笑っておくのも一つの手
証拠の類は、本来なら見つからないような場所や、あるいは見つけて手に取った瞬間に燃えてなくなるような仕掛けが施されていたりと、厳重に隠してかなり気を遣っていたようだったが、アブさんには通じなかった。
「ダンジョンマスターである某に……破れぬ仕掛けなし。隠し通せる場所はない」
証拠集め中、アブさんがそんなことを言っていた。
自信満々なのは別にいいのだが、それってダンジョンマスターであることが関係あるのだろうか?
ないように思う。
斥候職とか、そこら辺に関わってくる能力ではないかと思うのだが……。
しかし、なんでも破れて、隠せない、か。
「……なら、同じダンジョンマスターであるラビンさんでも無理ってことか」
思ったことを口にしただけなのだが、アブさんは俺の服を掴んで首を左右に振る。
無理無理、同じSランクでもその中にも格付けがあるのと一緒、と。
ははは、なるほど。と笑っておいた。
「……試そうとしないよな? アルム」
ははは、と笑っておいた。
そうして集めた証拠は大体が書類で、隣国、海賊、商会との間で宰相が交わした密約であった。
どれも流し見ただけだが、隣国との密約は――現女王さまを退位させて自分が王となるための協力と、王となったあとの隣国への見返りについて書かれている。
海賊とは――国軍の巡回ルートを教える代わりに、表に出せない暗殺などを請け負わせていたようだ。
つい先日の「ドゥラーク海賊団」による王都襲撃にも関わっていた。
商会は……あとでわかったのだが、俺にちょっかいをかけようとしていた「イレート商会」で、どうやら王都・ポートアンカー内で一、二を争うまで成長した裏には宰相が居たようである。
その見返りで、後ろ暗いことに協力させている、といったところか。
という訳で、宰相は真っ黒だった。
それらを同じく流し見たグラスさまはブチ切れ。
笑みすら浮かべず、虫けらを見るような目で宰相を見て――。
「どうやら、宰相は隣国にこの国を売り渡そうとしている国賊のようだ。牢にぶち込んでおけ。ああ、そこの隣国のヤツもな」
『ははっ!』
グラスさまの命令で騎士と兵士たちが宰相と隣国の者を捕らえる。
「ええい! 放せ! 私を誰だと思っている! 宰相だぞ! 私は『リィバル・マレ・ラメール』! 海洋国・シートピアの正統なる王家の血を引く者なのだぞ! それを貴様ら如きが――うぐっ!」
うるさい、とグラスさまが宰相の腹部に一発入れ、ぐったりとしたところを連行されていく。
重そうな一発だった。
隣国の者はその様子に顔面が蒼白し、抵抗することなく連行されていった。
騎士と兵士たちは屋敷の中も入っていく。
屋敷の中に居る人たち――執事やメイドなんかも話を聞くために一応連行するのだろう。
門番も連行されていくし。
しかし、今行くと「緋色の情熱」とかち合うのでは……まあ、女王直属の海兵部隊だし、上手くやるのだろう。
「次からはもう少し手順を踏んでくれると助かるな。このような強硬手段は今回限りにしたい」
「わかっている。ただ、それだけ私も焦っていた、ということはわかって欲しいな」
「もちろんわかっているとも。私の身を案じて、ということもな。ありがとう。ドレア。私だけではなく、この国も救ってくれて」
「気にしなくていい。私は友達を助けただけだ。グラス」
笑みを浮かべ合うドレアとグラスさま。
あの、ここにも協力者は居るのですが。
俺だけではなくアブさんも。
アブさんは俺が労うとして、俺のことは誰が労ってくれるのだろうか?
そう思っていると、グラスさまが俺を見る。
「アルムも、よくやってくれた。感謝する」
次いで、ドレアが俺に向けて親指を立てる。
俺も親指を立て返した。
そして、俺はまだ渡していなかった本をグラスさまに渡す。
「これは?」
「パラっとしか見ていないが、ウィンヴィさんへの恨み言が書き綴られている。どうやら『リュエル・マレ・ラメール』の手記のようだ。厳重に保管されていた」
「なにっ!」
グラスさまが受け取り、しっかりと確認する。
ドレアも驚いた様子で、本――手記に目を向けていた。
「保護魔法がかけられている……嘘や偽物の類ではないかもしれない。何より、この屋敷――ラメール家にあったということが本物であるという信憑性を高めている。……いいんだな? こちらで預かっても?」
グラスさまの問いに、俺は頷きを返す。
「ああ。構わない。それで……正しい歴史が明らかになって広まるのなら」
「正しい歴史、とはなんだ?」
「それは、その手記を読めばわかるさ、きっと。それか、ドレアが知っている」
笑みを浮かべるドレア。
風のウィンヴィさん、ソフィーリアさんについてだけではなく、「青い空と海」にも影響すると、わかっているからだ。
早速とばかりにドレアから事情を聞き出そうとするグラスさま。
……さて、これでこの国も平和になるだろう。
まだ少しやることはあるが、そろそろ次へ向かおうかな、と思った。




