巻き込むならもっと丁寧に巻き込んで欲しい
天塔・30階。
ボス部屋の前に少しばかり列ができていた。
大人しく並ぶのだが、ソロというのが珍しいのだろう。
なんだ、こいつは? みたいな目で見られるが気にしないでおく。
それに、不審がられているというよりかは、冒険者ギルド・総本部と商業ギルド・総本部のどちらの所属か? というのを気にしているようだ。
まあ、正解はどちらでもない、だが。
そうこうしている内に俺の番になる。
ボス部屋の扉を開けて中に入るが――しまった。何も考えずに入ってしまった。
確か、30階のボスは通常だと、頭部から角を生やし、屈強な身体を持つ人型の魔物――オーガが二体。
しかし、10階、20階とレアボスを引き当てている身としては、もしかして――と思わなくもない。
警戒しつつ室内を確認すると――大剣を構えるオーガと、その大剣オーガに身を寄せるオーガが居た。
大剣を持っているオーガが男性で、身を寄せているオーガが女性のように見え、なんとかどちらも質の良さそうな衣服を見に纏っている。
けれど、二体であることに変わりはない……ということは、通常であるということ。
やったぜ! とガッツポーズを――。
「くっ! ここも安全とは言えない。いつ追っ手が現れるか」
「ロミオーガさま!」
「大丈夫だ、ジュリオーガ! あなたは私が必ず守ってみせる!」
「ああ、ロミオーガさま!」
見つめ合う男性オーガと女性オーガ。
そこには愛があった……ではなく、何これ? どうしたらいいんだ?
無視して進んでいいのだろうか?
物は試しと素通りしようとするが、男性オーガと女性オーガが進行方向を遮るような位置に移動してくる。
「………………」
「「………………」」
いや、なんか言えよ!
どういうことかさっぱりだと思っていると、黒服を着た新たなオーガが三体現れる。
「若! 追いつきやしたぜ!」
「くっ! もうか!」
「若! 若だってわかっているはずですぜ! その女はウチら『オーガギュー家』と長年争っている『オーガレット家』の娘! 敵ですぜ!」
「いいや、違う! 彼女は私が愛する女性だ! 家は関係ない!」
「若っ!」
何やら男性オーガが黒服オーガと言い争いを始める。
つまり、どういうこと……と纏めようとしたところで、また新たに白服を着たオーガが三体現れた。
「お嬢! 見つけましたぜ! さあ、オヤジが待っています! 憎き『オーガギュー家』の若造と一緒になんて居ちゃいけねえ!」
「嫌です! 私は愛するロミオーガさまと共に生きていくのです! 愛するロミオーガさまと共に!」
「そんな、お嬢……二回も言うなんて……本気なんですね」
「わかったのなら、お父さまにもそうお伝えください!」
「お嬢……」
女性オーガから覚悟のようなモノが垣間見える。
それは男性オーガの方も同じ。
黒服オーガと白服オーガはたじろぎ――。
「くそっ! 元はと言えば『オーガレット家』の娘のせいで!」
「はっ! 何を言うかと思えば、これは『オーガギュー家』の若造が原因だろうが!」
黒服と白服が罵り合いを始める。
その間に状況を整理すると、憎しみ合っている二つの家の男女が愛し合い、駆け落ちしている最中で、そこにそれぞれの家から仕えている者たちが追ってきた、というところだろうか。
そう結論を出していると、黒服と白服は別の手段に出るようだ。
「こうなったら実力行使でいきますぜ、若! いくら若が天才的な腕前と言われていようとも、こちらは数が揃っている! (ちらっ) 協力しろ、『オーガレット家』のヤツら!」
「ちっ。仕方ねえな、手を貸してやるよ! (ちらっ) 『オーガギュー家』の!」
いいだろう! いくら私でもこの人数が相手だと危ないかもしれない! (ちらっ) しかし、私は負けない! (ちらっ) ジュリオーガへの愛にかけて!」
「ロミオーガさま! (ちらっ)」
そのまま眺めていると、場が非常にゆっくりと動き出す。
いや、俺をちらちら見ずにさっさと動いて戦えよ。
………………え? 来ないの? みたいなふうに気を出すな!
まだかな? とジッと俺を見るな!
……はあ、仕方ない。
「こらこら、待て待て」
とりあえず、止めてみる。
「何者だっ! (ほっ)」
黒服オーガの一人が反応して、ホッと安堵――いや、するな。
「え~と、通りすがりの凄腕魔法使いだ。見れば、愛し合う二人を引き離そうとする悪行。断じて見過すことはできない」
「言ってくれるじぇねえか! 関係ないのがでしゃばんじゃねえ! 邪魔するってんなら
お前から――うおおおおおっ!」
白服オーガの一人が、衝撃波でも受けたかのうように吹き飛んでいく。
いや、何もしていないが?
勝手に吹き飛んでいった……あっ、もしかして自分からか?
「よくもやりやがったな!」
そう言って、他の黒服オーガと白服オーガが襲いかかってくるが、結果はどれも同じ。
自分から吹き飛んでいく。
最初に吹き飛んだ白服オーガが悔しそうに言う。
「……くっ。なんて魔法使いなんだ。さすがは凄腕。魔力を衝撃波のように放つだけでこれとは」
そういうことになったのか。
「仕方ない。ここは一旦引くぞ! オヤジに報告だ!」
「ああ、二人は幸せそうでした、てな!」
勝手に逃げ出す黒服オーガと白服オーガたち。
去り際に、それぞれ男性オーガと女性オーガに向けて「お幸せに」とか言って去っていく。
その気持ちがあるのなら、最初から祝えばよくない?
黒服オーガと白服オーガたちが居なくなると、男性オーガと女性オーガがこちらに来て一礼。
「ありがとう。助かりました」
「いつか、このご恩は必ず」
そう言って、去っていった。
残されたのは、俺一人。
いや、何この茶番。
どういうこと? と考えてみるが……連れ帰ろうとしたけど、なんか横槍が入って駄目でした、という風にしたかったのかもしれない。
明らかに、俺が声をかけるのを待っていたし。
つまり、男性オーガと女性オーガに向けられる目を、横槍してきた者にも向けて分散したいのだろうか……ん? あれ? もしそうなら、なんか巻き込まれた?
やり直しを要求したいから戻って来い!
とりあえず、目撃者はすべて消す方向で動くから!




