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賢者巡礼  作者: ナハァト
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勉強は知識として役に立つ

 必死に弁明した結果。誤解は解けた……と思う。

 相手は第二王子と第一王女だが、社会的立場が死にそうでそれどころではなかったため、王族を相手にする口調ではなかったことも謝ろうとしたが、そこも不問にされた。

 口調に関しても特に気にならないので、公の場でない限りはそのままで構わないという寛大な処置。

 ……助かった。

 少なくとも、今は敵対的な視線と態度は取られていない。

 リノファ王女が恥ずかしそうにチラチラと見ているだけ。

 いたたまれないというか、恥辱のようなモノを感じるが、甘んじて受け入れよう。

 誰が悪いかと言えば、間違いなく言い間違えた俺だ。

 ただ、今大事なのは、それではない。


「……呪い、か?」


 俺の言葉に、「新緑の大樹」以外が反応を示す。

 どうやら間違いないようだ。

 ちらりと綺麗な鎖骨と共に見えた黒い茨の紋様は、呪い確定である。

 無のグラノさんたちから座学で習った、魔法についてのことを思い出す。

 ――呪い。

 呪属性魔法、という、基本七系統には与していない独立した魔法による、弱体化効果を及ぼしている状態を指している。

 かなりのレアスキルであり、無のグラノさんたちが言うには、国中を探してもスキル所有者が居ないのが普通、だそうだ。

 呪いは、どこが、何が呪われるかで状態は変わり、効果の強弱は使い手次第だが、呪いという状態に共通しているのは、その効果は体全体に少しずつ広がっていき、合わせて体も弱っていくため、最悪死に至るということだ。

 また、厄介なことに、呪い効果を解く――解呪は三つの手段しかない。

 一つは、使い手を殺すこと。

 稀に殺すことで発動する呪いもあるそうだが、それは使い手が呪属性魔法を極めていれば、という条件が付くそうなので、基本的に考えなくてもいいことだろう。

 一つは、光属性魔法による浄化。

 光属性魔法の中に状態を正常に戻す魔法があり、使い手の技量が相手を上回っていれば解呪できるそうで、基本はこれらしい。

 一つは、アイテムによる回復。

 呪いの状態にもよるが、普通の状態異常回復薬では治らず、かなり高品質なモノか、もしくは専用の解呪薬であれば治るそうだが、必要な素材が現実的ではないそうだ。

 この三つしか手段がないため、一度呪われてしまうと、解呪はほぼ不可能に近いらしい。

 ただ、この呪属性魔法のスキル持ちは滅多に居るモノではないし、呪う側もなんか色々と制約があるそうなので、呪いを受けている者はそうそう居ない――という話だったのだが……居るところには居るということだろう。

 俺が黒い茨の紋様が呪いだと言い当てたことで、テレイル王子が観念したかのように息を吐く。


「……さすがは自らを恥ずかしげもなく凄腕と名乗るだけはありますね」


 ……え? もしかして、凄腕って恥ずかしいことなのか?


「ということは、当然解呪についてもご存じで?」


「使用者を殺す。光属性魔法で回復。特殊なアイテムで治す。だろ」


「その通りです。ここには……妹の解呪に来たのですが」


 テレイル王子はその先を口にはしない。

 リノファ王女だけではなく、ゼブライエン辺境伯と「新緑の大樹」、老齢の執事もどこか悲痛な面持ちだ。

 まだ呪われているということは、失敗したのだろう。

 ゼブライエン辺境伯が現れていた時に沈んでいたのは、そういうことか。

 なんとなくここに来た理由はわかる。

 辺境だからだ。

 ここでしか取れない素材があり、それを元に状態異常回復薬か解呪薬を作って試みたが、駄目だったというのが現状だろう。

 ただ、念のため確認。


「アイテムが駄目だったのか? 他の手段は?」


「ええ。ここでしか取れない素材で解呪薬を作ってもらったのですが、駄目でした。他の手段も既に試みて……駄目でした。使用者はある者に重宝されているため、しっかりと守られているので手が出せません。光属性魔法は相手の技量を上回ることができず……」


 ここが最後の望みでした、と辛そうに言うテレイル王子。

 しかも、リノファ王女の呪いはかなり進行していて、もういつ限界が来てもおかしくないらしい。

 時間もない、と。


「……やはり、こうなれば王都に向けて挙兵するしかありません!」


 ゼブライエン辺境伯が迫力全開で、テレイル王子に向けてそう進言する。

 テレイル王子も。それしかないかもしれないと考えていそうな表情だ。

 しかし、王都……ということは、この国自体が相手ということか?

 なんとなく呪いをかけてきた相手が想像できる。

 原因は、やはり「スキル至上主義」に反対しているからだろうか? と思っていると、テレイル王子の呟きが聞こえる。


「……やはり、それしかないか」


 どこか覚悟のようなモノが感じられた。

 まあ、領軍で国軍を相手にするのは……難しいだろうな。

 ………………。

 ………………。

 直感だが、ここでリノファ王女を助けた方が母さんを救出できそうな気がするというか、味方になってくれそうな気がする。

 ただ、今の俺にその手段がない。

 光のレイさんの魔力と記憶を受け継ぐのは……多分、今の俺には無理だろう。

 辺境素材でも駄目だったのなら、あとその手の素材が手に入るのはダンジョン……ラビンさんのところなら……ラビンさん……アイテム………………アイテム?

 あれ? これ……もしかしてだけど……。

 マジックバックの中から状態異常回復薬を取り出して、リノファ王女に渡す。

 不思議そうに首を傾げるリノファ王女。

 テレイル王子たちは挙兵のことで頭が一杯のため、こちらに気付かず、とめるようなことはなかった。


「それを飲んでみてくれるか?」


「えっと……」


「ぐいっと。一気に」


 俺を信じるというよりは、先は短いと少し自棄になっていたのだろう。

 別にいいかという感じで、リノファ王女がぐいっと一気に飲む。

 ピカッ! とリノファ王女の体が一瞬光り、その光でテレイル王子たちもこちらに気付く。

 飲み切ったリノファ王女は、自分の体を数度触り、服の首元部分を少し開けてチラッと確認。

 綺麗な鎖骨、ありがとうございます。


「……解呪されました」


 さすがはラビンさんの用意した状態異常回復薬である。


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