出遅れると出番はないも同然
投稿遅くなりました。
申し訳ございません。
次からは遅れないように気を付けます。
ドレアの行動は素早かった。
俺が誰からその情報を聞いたのか、わかったからだろう。
対して、グラスさまはアブさんを知らない。
だから、俺が言ったことを真に受けない。
その差だ。
ドレアは直ぐに飛び出し、声を荒げて「緋色の情熱」を呼ぶ。
そのまま乗り込むつもりだろう。
「ド、ドレア! 待て!」
グラスさまもあとを追う。
部屋に一人、ポツンと残された。
いや、一人ではない。
「アブさん。どうしようか」
「どう、とは? あとを追うのではないか?」
「……そうなんだが、今から行って間に合うか?」
「空から行けばいいのでは?」
それだ! とパチンと指を鳴らす。
さすがアブさん。
部屋の窓から飛び出す。
「アブさん! どこだ!」
「あっちだ!」
アブさんの指し示す方向を見る。
そこは庭付きの大きな家が建ち並ぶ一画。
所謂、貴族街。
その中でも一際大きな敷地を誇る豪邸を、アブさんは指差している。
そこが宰相の屋敷のようだ――と判断したところで異変に気付く。
「……え?」
俺の目が悪くなっていないのなら、今、門のところでドレアが門番を殴り飛ばしたのだが。
いや、ドレアだけではない。
ドレアのうしろに控えていた「緋色の情熱」が一気に飛び出し、別の門番を殴り倒して敷地内になだれ込んでいく。
当然、その先頭はドレアだ。
行動が速過ぎないだろうか?
「こらあ~! 待てえ~!」
そのうしろを、騎士や兵を率いたグラスさまが追っている。
少し滑稽な光景に見えなくもないが、グラスさまに本気のようなモノは見えない。
……あ~、これはアレだな。
ドレアたちをとめるためという名目で、そのまま宰相の屋敷を調べようという魂胆な気がする。
「……アルム。行かなくていいのか?」
「はっ! そうだ! 出遅れた!」
アブさんを伴い、大急ぎで俺も向かう。
―――
……間に合わなかった。
俺が宰相の屋敷がある敷地内に下りた時には、既に「緋色の情熱」は既に屋敷内に入っていて、グラスさま率いる騎士や兵士たちが屋敷を取り囲んでいた。
俺が入り込む隙間はない。
行動が速過ぎる。
宰相の屋敷内からは時々悲鳴が聞こえているので、「緋色の情熱」が大暴れしているのだろう。
俺の出番はないかもしれない。
それに、外ならまだしも、場所は大きな屋敷とはいえ家屋。
下手をすると俺の魔法ですべて吹き飛ばしてしまう可能性もある。
……大いに。
それは同時に証拠の類も消し飛ばしてしまう可能性があるので……これでいいのだ。
そう自分を慰める。
できることなら、子孫とはいえリュエル関係者には一発入れておきたかった。
そう思っていると、屋敷内から音が聞こえなくなり――屋敷の玄関扉から二人の男性が飛び出してくる。
いや、違う。
放り投げられたようで、地面にべしゃりと落ちた。
既にボコボコ状態なので顔の判別が難しいが、その内の一人は宰相のようだ。
あの顔。見覚えがある。
となると、もう一人は誰だろうと思うが……着ている服装がここら辺で見るのとは違うので、多分宰相が密会していた他国の者だろう。
そう判断していると、宰相がグラスさまを見つけて懇願する。
「グ、グラスさま! お助けください! あの者たちがいきなり襲撃をかけてきたのです!」
「それは由々しき事態だな。宰相」
「そうなのです! ですので、急ぎ捕らえて即死刑に」
「ただな、その前に聞きたいのだが、そこの者は誰だ? 宰相。お前の友人か?」
グラスさまが指摘するのは、宰相の横に居るボコボコの男性。
宰相は「うっ」と詰まる。
「あっ、いや、彼は……その……」
「どうした? 友人かどうかを問うている。見たところ、その者の服装は幾度となくちょっかいをかけてきてこの国に迷惑を、いや害を与えてきた隣国のモノのように見えるのだが?」
「そ、そのようなことより、早く私の屋敷に襲撃した者たちを」
「それに、だ。宰相。その者の服の品質は、それこそ貴族の中でも上級の者が着るくらい高そうに見える。しかし、私は隣国からそのような服を着られる高い地位の者が来るとは聞いていないのだが? その者はどうやって入国したのだ? その目的は? 宰相。説明してもらえるか?」
「………………」
貴様のどうでもいい釈明を聞くはない、というグラスさまの圧力が強い。
宰相は黙り、もう一人の男性も口を開かない。
……グラスさまの圧力で口を開けなくなった、とかではないよな?
と思っていると、玄関からドレアが出てくる。
「……なんだ? まだ白状していないのか?」
宰相はそれにも反応しない――と思っていたのだが、違ったようだ。
「こ、この者は、私が隣国に放った間諜なのです! その報告を受けていただけに過ぎません! すべては誤解! いえ、寧ろ、今回の件で騒ぎとなり、隣国の深くまで潜らせたこの間諜が使えなくなった可能性があります! その責任をあの者に!」
「ああ? なんだと!」
これが真実だと宰相が話し出し、ドレアが上等だと海神の槍を構える。
宰相が迫真の演技なので、グラスさま側の騎士や兵士たちがざわめき出す。
どうしよう……どうなるのだろう……と思っていると、アブさんが手信号で俺に宰相の屋敷の中へ入るように指示。
「……失礼しまーす」
俺はそう言って宰相の屋敷に入る。
………………。
………………。
数分後。屋敷のすべてを隠れ見て把握していたアブさんの指示の下、地下室や隠し部屋から証拠の類をかき集めた俺が玄関から出て、本や書類の類を掲げて一言。
「証拠、だあー!」
グラスさまに提出した。




