同じ行動を取っているからといって、同じ思いとは限らない
「ほ、本当にかい! リノファ!」
テレイル王子がリノファ王女に詰め寄り、確認するように尋ねる。
ゼブライエン辺境伯と老齢の執事、「新緑の大樹」も、リノファ王女の返答を待っていた。
「……」
リノファ王女は何も言わない。
ただ、感極まったように涙を流しながら笑みを浮かべ、何度も呪いは解けたと頷く。
そんなリノファ王女の様子で呪いが解けたのは真実であるとわかったのか、次第に喜びが表面に表れていき、途中で一気に爆発して室内が歓喜に包まれる。
誰しもが喜んでいる中、俺は別のことが気になっていた。
リノファ王女が、呪いが解けたと言った辺りから、室内に変な黒い塊が浮遊している。
直径5cmくらい。
誰も気付いていないというか、俺だけに見えている?
ただ、見ているとムカムカしてくるというか、火のヒストさんの記憶によると、これは呪いの素のようだ。
そのまま火のヒストさんの記憶を頼りにすると、呪いの素はこのままこの魔法をかけた者のところに戻り、解呪されたことを知らせるらしい。
その対処法も当然ある。
………………。
………………。
「……『赤燃 宿り 追尾し 報復を与える 火追』」
聞こえないようにこそっと魔法を発動させる。
指先から蛇のような火が放たれ、黒い塊に絡みついて、染み込むように吸い込まれて消えていく。
誰にも見られていないようで、ホッと安堵。
すると、黒い塊は壁を通り抜けて消えていった。
あれが使用者のところに着けば、恐ろしい目に遭うだろう。
うんうん。
……というか、あれ? もしかして、今上手く魔法が発動した?
失敗した感覚はないし………………やった! やったよ!
丁度、室内は喜びに包まれている。
俺もその中に喜びながら交ざった。
喜び内容が違うけれど、そこはまあ、言わなければわからない。
―――
「ぎゃっ!」
フォーマンス王国・王城。
ガチガチに守られているはずの呪属性魔法の使い手が、突如全身が燃え上がるという出来事が起こった。
―――
ほどなくして、全員が落ち着きを取り戻す。
まあ、俺だけ違うことで喜んでいたのと、なんか喜びの熱量差で、俺が最初に冷静になった。
「ありがとう。本当にありがとう」
テレイル王子が俺に向けて感謝の言葉を告げて、頭を下げる。
それは他の者たちも同じだった。
正直なことを言えば、居心地悪い。
こちらの前職は執事見習いである。
その頃の立場を思い出すと、王族に頭を下げられるのは居心地が悪い……が、今は無職のようなモノなので、気にしないことにした。
「いや、まあ……無事で何より。それに、間に合ったようだし」
「本当にそうだ。リノファも頑張っていたのだが、もう先は……と少しばかり諦めそうになっていたが、こうして救われた。奇跡のような出会いに感謝だ」
「さすがは、通りすがりの凄腕魔法使い、ですね」
「まったくだ」
ハハハ、と笑い合うテレイル王子とリノファ王女。
「本当に、お前のおかげだ!」
そんな声と共に、バシン! と背中に衝撃が走ったかと思えば、ゼブライエン辺境伯に叩かれていた。
体はまだまだひょろいので、正直言って痛い。
暴力反対――かと思ったのだが、ゼブライエン辺境伯流の、よくやったということだろう。
老齢の執事も、俺に向けて恭しく一礼してきた。
前職執事見習いということもあって、老齢の執事の立ち振る舞いが洗練されていることがよくわかる。
「新緑の大樹」は、先ほどまで俺に向けて親指を立ててきたりしていたが、今は満足する一仕事を終えたかのような安堵して、脱力しきっていた。
そして、テレイル王子が喜びの表情から一転して真面目な表情を浮かべ、俺に問いかけてくる。
「何か、お礼をしたいのだが」
何がいいだろうか? とテレイル王子が尋ねてきた。
なので、俺は素直に答える。
「では、この国をどうにかしてください」
「……どうにか、とは? この国を壊せ、ということかな?」
「必要であれば。俺としては、母さんさえ救えればどうでもいい」
「母さん?」
テレイル王子たちが首を傾げた。
俺の事情に関しては別に隠すようなことでもないので、公爵家でのことを教えても構わない。
しかし、無のグラノさんたち――ダンジョン最下層での出来事に関しては伏せようと思う。
無のグラノさんたち、ラビンさんとカーくんは、裏口である小屋のことさえ黙ってくれれば、別に話しても構わないとは言われている。
ただ、スケルトン、究極聖魔竜、ダンジョンマスターなので、言わない方がいいとも。
結論としては、俺に任せるということだ。
未だ半分も踏破されていないダンジョンの最下層なので普通の手段では来れないだろうし、教えたことによる何かの奇跡で人が現れても、気に入らなければ排除するそうだ。
けれど、俺としては無のグラノさんたちの生活環境を自分のせいで乱したくはないので、言わない方向で。
通りすがりの凄腕魔法使いとしての俺の力は、秘密というか、わざわざ手の内を明かすつもりはない、で乗り切るつもりだ。
「……母さんは」
俺の目的を話す。




