そんなに自信満々で大丈夫か? と心配な時もある
「青い空と海」による芸の披露が終わる。
数時間――といったところなので、思ったよりも早かった。
一日ここで拘束かな? と思っていたのだが、そうならないようである。
改めて見たが、「骨伝導」ネタは鉄板なのか、かなりの頻度で盛り上がっている。
中には使いどころを失敗したスケルトンも居たが、それならそれで盛り上がってはいた。
というのも、先ほど披露された芸は、練習中のモノばかり。
これから新しい未来が始まるかもしれないという期待、それと外に出て人にあったとしても怖がらせないように、ということで新たな芸を考えているそうだ。
……まあ、希望通りに航海したとして、見た目は完全に幽霊船となるから、それが少しでも緩和するのなら、いいことなのは間違いない。
相手が大人しく芸を見てくれるかどうかは怪しいが。
ただ、アブさんは早速芸の昇華について話し合いを始める「青い空と海」の輪に交ざって、あーだこーだと色々と案を出しているのだが――。
「大丈夫だ。自信を持て。外の世界を見てきた某が保証する。だが、『骨伝導』ネタはやはりスケルトンでなければ伝わりづらい。だから、まずはもう少し言葉による伝え方を強化するのはどうだろうか? 言葉であれば、この姿で恐れられても相手に伝わるかもしれない。だが、『骨伝導』ネタを捨てる必要はない。もっと上手く話せるようになれば相手に伝えられるようになり、通用するはずだ」
「「「おおお~」」」
船員たちに持て囃されていた。
これまでで一番の真剣さを感じる。
ただ、アブさん。外の世界を見てきたって、外に出てからそんなに月日経っていないのに、そんな自信満々に言って大丈夫か?
不安になるが……まあ、楽しそうだし。いいか。
それに、今はラビンさんの発言の方が気がかりだ。
「それで、ラビンさん。もうここがラビンさんのダンジョンってどういうこと?」
「どういうことって、そのままの意味だけど……まあ、簡単に説明すると、ここは誰のモノでもない――要は支配者が居ないダンジョンだったから、そのままボクがここのダンジョンマスターになった、というだけだよ。わかりやすく言えば、ここは別荘。向こうは本邸って感じ」
「なるほど。だが、ダンジョンマスターが居ない?」
「うん。居なかったよ。でも、居なくなってからそんなに時間が経っていない感じだったから……ここ最近で何か強い魔物を倒さなかった?」
「……あっ。カリュブディスもどき」
「寓話、神話などに出てくるヤツだね。でも、もどき?」
あっ、そういえば「青い空と海」については話したが、カリュブディスもどきについてはまだ話していなかったな。
なので、ここの奥でドレアと共に戦ったカリュブディスもどき、それと道化師のような者について話す。
「……ふんふん。なるほど。じゃあ、それをダンジョンマスターにしたのかな? でも意識はハッキリしてなさそうだから、ダンジョンとして発展しなかったとか? まあ、本物ではなさそうだし、作り物なら意識がハッキリしてなくてもおかしくないから、『もどき』で合っているね」
「わかるのか?」
「まあ、本物ならここで収められないような格の違いがあるし、海の一部みたいなモノだから、もっと凄まじい存在だからね。でも、『もどき』とはいえカリュブディスに似せた存在を用意できて、簡易的とはいえここをダンジョンにできるとなると、その道化師のような者は、それなりの腕前は持っているってことかな」
……それなりでは済まないと思うのだが、ラビンさんからすれば「それなり」なのだろう。
でも――。
「持っている? 持っていた、ではなく?」
「う~ん。確証はない訳だし。可能性の話だけど、それなりの腕前があれば何かしらの方法で延命措置は取れるし、そもそも道化師としかわからず、その種族はわかっていないんだよね? なら、長命種である可能性もあるから、一概にもう死んでいる、とは限らないかな」
言われてみれば、確かに。
終わったモノだと判断するのは早いかもしれない。
まっ、ラビンさんが言ったように可能性の話だけど。
それよりも今は――。
「可能性は可能性として、今は『青い空と海』の方が重要だ。それじゃあ、もうラビンさんのダンジョンの間を行ったり来たりできるのか?」
「いや、それはまだ。今はまだここをボクのダンジョンとしただけだからね。行き来できる魔法陣を設置しないといけないよ。でも……どこに設置しようか? 勝手に決めていいのかな? リーダーみたいな人居る?」
居る居る、ということでゼルさんを連れてくる。
「こちら、『青い空と海』の船長のゼルさん。で、こちらが世界最大ダンジョンのダンジョンマスターであるラビンさん」
俺を間に挟んで、互いを紹介する。
ラビンさんは「どうも」とニッコリだが、ゼルさんは驚いているように見えた。
「え? 世界最大って、あの……」
どうやら知っているようだ。
まあ、実際にいつからかは知らないけれど、遥か昔からあるとされているから、知っていても不思議ではない。
それそれ、と頷く俺とラビンさん。
ゼルさんが緊張しているようだが、大丈夫。
気の良い人だよ。
だから、あとは任せようと思ったのだが、ゼルさんが俺の服を掴んで離さない。
ガッチリ掴まれている。
………………仕方ない、と俺も参加し、ラビンさんが支配したことでここを自由にいじれるとわかり、奥――カリュプディスもどきが居たところに隠し部屋を作り、そこに行き来するための魔法陣が設置された。
あとは、ラビンさんのダンジョンの方に設置すればいいだけなので、早速戻ることに――。
「いや、某のダンジョンにも……」
あっ、忘れていた。
でも、それは「青い空と海」がアブさんのダンジョンの海でも航海したいと言ったら、だからな。




