状況が変われば新しい何かが始まる……かもしれない
数日が経ち、色々と明らかになった。
まず、宰相は隣国と協力して海洋国・シートピアを手中に収めようとしていた。
その見返りに、隣国には海洋国・シートピアの一部の領地を譲る予定であったらしい。
なんでも、隣国は漁場が少なく、これまでに何度も新たな漁場を手にしようと海洋国・シートピアに手を出していたそうだ。
海洋国・シートピアは豊かな漁場が多いため、それならいくつかの漁場を失っても痛手とはならないと、宰相はそれを餌にして協力させていたようである。
その協力の一つが、海賊。
隣国が海賊を送り込んで、海洋国・シートピアに混乱を起こそうと画策していた。
となると、「ドゥラーク海賊団」も? と思ったのだが、そっちは違うようだ。
それでも、色々と外部の海賊を取り込んでいたので、その中に隣国の海賊が含まれていた可能性は大いにあるらしい。
まあ、既に潰れた海賊団なので関係ない。
隣国には、これから対応するそうだ。
宰相と共に捕まった隣国の者は、どうやらそれなりの地位に就いていた者だったらしいので、色々と使われることになるだろう。
宰相が海洋国・シートピアを手中に収めようとした理由は――言ってしまえばリュエルの執念、だろうか。
――過去に、リュエルは風のウィンヴィに悪事のすべてを押し付けた。
だが、その余波とでも言えばいいのか、リュエルが予期していたよりも反響が大きくなり過ぎてしまい、当時の現王族「ラメール家」はその責任を取るような形で追い込まれて退き、新たな王族となったのが「ルメール家」である。
リュエルからすれば、それは予定外であり、内心では憤慨する出来事であった。
しかし、当代――自分の代で王族に返り咲くことは難しい……というより、実質的に不可能であるため、子孫に託すことにしたのだ。
どのような手を使っても、再び「ラメール家」が王族に……海洋国・シートピアの真なる支配者として、と。
リュエルの呪い。あるいはラメール家の戒め。
そのような思いを繋いで、リュエルの子孫は「リュエルの手記」を今に残していた。
まあ、そこら辺のことが全部書かれていたので、それが裏目に出た、ということだ。
ただ、そうして正しい歴史が明らかになっていく中――グラスさまが個人的に気がかりとなっている部分がある。
それは、「ルメール家」には「青い空と海」の船長であるゼルさんも名を連ねているにも関わらず、それでも新たな王族となったということ。
まあ、それに関しては、当時「ルメール家」の中にそのような者は居ない、という扱いにしたとか、裏で色々と動いたのだろうと推測できる。
胸糞悪い話だ。
そこらの事実が「リュエルの手記」で分かった時、グラスさまは眉間に皺を寄せて難しい表情を浮かべたらしい。
色々と思うことがあるのは間違いないだろう。
ただ、今グラスさまが海洋国・シートピアを上手く治めているのは良いことだと思う。
―――
という現段階でわかったことを、ハーフェーン商会の会長室でドレアから聞いた。
「折角話を持ってきたというのに、お前は何をしているんだ?」
「何って、前にお願いしていた魚介類の数が揃ったと聞いたから、受け取っていただけだが?」
「そうか。というか……本当に爺ちゃんから依頼を受けていたんだな」
「そう言っただろ」
オセアンさんが用意してくれた魚介類をマジックバッグの中にすべて入れる。
これでお土産は完了だ。
みんな喜ぶだろう。
しかし、今や海洋国・シートピアで一番のハーフェーン商会の商会長であるオセアンさんを「爺ちゃん」呼びか。
そんな風に呼べるのは、オセアンさんの孫であるジェリさん……は商会での立場を考慮して言わなそうだから、ドレアくらいかもしれない。
そんなオセアンさんは、宰相の件で、これまで一、二を争っていた「イレート商会」が実質取り潰しになったことで上機嫌なのか、あるいはドレアに「爺ちゃん」呼びされて嬉しいのか、はたまたどちらもか――はわからないが、ニッコニコである。
「それで、グラスさまの方を手伝っていたようだが、もういいのか?」
「ああ、一通り片は付いた。もうあとは任せていいだろう。それに、頼れる相手なら『緋色の情熱』も居るしな」
「そうか」
ドレアがラビンさんのダンジョンに向かうため、一時的に抜けるのだが大丈夫なようだ。
「それで、どうする? 直ぐ向かうのか? それとも、あの島に向かうのか?」
ドレアが気にしているのは、「青い空と海」の面々だろう。
しかし、大丈夫だ。
「ああ、もう直ぐ向かう。あの人たちには既に説明し終えているから」
「……いつの間に」
「ドレアが王城で頑張っている間に」
何しろ、この数日暇を持て余していたもので。
だから、アブさんと共に「青い空と海」に会いに行っていた。
気がかりだっただろうから、宰相の件が無事に終わったと伝えるために。
あとは今後のことを少々話し合いたかったが、俺だけで決められることではないため、やめておいた。
みんなと相談してから、だ。
ただ――。
―――
少し高くなっている場所。
そこにスケルトンが一人立っていた。
「『青い空と海』流秘儀――『無限分身』」
そのスケルトンがそう言うと、その背から別のスケルトンが姿を現わす――かと思えば、新たに現れたスケルトンの背から、また別のスケルトンが姿を現わす。
それが続いていく。
なるほど。
スケルトンという見た目を使って、さも増えているように見せている訳か。
ただ、せめて服装は統一して欲しい。
それと、「有限」だと思う。
「おお~! これはいいんじゃないか? これなら誰も怖がらずに……て、こら! ゾンビ状態のヤツが現れるな!」
「そうだ! そうだ! スケルトンという見た目でわからないからこそ意味があるんだぞ!」
苦情が出たように、スケルトンたちの中にゾンビが居た。
まだまだ完成には遠いようである。
―――
といった感じで新しい芸を考え始めていた。
日の目を見る時が来るかどうかはわからないが………………まあ、当人たちは楽しそうである。
という訳で、元々俺の方はいつでもよく、ドレアも問題ないとなったので、早速ラビンさんのダンジョンに向けて出発することにした。




