拍手って嬉しくなるよね
天塔・31階。
10階から11階、20階から21階と、ボス部屋を突破して階段を上がると、まず床に魔法陣が描かれている部屋となっている。
31階のここもそうだし、水のリタさんの記憶通りなら、41階、51階、61階もそうだ。
魔法陣がある分それなりに広く造られていて、この場は安全地帯でもあるのだが、同時に1階に戻る帰還場所でもあった。
床の魔法陣が1階の小部屋にある魔法陣に通じているのだ。
そんな中、31階は少々様子が違っていた。
11階、21階では見かけなかったし、水のリタさんの記憶の中でもこうはなっていない。
それは、ここから先には行かせないように、先に続く通路の脇に騎士たちが立っていた。
騎士たちは他にも居て、休憩場所のようなところもある。
どうやらここにつめかけているようだが……理由がわからない。
攻略……という雰囲気ではない。
なんだ? と思っていると、騎士の一人がこちらに気付いて声をかけてくる。
「おや? 見ない顔だけれど……一人ってことは、もしかして単独かい?」
三十代くらいの騎士の問いに、頷きを返す。
「ああ。そうだが……これは? 先には進めないのか?」
「うん? 『探索許可証』は持っていないのかい?」
「『探索許可証』? なんだ、それは?」
「持っていないとなると先には進ませられないんだけど……その様子だと『探索許可証』自体知らないって感じだね」
「ああ、初めて聞いた」
「となると……もしかして、ここにはつい最近来たのかい?」
そう尋ねてくる三十代くらいの騎士は、何かを期待しているかのように見える。
「そうだが、それが何か?」
「そ、それじゃあ、もしかしてだけど、どちらにも所属していない?」
「どちら……ああ、総本部のことか。一応、どちらもギルドカードの登録はしているが、そちらが思っている意味での所属はしていない、が……」
そう答えると、三十代くらいの騎士は喜ぶように両握り拳を天へと突き出し、会話が聞こえていたと思われる他の騎士たちも好意的な笑みを浮かべている。
そして――。
『おおぉ~……』
と、賞賛するような雰囲気で拍手まで送ってきた。
……意図はわからないが、悪くない気分である。
両手を広げ、どうも、どうも、と頷きながら、祝福を受けるように拍手を浴びた。
――が、やはり冷静な部分はあるため、どういうことだろう? と「探索許可証」の件も含めて纏めて聞くことにする。
―――
説明を受けた。
「探索許可証」は、ここから先――31階より上は推奨冒険者ランクCということもあって、生死に関わってくる強さの魔物や罠があるため、無条件で入れないようにしているそうだ。
そうなった理由は、冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の対立にある。
対立が始まった数百年前は、それこそ王都・ガレット内の至るところで武力衝突が起こっていたらしい。
時間が経って今はかなり落ち着いたようだが――俺としては落ち着いているとは思えないが――当時は本当に凄まじかったそうだ。
対立の結果の一つで、天塔で得られるモノを相手よりも手に入れようとして、両ギルドから多くの者が送り込まれた。
そこで、相手よりも素材の数だけではなく、より希少性なモノを得ようとして、ランクに見合わないところで活動する者が増えたらしい。
簡単に言えば、ランクE、Dの者が、ランクC相当である31階より上に赴くようになった。
ランクDならまだ通用するかもしれないが、ランクEは完全に通用しないとまではいかなくとも、難しいのは間違いない。
その上、ランクCの者たちは41階より上に赴くようになった。
その結果は……言うまでもない。
元々、推奨冒険者ランクが上である以上、通じる方がおかしい。
極稀である。
さすがにそこまでくると見過ごせないと、その当時から冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部の間に立ち、仲裁を行ってきたラピスラ王家が制限をかけることにした。
特に、推奨冒険者ランクCである31階以上に進むランクE、Dが多かったため、31階に騎士たちが滞在し、「探索許可証」を持つ者、パーティだけが進むことができるようになっている。
何故騎士かと言えば、この場に留まれる戦力としてもそうだが、両ギルドに任せると自分が所属しているギルドの方だけ通すといった不正が行われるからだ。
「それは、間違いないだろうな」
うんうん、と納得する。
騎士たちもその通り、と頷いた。
苦労してそうである。
そこで、重要なことを尋ねる。
「つまり、その『探索許可証』がないと進めない訳か。それは、どこで手に入るんだ?」
「申請は冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部で受けているよ」
「というと、どっちかに所属しないといけない訳か」
「普通はそうだが、そうしなくても手に入る手段が一つある。『探索許可証』は申請を受けてから、王家が発行するんだ」
「……つまり、俺に王家所属になれってことか?」
「話が早くて助かるよ。そういうことだね。話してみた感じ悪い印象も受けないし、できることならお願いしたいかな。我々は仲裁という立場から中立ではあるけれど、両陣営と比べると人数も戦力も劣っていてね」
まあ、戦力的な面でも、資金力的な面でも、一国だけで世界中にあるギルドに真正面から対抗しようとするのは難しいだろうな。
「だから、両陣営所属ではなく、ここまでソロで来ることができるような実力者であるのなら、是非とも協力して欲しい。少し、考えてみてくれないかな?」
三十代くらいの騎士はそう言ったあと、「『探索許可証』に関しては私の方で推薦しておくから、王城の門番に見せれば手続きしてくれるよ」と、推薦状をもらう。
一騎士の推薦状で? と思ったが、三十代くらいの騎士は騎士団の副団長だった。
あっ、ご苦労さまでーす。
思わず頭を下げる。
とりあえず、推薦状を受け取り、今ここから先には行けないため、魔法陣を使って1階に戻った。




