やる気って大事だから
冒険者ギルド・総本部の中に入ると、異様な熱気に包まれていた。
何か大物の魔物でも運び込まれたのだろうか? それとも、有名な冒険者が現れたとか? そんなところでもあったのだろうか。
気になって、未だに逃がさないと俺の腕を掴んで放さない呼び込みの女性に尋ねてみると――。
「いえ、いつものことですよ」
と返されて、さすがに驚く。
いつもこんなに熱気があるのは……さすがは冒険者ギルド・総本部ということだろうか。
そう思っていると、呼び込みの女性はニッコリと笑みを浮かべる。
「あちらをご覧ください」
示されるままに、受付カウンターの上部を見る。
六つある窓口の上に、それぞれ小さな看板が提げられていた。
呼び込みの女性から勧められるまま見ていく。
右から――「ツンデレ(本日はツインテール)」。
金髪ツインテールの、目付きの鋭いエルフの受付嬢が、目の前の冒険者パーティを睨むように見ている。
「ふん。この依頼を受けるの? あんたたちにできんの? まっ、やれるってんならやってみれば。でも、失敗は許さないわよ! ……わ、私が応援しているんだから」
「「「はい! 頑張ります!」」」
依頼を受けたであろう冒険者パーティのやる気が凄い。
「ああ言っていますが、普段の彼女にデレは一切ありません。まあ、私たちが知らないだけかもしれませんが」
その情報は必要だろうか?
人によっては泣くぞ。
次――「おにーたん大好き妹」。
背丈の低い、幼い受付嬢が、にぱっと笑みを浮かべる。
「おにーたんたち! がーんば!」
「「「「おにいたんたち! 頑張る!」」」」
咆哮のように声を上げる冒険者パーティは、その熱だけで何か燃えそうだ。
「彼女はドワーフですので、見た目と違って年齢は……おっと余計なことは言えません」
それは言わない方がいいと俺も思うが、そうか……見た目とは違うのか。
次――「眼鏡クール」。
眼鏡をかけて、人形のように美しいが無表情の受付嬢が、淡々と口を開く。
「――受諾しました。頑張ってください。次の方」
「くぅ~、この感じ……俺が笑顔にしてみせる!」
ソロ冒険者だろうか、男性冒険者がその場で身悶えしている。
無表情の受付嬢は、さっさと行ってくださいと冷たい目だ。
「普段からああなんですけど、実はお酒が入ると……ふふふ」
そういう言い方されると気になるのだが。
ただ、女性受付嬢はここまでで、残る三窓は男性が受け付けていた。
――「熱血系兄貴」。
細見だがしっかりと鍛えられている男前な男性受付が、ニカッ! と笑みを浮かべて拳を握る。
「わかった! この依頼を受けるんだな! お前たちなら必ず依頼達成できると信じている! 頑張ってこい! だが、無理だと判断したら戻ってこいよ! 達成できるように手助けしてやるからよ」
「「はいっ! 頑張ります!」」
女性冒険者二人が、興奮したように言う。
男性受付と女性冒険者二人が合わせて、「おー!」と拳を上げる。
「彼は普段からああなので、私は疲れる時があるんですよね」
おい。ぶっちゃけたな。
本人には言うなよ。
次――「世話焼きな幼馴染」。
眼鏡をかけた男前の男性受付が、心配そうに相手を見ている。
「本当に大丈夫か? いや、受けるけど、もう少し準備した方がいいと思うぞ。特に回復薬は余分に持っておいて損はない。魔力が切れた時に。そういう意味では状態異常回復薬も……は? 口煩いって? ……お前が心配だからだよ。言わせんな」
「ふ、ふ~ん。そんなに心配なんだ」
ソロ冒険者だろうか、女性冒険者は腕を組んで毅然とした態度を取っているが、耳が赤い。
「ちなみに、あの二人は本当に幼馴染ですね。本音で言っています」
なるほど。あそこは本物のようだ。
つまり、どっちの言動も態度も本物と。
……だから周囲の反応がおかしいのかな?
爆ぜろ。という心の声が聞こえてくるような……。
次――「Sなショタ」。
小さな男の子が受付をしていて、不遜な態度を取っている。
「ふ~ん。お姉さんたち、これを受けるんだ。……まあ、いいけど。でも、失敗は許さないからね。失敗したらランク不相応だとして、お・し・お・き・だよ」
「「「お仕置き……(ごくり)」」」
女性冒険者パーティが喉を鳴らす。
……わざと失敗するとか、そんなことはしないよな?
「………………」
ちなみに、呼び込みの女性は鼻を押さえ、興奮しているように息が荒い。
もしかして、鼻血が出そうなのか?
ただ、これまでの流れから察するに、見た目通りの年齢ではないんだろうな……多分。
呼び込みの女性が少し落ち着いたところで、どうしてこのようなことを? と尋ねると、なんでも冒険者のやる気に関わってくるらしく、士気向上で依頼達成率にも関わってくるのだとか。
「……でも、あっちの……女性冒険者パーティがお仕置きを望んで、わざと失敗することもあるのでは?
「大丈夫です。希望されるのであれば、ご褒美のお仕置きがありますので」
それはご褒美なのか? それとも、お仕置きなのか?
呼び込みの女性は、「その気持ちはよくわかる」と頷いているが。
しかし、普通の受付でもいいと思うのだが、冒険者全体のやる気に関わってくるのなら……まあ、あとは俺の慣れの問題だろう。
ついでに言えば、週で人も属性も変わるらしい。
……そういえば、勧誘の一つに、色んなのが揃っていると言っていたのがあったような。
とりあえず、このまま見ていても仕方ないので、天塔についてだけ聞き、冒険者ギルド・総本部をあとにした。
依頼を受ける……気にはなれなかったのだ。
それに、買い取りをしているのは変わらないので、天塔で倒した魔物を運べば金は得られるし、依頼を受けなくても別にいい、というのもある。
という訳で、まずは天塔に行ってみることにした。
―――
ちなみに、興味本位で商業ギルド・総本部の方にも行ってみたが、同じくらい大きな建物で、似たような受付で、何が――とは言わないが、女性受付の方が「ギルド一の……(意味深)」、「見守りたい天然巨乳」、「頭撫でたくなる系照れ屋」で、男性受付の方が「爽やかな腹黒」、「完璧執事」、「独占欲の強いわんこ系」だった。




