まずは家庭の中から
外に出ると、既に人だかりができていた。
窓や扉から人が突然飛び出してきたのだから、注目されてもおかしくはない。
集まっている人たちは何事かわからないためザワザワしているが、問題の二つのパーティは我慢ならないようだ。
「何見てんだ、こらっ!」
「なんでもありませんので、解散していただけますか?」
声を荒げて、周囲に睨みを効かせる。
それは先ほど言い争っていた二人だけではなく、双方のパーティメンバー全員が、だ。
同じ行動を取っているので、寧ろ同じパーティで仲良しなのでは? という風に見えなくもない。
と思っていると、二つのパーティが俺に気付く。
「おい、お前! 今、そこから出てきたな! なら、見ていないか! 誰が風属性魔法で俺たちを外に放り出したのか!」
俺は自分を指差す。
「私にこのようなことをしたのですから、それ相応の報いを……え?」
「……いや、なんで自分を指差してんだ? お前」
「だから、俺がそれをやったからだ。あのままだと中で暴れて迷惑だったからな。暴れるなら外で暴れろ。この酔っ払い共」
「上等だ、テメエ。わざわざ名乗り出てきたんだ。覚悟はできてんだろうな?」
「そういう行動をどういう言うのか知っていますか? 潔い、ではなく、愚か、と言うのですよ」
剣呑な雰囲気を醸し出す二つのパーティ。
徐々に俺との距離を詰めるように前へ……出るのだが、根本的な解決は無理そう。
というのも――。
「ここはこっちに任せろ。テメエらみたいな弱っちいのに任せらんねえからな」
「弱いというのであれば、それはそちらの方では? それに良く言うでしょう? 弱いヤツほど良く喋る、とね」
「ああん? あいつの前にテメエらをやってやろうか!」
「できないことは大きな声で言わない方がいいですよ。後々恥をかくことになりますから」
直ぐやり合おうとするのだ。
しかも、どうやらその二人がそれぞれパーティリーダーのようで、パーティメンバーはそれに付き合っている感じである。
とりあえず、アレだな。
一発、魔法を放って終わりにしたい。
王都・ガレットで溜まりに溜まった鬱憤をここで放出したい。
……いや、それは危険だ。
最近魔法使用が安定してきたとはいえ、いつ制御をミスって暴走してもおかしくない。
それが町中でとなると笑えない。
なので、ここは身体強化魔法でいこう。
力業……物理でいく。
全員一発殴って終わらそう。
明日の筋肉痛は……この際考えない。
数日寝ることになっても……まあ、いいかもしれない。
そういうのも時には必要だ。
身体的休息だけではなく、精神的休息という意味でも。
「とりあえず、まずはあいつからだ! 舐めた真似をしてくれた礼をしないとな!」
「そうですね。それに異論はありません。では、こちらの決着はそのあとということで」
二つのパーティが俺に狙いを定める。
俺も身構える――が、何故か一方――商業ギルド・総本部所属パーティの方のリーダーが足をとめて、驚愕の表情を浮かべた。
それに合わせてパーティの方もとまり、冒険者ギルド・総本部所属パーティの方も異変を感じ取ってとまる。
「どうした?」
「……あ、ああ……いや、その……これは……」
冒険者ギルド・総本部所属の方が声をかけるが、商業ギルド・総本部所属の方は言葉に詰まっていた。
しかも、その言葉は別の誰かに向けて言っているようで……俺……ではなく、そのうしろに視線が向けられて固定している。
……うしろ? と振り返ると、そこには腕を組み、怒りを放出させている目付きの鋭い女性が一人。
えっと……どちらさま?
「あんた! こんなところで何やってんだい! 戻って来たのなら戻って来たと、まず私のところに来るのが普通じゃないのかい! なのに、その様子だと、随分とご機嫌で飲んでいたようだね!」
目付きの鋭い女性はそう言いながら前に出て、商業ギルド・総本部所属パーティのリーダーの眼前に立つ。
「あっ、いや、その……ね。ほら、一度帰ろうとしたのですが……ね。その、付き合いというモノが色々ありまして」
「付き合いぃ?」
目付きの鋭い女性が、パーティメンバーを見る。
パーティメンバーは、そのようなことは決して――と首を左右に振りまくった。
リーダーが嘘を吐いたのか、あるいはメンバーがリーダーを売ったのかはわからないが、少なくともリーダーが追い込まれたのは事実。
「違うって言っているみたいだけど? どうやら、あんたには禁酒が必要なようだね。いや、それよりも、こうも酔って面倒を起こすのなら、家にあるワインを全部」
「いや、それは待って欲しい! お願いだから、それは待って欲しい!」
あまりにも混乱しているのだろう。
リーダーは先ほどまで対峙してやり合おうとしていた冒険者ギルド・総本部所属パーティに助けを求める視線を向けるが……そっと逸らされ――いや、一人だけ、そちらのリーダーだけは慈しむような、同情するような視線を向けている。
なんでそんな視線を――を思ったが、答えは直ぐにわかった。
「あら? あなた、こんなところで一体何を………………まさか、お酒を飲んで暴れようとしていたとかではありませんよね? どうしましょう。もしそうなら、お小遣いを減らす方向で動かないといけなくりますが?」
「待ってくれ! 頼む! これ以上減らされたら――」
突如、周囲の人たちの輪の中から、おっとりとした女性が現れたかと思えば、冒険者ギルド・総本部所属パーティのリーダーに詰め寄り、優しくも怖い笑顔でそう言いだした。
内容から察するに、どちらもそれぞれの奥さんだろう。
なるほど。似たような環境だから、という訳か。
しかし、これからどうしたものかと思っていると、奥さん同士が視線を合わせ――。
「オホホホホホ……」
「ウフフフフフ……」
そちらも大変ですね。いえ、ウチもなんですよ――みたいに微笑み――。
「ほら、行くよ! あんたたちも来な! 詳しく聞かせてもらうよ!」
「では、行きますよ。あなた。あっ、もちろん、全員ですから、ね」
双方の奥さんが逆らってはいけない迫力をもって、全員連れていった。
拒否は……あの圧だと無理だな。
というか、双方共、さっきまで殴り合おうとしていた俺に助けを求めるような視線を向けられても困るんだが。
いや、手助けはしない。
間違っても、味方ではないのだ。
しかし――。
「お幸せに~」
聞こえているかどうかわからないが、手を振りながらそう言っておいた。
家庭の平和が、町の、国の平和に繋がるはずだ。
………………。
………………。
良し。飯食うか。
別に運動した訳ではないのだが、無性に温かいご飯が食べたくなった。




