本当に必要なモノはなんですか?
ドレアと共に竜杖に乗り、「帰還」と伝えてラビンさんのダンジョンまで寄り道はせずに一直線に戻る。
アブさん、ドレアと話しながら向かうが、どうやらドレアは緊張しているようだ。
「ウィンヴィさんは優しい人だから、気軽に接すればいい」
「それはわかっているのだが、さすがに、な」
「大丈夫だ。見た目は普通のスケルトンだから」
「それは普通安心するような部分ではないんだがな」
まあ、ドレアはアブさんだけではなく「青い空と海」も普通に受け入れていたし、大丈夫だろう。
「まあ、某と同じくらい男前なのは間違いない。あまりの男前振りに、別の意味で緊張するかもな」
アブさんの言葉に、俺とドレアは苦笑を浮かべる。
それに、ドレアはアブさんに緊張していないが? と言いたくなったがやめておいた。
いや、そもそもスケルトンの顔はどれも同じだと思うのだが?
……いや、リノファなら判別できている可能性は大いにある。
ただ、その話をリノファに振ると、下手をすれば丸一日は潰れる可能性があるのも事実。
迂闊に話題を振らないようにしよう。
そうこうしている間に、結界を越えてラビンさんの隠れ家に辿り着く。
「ここが?」
ドレアの不思議そうな問いに、頷きを返す。
まあ、ここがダンジョン最下層と繋がっているとは、普通は思わないよな。
でも事実である。
あとは、ラビンさんがドレアにも魔法陣が反応するようにしてくれているかどうか、だ。
こればっかりは試してみないとわからないので、ラビンさんの隠れ家に入り、その奥へ。
「……普通の家、だな」
そう呟くドレアを連れて、魔法陣の上に立つ。
魔法陣を起動して――ラビンさんのダンジョンの最下層へ。
「え?」
ドレアから驚きの声が漏れる。
それはそうだろう。
見える景色が家の中からいきなり洞窟に変わったのだ。
でも、ドレアも通れるようになっていたようで、ホッと安堵する。
――さすがはラビンさん、といったところだろうか。
ドレアが落ち着くのを待ってから、先に進む。
「ここは、本当にダンジョンの最下層なのか?」
「ああ。確か、地下212階、だったかな?」
「は? 212っ! ……本当に?」
「嘘吐いてどうする。といっても、俺も実際に確認した訳ではなく、ここのダンジョンマスターであるラビンさんに教えられただけだけど。まっ、嘘ではないよ」
言葉だけだと信じられないかもしれないけれど、多分カーくんを見れば納得するだろう。
そう思っている間にボス部屋の前に着いたので、そのまま扉を開けて中に――。
「さて、諸君。ワシは『グラノ海賊団』の船長であるグラノ。今日は船員を紹介しよう。並びたまえ」
少し高くなっている場所。
そこに無のグラノさんが立ち、次いで火のヒストさん、風のウィンヴィさん、闇のアンクさんが来て並ぶ。
他のみんなはそれを見物しているようだ。
というか、ボス部屋の中にあんな場所なかったよな?
「良し、来たな。では自己紹介をしろ」
「――心が燃え滾るぜ! 『焼き尽くす灼熱』ヒスト!」
「――風が泣いている。『吹き荒ぶ大嵐』ウィンヴィ」
「――闇は始まりで終わり。『埋め尽くす暗黒』アンク」
火のヒストさん、風のウィンヴィさん、闇のアンクさんの三人が、順にポーズを取りながらそう言う。
「……いや、いやいや、なんでそんな濃い自己紹介した? ワシ、さっきさらっと紹介したのに、なんで船員の方が濃いの? ワシ、船長なのに……あれ? こういうのは普通船長を立てるような自己紹介じゃないの?」
困惑を見せる無のグラノさん。
バタン、と扉を閉める。
眉間を揉む。
今の、何?
あれ? 今までなかった場所があって、今まで見たことのない行動……いや、行動だけはどこかの部隊で見たような……。
「どうした?」
ドレアが不思議そうに尋ねてくる。
どうやら見えていなかったようだ。
それが良かったのか悪かったのかはわからないが。
「……大丈夫だ……あれ? アブさんは?」
「アルムが扉を開けて直ぐそのまま扉をすり抜けて入っていったが?」
しまった! 見えていたのか!
急いで扉を開けて中を確認。
アブさんは――観客のように少し高くなっている場所を楽しそうに見ている。
……遅かった。
そんなアブさんが釘付けで見ている少し高くなっている場所では――。
「まあ、自分がどのような人物なのかを表現するのは大事だからな。自己紹介の件は黙認しよう。しかし、お主たちは海賊船の船員でもある。自分だけではなく、海賊団の船員として大事なことは何かわかるか? 順に言ってみろ」
「筋肉!」
「お主、骨だろうが! 次!」
「船に酔わない」
「酔うの? 内臓ないのに? 吐くモノないのに? 次!」
「日焼け注意」
「人によっては気にすることだけど、え? 気にする人だった? 次!」
何やら三人が船員として大事だと思うことを口にして、無のグラノさんがそれに対して何か言うようだ。
「……『青い空と海』を思い出すな」
俺の横でその光景を覗いているドレアが、そう感想を口にする。
奇遇だな。
俺もそう思っていた。




