表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
252/614

巻き込むならもっと丁寧に巻き込んで欲しい

 天塔(ヘブンタワー)・30階。

 ボス部屋の前に少しばかり列ができていた。

 大人しく並ぶのだが、ソロというのが珍しいのだろう。

 なんだ、こいつは? みたいな目で見られるが気にしないでおく。

 それに、不審がられているというよりかは、冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部のどちらの所属か? というのを気にしているようだ。

 まあ、正解はどちらでもない、だが。

 そうこうしている内に俺の番になる。

 ボス部屋の扉を開けて中に入るが――しまった。何も考えずに入ってしまった。

 確か、30階のボスは通常だと、頭部から角を生やし、屈強な身体を持つ人型の魔物――オーガが二体。

 しかし、10階、20階とレアボスを引き当てている身としては、もしかして――と思わなくもない。

 警戒しつつ室内を確認すると――大剣を構えるオーガと、その大剣オーガに身を寄せるオーガが居た。

 大剣を持っているオーガが男性で、身を寄せているオーガが女性のように見え、なんとかどちらも質の良さそうな衣服を見に纏っている。

 けれど、二体であることに変わりはない……ということは、通常であるということ。

 やったぜ! とガッツポーズを――。


「くっ! ここも安全とは言えない。いつ追っ手が現れるか」


「ロミオーガさま!」


「大丈夫だ、ジュリオーガ! あなたは私が必ず守ってみせる!」


「ああ、ロミオーガさま!」


 見つめ合う男性オーガと女性オーガ。

 そこには愛があった……ではなく、何これ? どうしたらいいんだ?

 無視して進んでいいのだろうか?

 物は試しと素通りしようとするが、男性オーガと女性オーガが進行方向を遮るような位置に移動してくる。


「………………」


「「………………」」


 いや、なんか言えよ!

 どういうことかさっぱりだと思っていると、黒服を着た新たなオーガが三体現れる。


「若! 追いつきやしたぜ!」


「くっ! もうか!」


「若! 若だってわかっているはずですぜ! その女はウチら『オーガギュー家』と長年争っている『オーガレット家』の娘! 敵ですぜ!」


「いいや、違う! 彼女は私が愛する女性だ! 家は関係ない!」


「若っ!」


 何やら男性オーガが黒服オーガと言い争いを始める。

 つまり、どういうこと……と纏めようとしたところで、また新たに白服を着たオーガが三体現れた。


「お嬢! 見つけましたぜ! さあ、オヤジが待っています! 憎き『オーガギュー家』の若造と一緒になんて居ちゃいけねえ!」


「嫌です! 私は愛するロミオーガさまと共に生きていくのです! 愛するロミオーガさまと共に!」


「そんな、お嬢……二回も言うなんて……本気なんですね」


「わかったのなら、お父さまにもそうお伝えください!」


「お嬢……」


 女性オーガから覚悟のようなモノが垣間見える。

 それは男性オーガの方も同じ。

 黒服オーガと白服オーガはたじろぎ――。


「くそっ! 元はと言えば『オーガレット家』の娘のせいで!」


「はっ! 何を言うかと思えば、これは『オーガギュー家』の若造が原因だろうが!」


 黒服と白服が罵り合いを始める。

 その間に状況を整理すると、憎しみ合っている二つの家の男女が愛し合い、駆け落ちしている最中で、そこにそれぞれの家から仕えている者たちが追ってきた、というところだろうか。

 そう結論を出していると、黒服と白服は別の手段に出るようだ。


「こうなったら実力行使でいきますぜ、若! いくら若が天才的な腕前と言われていようとも、こちらは数が揃っている! (ちらっ) 協力しろ、『オーガレット家』のヤツら!」


「ちっ。仕方ねえな、手を貸してやるよ! (ちらっ) 『オーガギュー家』の!」


 いいだろう! いくら私でもこの人数が相手だと危ないかもしれない! (ちらっ) しかし、私は負けない! (ちらっ) ジュリオーガへの愛にかけて!」


「ロミオーガさま! (ちらっ)」


 そのまま眺めていると、場が非常にゆっくりと動き出す。

 いや、俺をちらちら見ずにさっさと動いて戦えよ。

 ………………え? 来ないの? みたいなふうに気を出すな!

 まだかな? とジッと俺を見るな!

 ……はあ、仕方ない。


「こらこら、待て待て」


 とりあえず、止めてみる。


「何者だっ! (ほっ)」


 黒服オーガの一人が反応して、ホッと安堵――いや、するな。


「え~と、通りすがりの凄腕魔法使いだ。見れば、愛し合う二人を引き離そうとする悪行。断じて見過すことはできない」


「言ってくれるじぇねえか! 関係ないのがでしゃばんじゃねえ! 邪魔するってんなら

お前から――うおおおおおっ!」


 白服オーガの一人が、衝撃波でも受けたかのうように吹き飛んでいく。

 いや、何もしていないが?

 勝手に吹き飛んでいった……あっ、もしかして自分からか?


「よくもやりやがったな!」


 そう言って、他の黒服オーガと白服オーガが襲いかかってくるが、結果はどれも同じ。

 自分から吹き飛んでいく。

 最初に吹き飛んだ白服オーガが悔しそうに言う。


「……くっ。なんて魔法使いなんだ。さすがは凄腕。魔力を衝撃波のように放つだけでこれとは」


 そういうことになったのか。


「仕方ない。ここは一旦引くぞ! オヤジに報告だ!」


「ああ、二人は幸せそうでした、てな!」


 勝手に逃げ出す黒服オーガと白服オーガたち。

 去り際に、それぞれ男性オーガと女性オーガに向けて「お幸せに」とか言って去っていく。

 その気持ちがあるのなら、最初から祝えばよくない?

 黒服オーガと白服オーガたちが居なくなると、男性オーガと女性オーガがこちらに来て一礼。


「ありがとう。助かりました」


「いつか、このご恩は必ず」


 そう言って、去っていった。

 残されたのは、俺一人。

 いや、何この茶番。

 どういうこと? と考えてみるが……連れ帰ろうとしたけど、なんか横槍が入って駄目でした、という風にしたかったのかもしれない。

 明らかに、俺が声をかけるのを待っていたし。

 つまり、男性オーガと女性オーガに向けられる目を、横槍してきた者にも向けて分散したいのだろうか……ん? あれ? もしそうなら、なんか巻き込まれた?

 やり直しを要求したいから戻って来い!

 とりあえず、目撃者はすべて消す方向で動くから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「青い空と海」以降、小芝居ネタ脱d空いてる気がするけど、ボス部屋での小芝居ネタが続くのだろうか? もしかして、この駆け落ちオーガのいくつ草木はやはり魔物の村! なのだろうか? [一言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ