やはり情報通が多いと思う(個人的見解)
変なのに絡まれてしまった。
こういう時はふて寝に限る。
なので、宿屋を探して王都・ガレット内を進んでいくのだが――。
「そこのお兄さん! どう? これから冒険者ギルドに寄っていかない? 可愛いのから綺麗なの、獣耳からとんがり耳に、瘦せてるのから肉付きがいいのも、ロリから熟女まで、いい受付嬢が揃っているよ? いい素材出せば、お近付きになれるかもよ?」
「おやおや、そこの魔法使いさま! その叡智を商業ギルドで活かしてみませんか? 今なら特別待遇で受け入れさせていただきます! 他にもこちらの契約を一緒に結んでいただければ、こういった更なる特典もお付けできますが、いかがでしょう?」
「先ほど商業ギルドで買い取り価格が1.2倍だと言われた? あいつら……なら、冒険者ギルドの方は1.25……いや、1.3倍でどうよ? 所属したくなったっしょ? 冒険者ギルドに! これ、今だけだから! 俺の紹介だと言えばバッチリよ!」
「いや、冒険者ギルドだけはやめておいた方がいいですよ。本当に。荒くれ。乱暴。野蛮――と三拍子揃っていますから。それに比べて、商業ギルドは穏やか、温厚、理性的――と落ち着きを持っています。どちらがいいかは、考えるまでもありませんよね?」
「は~い! 将来のSランク発見! 何か大きなことを成し遂げるの間違いなし! それ、冒険者ギルドで達成してみない?」
「おっと、どうやら私は未来の大商人を見つけてしまったようですね。いかがですか? 私と組んで、これから世界を股にかけた大商機を起こしてみませんか?」
「ふふっ。ちょっとそこのお兄さん。いい素材、持ってない? 冒険者ギルドで私に、見・せ・て、欲しいな(胸部・大を強調)」
「おっと、書類を落としてしまいました。拾わなくては(タイトスカート・生足を見せつけるようにしゃがむ)」
なんというか露骨な勧誘が激しい。
少なくともわかることは二つ。
一つは、冒険者ギルドと商業ギルドが争っているらしい、ということ。
もう一つは、俺が冒険者ギルドにしろ、商業ギルドにしろ、そのランクが「F」だとわかると――。
『チッ』
舌打ちして、手のひらを返す。
時間を無駄にしたといった態度だ。
………………。
………………。
少し、強力な魔法を連発したくなった。
―――
とりあえず、状況がわからない。
なんでそんなに争っているのか、見当もつかない。
なので、こういう時はわかる人に聞けばいい。
こういうことを知っている人には心当たりがある。
まあ、当たり外れはあるが。
――という訳で、「穏やかな木漏れ日亭」という宿屋兼食堂を見つけたので、そこで一室取り、早速食堂でご飯をいただきつつ、話が聞けそうだったので女将さんに聞く。
ちなみに、食事は熱したオイル、ニンニク、唐辛子を混ぜ合わせたパスタに、ふっくら焼き上げたパンと、野菜をしっかり煮込んだスープ。
塩と胡椒で味も調えられていて、非常に美味しい。
非常に満足である。
取れた部屋も綺麗だったし、宿と食事の料金は他の宿屋よりも少し高いくらいだったが、このレベルなら当然だろう。
寧ろ、もっと高くてもおかしくないと思えるくらいだった。
まあ、お金に関してはまだ余力があるし、いざとなれば天塔で稼ぐのも一つの手なので問題ない。
それよりも今は、冒険者ギルドと商業ギルドの争っている状況について、だ。
狙い通りというか、女将さんは色々と知っていた。
まず、元々冒険者ギルドと商業ギルドは、仲が悪かった訳ではない。
三柱の国・ラピスラと言われているように、そこに王家が加わって、がっちりと協力してこの国を盛り上げていたそうだ。
それに、ここの冒険者ギルドと商業ギルドはただのギルドではない。
どちらも総本部である。
一国の本部ではなく、世界各地にあるギルドを統括している総本部が、ここにあるのだ。
だから、王家とも対等に協力し合えるので、三柱なのである。
しかし、それも数百年前までの話。
何がきっかけかはわかっていないが、突然冒険者ギルド総本部と商業ギルド総本部が争い始めた。
といっても、武力でやり合っている訳ではなく、自分のところの方が優れていると証明させたいそうだ。
その一環として、優秀な人材の引き抜きが行われている。
要は、自分のところはこれだけ優秀な人が所属して、これだけの品物を卸してくれているのだ、と相手に示したいらしい。
……なるほど。だから、あんなに当ギルドの方に卸してくれと言ってきて、「F」ランクでは見向きもしない訳か。
どちらにしろ、あの態度はいただけないが。
それで、その決着は未だについていないが……まあ、直接やり合うよりかはいいと思う。
まあ、流血沙汰になるよりはいいってだけで、この状況がいいという訳ではない。
王家はどちらにも協力せず、間に立ってこれまでに何度も仲裁を行っているそうだが……上手くいっていないのは現状が物語っている。
結局のところ、その根本となっている部分をどうにかしないといけない訳だが……さすがにそこまでは女将さんも知らなかった。
「落ち着かないし、いい加減仲良くして欲しいもんだけどね」
女将さんはそう締めくくったが、俺も同意見である。




