たくましいな、と思うこともある
――天塔。
三柱の国・ラピスラの王都・ガレットの近隣にある塔型ダンジョン。
王都・ガレットの直ぐ近くにあり、石畳で舗装された道が続いているのは、それだけ頻繁に人が出入りしているからだろう。
というのも、既にある程度情報が揃っていて確立しているというか、すみ分けができているからだ。
各階で必要となる戦力は、冒険者ランクを基準として表した場合――。
1~10階が、推奨冒険者ランクF。
11~20階が、推奨冒険者ランクE。
21~30階が、推奨冒険者ランクD。
31~40階が、推奨冒険者ランクC。
41~50階が、推奨冒険者ランクB。
51~60階が、推奨冒険者ランクA。
61階以降は、冒険者ランクSだが、今のところ把握されている歴代到達階数は62階。
その当時のSランク冒険者パーティが到達したそうだが、それ以上は現れる魔物が強過ぎるために、不可能だと判断して引き返してきたそうだ。
なので、冒険者ギルド・総本部が62階までは把握しているのだが、最上階が何階であるかは把握できていない。
というのも、アブさんのダンジョンと同じように環境が外と変わらない階層もあるそうで、見た目のままの階層とは限らないからだ。
ついでに言えば、商業ギルド・総本部の方でも天塔について聞いたが、似たような説明を受けたので内容に違いはなかった。
一応、水のリタさんの記憶持ちである俺は他にも色々と知っているが、さすがに年月が経っているので、あとは実地で確認するしかない。
そう考えている間に、天塔に辿り着く。
王都・ガレットほどではないが、周囲を壁に囲まれている円形の塔。
周囲の壁は直ぐに破壊されなさそうな厚みがあるので、おそらく天塔で魔物大発生が起こった場合に備えてだろう。
天塔自体は建築様式としてはそこらの塔と変わらないが、ところどころに幾何学的な紋様が表面に描かれているので、どことなく神秘的なモノを感じることができる。
そうして、天塔の一階部分――出入り用の門には大勢が行き交っていた。
門には門番のような兵士たちが立っていて、町と同じように出入りする者を確認している。
冒険者ギルドカード、あるいは商業ギルドカードがあれば入れるため、王都・ガレットに入った時と同じように冒険者ギルドカードを提示して天塔に入った。
―――
天塔・1階。
門から入って直ぐは、かなり広い大広間だった。
ついでに拠点でもあるようで――。
「いらっしゃい! いらっしゃい! ダンジョン攻略も、まずは腹ごしらえからだ! ウチは安くて美味いよ~!」
「回復薬は切れてないか? 状態異常回復薬は? 自分は大丈夫だと思っていないか? ケチっていないか? いざって時のために用意しておかないと、失うのは命だよ~!」
「武器・防具! メンテが必要ならこちらでやりま~す! 販売もしていますよ~」
物売りや屋台まであって、まるで祭りのように非常に賑わっている。
ダンジョンの中に――と思わなくもないが、ここは入って直ぐだ。
いざという時に直ぐ逃げ出せるし、危険度としてはもっとも低い場所だろう。
それでも、たくましいな、と思うが。
そんな大広間の造りは……神殿のような、といったところか。
ここから向かえる場所は三つ。
一つは、出入りの門。今、俺が入ってきた門だ。
一つは、魔法陣がある小部屋。
魔法陣がある小部屋は、言ってみれば出口である。
その魔法陣は11・21・31階……と一定区間毎にある、上から1階に戻るための一方通行の転送魔法陣なのだ。
一つは、塔内部へと進む通路。これから向かうところ。
そこに向かっていくが、その途中にある物売りや屋台から買うモノは特にない。
必要なのはマジックバッグに入っているからだ。
一応、地図は天塔・30階までのしか販売していなかった。
それ以上は自分で確認しろ――あるいは、必要であれば、そういうのは自分で用意しろ、ということかもしれない。
……まあ、両総本部にはあるだろうが、そもそも水のリタさんの記憶で塔内部は大体把握しているので地図といったモノも必要ないのである。
なので、特に足をとめるといったことはせず、奥の通路から塔内部を進んでいく。
出てくる魔物も弱い――というか、まったく出遭わなかった。
居ないということではなく、1階ということで新人なんかが相手取っているからだ。
推奨冒険者ランクがFなので、仕方ない。
俺も別に欲しい素材がある訳でもないので、気にせず進んでいく。
―――
天塔・2~9階。
2~9階までは、1階と大体似たような状況だった。
新人冒険者が天塔の――ダンジョンの雰囲気に慣れるのに丁度いいくらいだろう。
出てくる魔物も弱い。
上に行けば行くほど冒険者の数が減っていったので、俺も何度か戦った。
といっても、ゴブリンやコボルト、ウルフと大したことはない。
魔法一つで充分だ。
寧ろ、威力を抑える調整の方が難しかったくらいである。
……やり過ぎると、下手をすれば階層破壊しかねないし。
それはさすがにマズいということくらいはわかるので、これも魔法の練習と割り切って進んでいく。




