ほんと、迷惑な行動ってある
天塔・1階。
戻ってきた。
魔法陣の小部屋から出ると、広場は相変わらずの賑わいだった。
小腹が空いていたので、ついでに屋台で軽く食事を取る。
塩胡椒がしっかりと効いた肉汁滴る焼き鳥肉……うん。美味い。
「おっ! 昨日見た顔だね。これまで見なかったけど、新人かい?」
もぐもぐと食べていると、屋台のオヤジさんに声をかけられる。
「とりあえず……ここに来たのは昨日だな……」
「そうかい! どうだい? 天塔は。中々歯応えがあるだろう?」
「どうだろうな……31階まで行ったが、まだそこまで歯応えは感じていないな……」
まあ、レアボスには違った意味で歯応えというか手こずったというか……よくわからないな。
まともに戦っていないのは確かだ。
「はっはっはっ! そうかそうか! 31階まで行ったか! こりゃ有望株だ! はっはっはっ!」
笑い出す屋台のオヤジさん。
……多分、信じてないな、これ。
まあ、普通はそうかもしれない。
昨日の今日で31階まで行って戻ってくるのは、普通は無理だと俺も思う。
でも、一直線に最短で進めれば可能だ。
わざわざ訂正する必要はないので、そのまま流しておく。
食べ終わると、あとは特に寄りはせず、天塔を出て王都・ガレットに戻った。
―――
王都・ガレットに戻り、一息吐くために宿屋「穏やかな木漏れ日亭」に向かう。
「はーい! そこのお兄さん! 少しだけ話聞いてみない? 冒険者ギルドにサクッと入って、ちょっと活躍するだけで、ビッグな金持ちの仲間入りができるっていう話なんだけど」
「いや、結構です」
「おっ! 魔法使いのお兄さん! 商業ギルド、寄ってかない? 今日、いい受付嬢が揃っているよ?」
「寄らない」
「へい! 成功してみない?」
「意味がわからん」
王都・ガレット内を少し歩いただけでこれだ。
主に大通りで行われていて、脇道から裏道など、大通りから一本外れた道だとそうでもなさそうなのだが……正直そっちは迷う心配がある。
アブさんが居ればそうでもないのだが……。
なので、うるさい、あるいは面倒でもあるが、勧誘は適当にあしらうことにした。
でないと、魔法を全力で放ちたくなったり、明日の筋肉痛を覚悟して魔力全開身体強化魔法で殴りたくなるからだ。
ついでに別のこと――今後についても少し考える。
とりあえず、せっかく推薦状をもらった訳だし、このまま冒険者ギルド・総本部にも商業ギルド・総本部にも所属せずに、中立である王家に所属……というよりは、協力するのがいいかもしれない。
妙な勧誘をしてくる両陣営よりは、遥かに好感が持てる。
なんにしろ「探索許可証」は必要な訳だし、その時にその旨を伝えてもいいかもしれない。
それにしても、31階より上に行くには「探索許可証」が必要だとは知らなかった。
水のリタさんの記憶の中にはないことなので、そのあとで――ということか。
そんなことを考えている内に、「穏やかな木漏れ日亭」に辿り着く。
「………………ん?」
「穏やかな木漏れ日亭」の中から、騒がしいというか、言い争うような声が外まで聞こえてくる。
ケンカか?
何事だろうと扉を開けて中に入ると――。
「さっさと出てけよ! 商業ギルドのヤツが居ると飯がマズくなる!」
「それはこちらのセリフですね。冒険者ギルドの野蛮な者たちが居ると食事が楽しめないので出ていっていただけますか?」
食堂の方で、何やら言い争っている二人が居た。
それぞれに同じテーブルについている者たちが居て、互いに睨み合っている。
聞こえてきた内容から察するに、冒険者ギルド・総本部に所属しているパーティと、商業ギルド・総本部に所属しているパーティだろうか。
こんなところでも争うのかと、少し呆れた目で見ていると、「穏やかな木漏れ日亭」の女将さんが「おかえりなさい」と声をかけてきたので、どうも、と頭を下げる。
「ごめんね、騒がしくて。多分、直ぐ治まると思うから。それで、もう部屋に戻るかい? それとも、ご飯を食べていくかい?」
屋台で食べたので小腹は空いていない。
「部屋で休むことにします。それにしても、こういうのはよくあることなんですか?」
「そうね。ここだけじゃなく、王都・ガレットの至るところで起こっているわ。関係ない町の人からすれば、仲良くやって欲しいもんだけどね」
まったくもってその通りだと思いつつ、女将さんから部屋の鍵を受け取り――。
「上等だ、こらあ! やってやんよ!」
「やれやれ。品性というモノを教えてあげますよ、あなたたちにね!」
やり合い始めようとする両陣営のパーティ。
いや、やり合うのは別にいいというか、放っておいてもいいのだが、そのまま食堂内で始めようとしているのだ。
「ちょっ! お客さまたち! 落ち着いて!」
女将さんが声をかけて宥めようとするが、頭に血が上っているのか両陣営のパーティには聞こえていない。
全員顔というか頬が赤いし、かなり酒が入っているようなので、このままだと暴れそうだ。
……仕方ないな。
「『緑吹 目に見えずとも存在し 目に見えずとも感じられ 目に見えずとも流れる 息吹』」
両陣営のパーティに向けて突風を放ち、そのまま風に乗せて窓や扉から外に放り出す。
これで終わりと放置して「穏やかな木漏れ日亭」に何かされても困るので、キッチリと片をつけるために俺も外に出る。




