入りづらい場所とか状況ってあるよね
とりあえず、冒険者ギルドと商業ギルドの総本部の争いが長年続いていることはわかった。
まあ、争いと言っていいかどうかは微妙なところではあるが……いや、やっぱり迷惑だな。
少なくとも、勧誘合戦は面倒であるし、ランクを告げたあとの態度はイラつく。
Fランク……舐めんなよ! とはさすがに思わないが、もう少し対応は見直すべきだと思う。
将来のSランクかもしれないというのに。
……まあ、俺自身がランクに興味がないというのもあるし、実際のランクとなるとどれくらいなのかわからないというのはあるが、どちらにしろ、今のところどちらも総本部の印象は悪い。
………………。
………………。
ん? あれ? 待てよ。
対立しているとなると、周囲に影響を与えているのは間違いない。
それのわかりやすいのは勧誘だが、俺が気にしているのは天塔の方。
そこにも何かしらの影響が出ている可能性はないだろうか?
確認した方がいいかもしれない。
でも、急いでいる訳ではないので、今日はもうそのまま宿の部屋に戻り、寝た。
勧誘でイライラしていたのもある。
しっかり寝てスッキリしよう。
―――
翌日。朝。
パン、サラダ、スープに、ベーコンエッグをいただき、柑橘系の果汁が混ぜられた飲料水で喉を潤す。
……良し。スッキリ。
女将さんに冒険者ギルド・総本部の場所を聞き、早速向かう。
宿から出て、王都・ガレットの中心に向かって伸びる大通りを進んでいけば、冒険者ギルド・総本部は直ぐに見つかった。
家数軒分はありそうな、三階建ての大きな建物。
下手をすると、貴族でも爵位が上の方の人が持つような大豪邸並だ。
そこまで来ると出入りの扉も大きく、数人が横一直線に並んでも入れそう。
そんな扉の前では――。
「冒険者ギルド・総本部はこちらで~す! 受付依頼、戦闘指南、素材買取――小さなモノでも大きなモノでも、なんでもお受けしま~す!」
「何かお困りのこと――猫探しや掃除、魔物に関してや武器・防具類のオススメに、天塔についてでも構いません! なんでもご相談ください! 迅速解決致します! 是非、冒険者ギルド・総本部をご利用くださ~い!」
綺麗な女性二人が呼び込みを行っていた。
慣れた様子なので、何度も行っているのかもしれないが……揃いの制服を着ているし、多分受付嬢だと思う。
綺麗な女性に呼び込みをかけられて、照れた様子で嬉しそうに冒険者と思われる人たちが、冒険者ギルド・総本部に入っていく。
中には、入らずに声をかけている者も居るが、軽くあしらわれている。
そうして様子を窺っていると、呼び込みの女性の一人がこちらに来た。
「何かお困りですか~?」
「え? いや、特には」
「あっ! もしかして、ここに来るのは初めての方ですか? 良ければ案内しましょうか?」
「いえ、大丈」
「ご案内しますね~!」
いや、大丈夫なんだが――と思ったのだが、呼び込みの女性の行動は素早い。
俺の腕を取り、そのまま引っ張っていかれる。
このままでは不味いと、ある事実を打ち明ける。
「いや、本当に大丈夫だから! それに、俺Fランクなんで、ここまでやる必要はないから!」
「え? Fランクなんですか?」
「そ、そう」
証明すれば早いだろうと、冒険者ギルドカードのFランク部分を見せる。
呼び込みの女性はしっかりとそれを見て、腕を……放さないだと!
それに、これまでと違って態度が変わるといったこともない。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、これまでだと、Fランクだと言えば態度を変えるヤツばっかりだったから」
「ああ、なるほど。勧誘の方たちですね。あれには両ギルドマスターも悩みの種なんですよね。誰だってFランクから始まるのだし、実際の力がランク相応ではない人だって居るっていうのに、ランクで判断してしまうみたいで。でも、安心してください! 勧誘の方たちはああですが、実際のところ冒険者ギルド・総本部は、どのランクの方でも大歓迎ですから!」
呼び込みの女性が笑顔を見せてくる。
こういうのも、落として上げるというのだろうか。
少しグラっときてしまった。
勧誘の態度が悪い分、本部の方の態度がより良く見え――いいや、騙されては駄目だ。
呼び込みの女性の顔を見ろ。
獲物は逃がさない、という肉食獣のような笑みを見えるのは、きっと気のせいではない。
身の危険を感じなくもないので、こうなったら無理矢理振り払――えない!
いや、女性に腕を掴まれると無条件で引き離せないとかそういうことではなく、単純な力関係で無理。
俺が貧弱……いや、普通だからというのもあるかもしれないが、それを加えても呼び込みの女性の力が単純に強い。
……よく見れば、体付きがしっかりしているというか……まるで戦士のような……もしかして、冒険者?
これも依頼か何かだろうか?
もしそうなら……お疲れ様です。
嫌々には見えなかったが。
そう思っている内に引っ張られていき、冒険者ギルド・総本部の中へ入る。
内部の造りというか、依頼が張り出されているボードや受付カウンターに、隣接されている酒場など、他の冒険者ギルドとあるモノはそう大差ない。
ただ、規模そのものがまったく違う。
わかりやすいところだと、場所によっては一つ、多くても三つしかない受付カウンターが、ここは六つある。
それだけ賑わっているということだろうが……いや、実際に賑わっている。
「うおおおおおっ! 頑張るぜ!」
「やってやる! 俺はやってやるぜ!」
「任せて! 私が片付けちゃうから!」
いや、盛り上がっているというか、咆哮が飛び交っている。
何やら随分と熱狂している雰囲気で……正直もう出て行きたくなった。




