであれば、宿で会った時は、品質はまだしもシャツとパンツだったのだが、今は貴族が着るような豪華な衣服に、煌びやかなマントを羽織っている。
これで頭に王冠でも乗っていれば、王さまに見えること間違いなし。
………………。
………………。
「え? まさか……」
「正式に名乗ってはいなかったな。『ジルフリート・ラピスラ』だ。わかりやすく言えば、この国――ラピスラ王国の現王である。王家関係者で間違いはなかっただろう?」
ニヤリ、と王家関係者と名乗る男性――いや、この国の王さまが笑みを浮かべる。
「……ははあ。宿では不遜な態度で接してしまい――」
最近は出てこなかった俺の中の執事見習いの部分が呼んだ? 必要だよね? と反応して、王さまに向けて直ぐ跪く。
ヤバいな、どうする? 気付かなかったこととはいえ、普段通りの態度で接してしまった。
不敬罪が適用されてもおかしくない。
そうなった時は――魔法をバラまきながら逃げよう。
あとを追うのも難しいくらいの物量と威力であれば、逃げ切ることもできるはずだ。
いつでも仕掛けられるように魔力を練って――。
「ああ、それは気にしなくて構わない。名乗らなかったのはこちらの方であるし、そもそも公式での場でない限り、咎めようとは思っていない。まあ、逆に公式の場では気を付けて欲しいが……貴族でもなければそういう場には縁がないだろうから、大丈夫だろう。それに、こちらは協力をお願いする立場なのだ。その詳しい話を聞きに来たのだろう? それに、キミは他国の多くの王家と懇意にしている。ここでもそのように接して欲しいので、普段通りで構わない。特に気を遣う必要はないよ」
「そう言われるのなら、わかりましたー―いや、わかった」
大丈夫そうなので、ソファーに腰を下ろす。
危なかった。
練った魔力は大気中におかえり……。
王さま――ジルフリートさま対面にあるソファーに腰を下ろす。
そこで、気になったことを一つ。
「いつも、ああして抜け出すのか?」
「そこに付いては詳しく聞かないでもらいたいかな。ただ、ある。王都内の様子を直に確認するために」
「宰相とか、各方面から文句が出てきそうな話だ」
「いやいや、胃を痛めているのは私も同じだから。本当に悩みがなくならない。特に大きいのが、な」
「冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の対立か」
「そう。できれば、他国でもそうであったように、キミが解決してくれることを願っている」
ジルフリートさまの俺を見る目には期待が込められていた。
いや、さすがにそれは無理では? と思うので、苦笑いだけ返しておく。
理由も知らないのに、できる訳もない。
それに、知ったとしても、できるかどうかはまた別の話である。
まあ、そこは別に置いておいて、今は協力して欲しいという内容だ。
そこを詳しく聞く。
「もちろん、協力してくれるかどうかは聞いてから判断してもらって構わない」
そう前置きをして、ジルフリートさまが口を開く。
―――
冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の対立に対いて、王家は中立・仲裁の立場を取っている。
仲裁という立場であるように、両ギルドの争いを間に立ってとめているのだが――最近はその立場も少し弱くなってきて、発言力が落ちているらしい。
所属している人員や資金力の差など、いくつかの要素がそうなっている要因として挙げられるが、特に大きな要因として挙げられるのが天塔の到達と平均階数である。
なんだかんだと天塔で得られる恩恵の影響が大きく、そこでの出来事が他にも影響を与えているため――現在、冒険者ギルド・総本部にはSランク冒険者パーティが所属しており、天塔・60階まで行けるだけの戦力を有していて希少素材を手にすることができて、商業ギルド・総本部はそこまで特出した戦力を有してはいないが、天塔・50階まで行けるパーティが多く在籍しているため素材の数を多く集めることができるそうだが、王家はそこまでではないというのが関わっていた。
別に、戦力を有していない、という訳ではなく、騎士に兵士と充分な戦力はあるが、その戦力が向けられるのは国防が主である。
そもそもの有している戦力の役割が違うのだが、大多数がそのことをわかっていないらしい。
一部はわかっているが、大多数の方は王家所属の者は自分たちよりも弱いと勝手に判断して侮り、言うことを聞く必要はないと仲裁しても邪魔にしか思っていないような態度で、効果が薄くなっているそうだ。
なので、王家としても、天塔で何かしらの実績を挙げなければ、中立・仲裁としての立場があってないようなモノになり、もしなくなれば治安悪化となるのは目に見えている。
その対策を打って出ているが、効果は薄いというか出ていない。
やはりというか、そういう実績を挙げられそうな者は、既に両ギルドのどちらかに所属しており、待遇面で両ギルドを上回ることは難しくて引き抜けない。
そうなれば国外から来る者たちが頼りだが……まあ、あの激しい勧誘によってどちらかに所属してしまうそうだ。
好んで王家所属になる者は現れなかった。
「――と、そんな時にキミの話を聞いたという訳だ。キミのことは冒険者の国・トゥーラの王・クラウから教えてもらったのだ。クラウとは友人関係で、互いに色々と相談し合っているのだよ」
なるほど。そこから俺のことを調べ、実際に現れたから接触した訳か。
それにしても、クラウさんか。懐かしい。
あれ? クラウさんも王さまだけど、さん付け。
でも、目の前に居るジルフリートさまは、さま付け。
同じ王さま……区別は良くない。
気を遣う必要はないと言われたし、ジルフリート「さん」でいこう。
そう思っていると、ジルフリートさんが真剣な表情を浮かべて俺を見る。
「どうか、両ギルドがこれ以上の対立しないように、協力してもらえないだろうか? キミの、魔物大発生すら退けた力を貸して欲しい」
クラウさんの紹介なら……まあ、無下にするのもな。
それに、両ギルドの勧誘は本当に辟易としたので、その意趣返しでもできるのならいいかもいれない。
俺は頷きを返した。




