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賢者巡礼  作者: ナハァト
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すごく伝わる時がある

 カリュブディスもどきを倒した。

 向こうが一体に対して、俺とドレアが組み、尚且つこっちに有利な状態で、だ。

 そうしなければ勝てないくらい、カリュブディスもどきは強かった。

 まあ、周囲の環境を気にしなくてもいいのなら、俺単独でもどうにかできただろうけど。

 いや、それはドレアも同じか。

 近付くのが困難であったが、海の中であれば海神の槍がある限り敵ではなかったと思う。

 ドレア自身が言っていたように、強く複数が相手でもなければ敵なしだ。

 そんなドレアは――。


「………………」


 カリュブディスもどきを倒した喜びの表現はなく、ただ見ていた。

 奥にある、海神の船を。

 長く探していたようだし、感じ入ることがあるのだろう。


「今はそっとしておくか」


「そうだね」


 ゼルさんも察したのか、俺の意見に賛同。

 俺とゼルさんはドレアの邪魔をしないように、音を立てずにこの場をあとにした。


     ―――


 戻って最初に目にしたのは、少し高くなっている場所。

 そこでゾンビとスケルトンが並んで立っていた。

 どうやら二人の会話で盛り上がっていたようで、場が明るく、笑い声が漏れている。

 そして――。


「なんでやねん!」


 ゾンビがスケルトンの頭部を叩く。

 すると、スケルトンの頭部が落ち――。


「頭、頭」


 頭部が落ちたスケルトンが、手足を動かしてあわあわしながら頭を探す。

 ゾンビが一言。


「いや、そこにあるがな!」


「そこがどこか、ようわからへんねん! よう見てみ! 目から地面にいっとるやろ!」


「いや、お前スケルトンなんやから、目、ないやろ!」


「あっ、せやった」


「迷いなく取れるんかい!」


「そら、取れるわ! 確かに目はないけど、心眼があるからな!」


「上手いこと言うたつもりか? というか、骨しかないお前がどうやって心眼を感じるねん!」


「そら決まっとるわ! 骨伝導や!」


 観客となっていたスケルトンたちがドッと笑う。

 アブさんもだ。

 ゼルさんも。

 ……どうしよう。俺はさっぱりわからないから笑うに笑えないんだが。

 ただ、こういう雰囲気は嫌いでないため、少しほっこりした。

 それに、空間を埋め尽くすような水球とその維持で、かなりの魔力を消耗しているのも事実。

 適当なところで腰を下ろし、休憩を取る。

 何も考えずにボーっと見ている内に披露していた歓迎の芸は終わり、そこで一旦休憩となった。

 そう。一旦休憩。

 まだまだあるらしい。

 約百五十年の重みを感じる。

 ゼルさんは「青い空と海ブルースカイオーシャン」の船員たちに、カリュブディスもどきを倒した報告をするためにあちらへ。

 代わりという訳ではないが、アブさんがこちらへ来る。


「随分と消耗しているようだが、倒したのか?」


「ああ、どうにかなった。ドレアだけ残して、こっちに戻って来た。ドレアが海神の船を前にして動かなくなってな」


「なるほど。思うところがあるのだろう。しかし、あれを倒せるとは……さすがはアルム、といったところか」


「いや、できなくはないと思うが、今回は色々と条件があったからな。ドレアと協力してどうにか、といったところだ」


 どのようにしてカリュブディスもどきを倒したのかをアブさんに説明していると、ゼルさんがこちらに来る。

青い空と海ブルースカイオーシャン」の面々は、大喜びしていた。

 漸く、といった感じなのだろう。

 それでも奥に向かわないのは、ゼルさんの指示でやめたというのもあるだろうが、やはりドレアに気を遣って、といったところか。

 まあ、風のウィンヴィさんの記憶の中だと、「青い空と海ブルースカイオーシャン」は誰もが風のウィンヴィさんとソフィーリアさんへの忠誠心が高かったし、ソフィーリアさんの子孫であるドレアに対してそういう行動を取っても不思議ではない。

 こちらに来たゼルさんは、俺に向けて手を差し出す。

 握手を求めているようなので応じた。


「ありがとう。アルム。私らの長年の憂いをすべて払ってくれて」


「偶々さ。それに、そういうのは俺よりも、ずっと探し続けていたドレアに言ってくれ」


「もちろん。あとで言うよ」


「そうか。それで、これからどうするつもりなんだ? 海神の船も使えるようになったし、これで海の魔物に取り囲まれているこの島からも出られるだろ」


「……どうしたものかね。さすがにこんな身じゃ、外に出ても恐れられるだけ……いや、討伐されかねないしね。この国に余計な混乱は持ち込みたくないよ」


 ああ……そうだよな。

 俺みたいに慣れているのも、ドレアみたいに直ぐ受け入れられるのも、珍しい方だよな。

 それに、確かによく考えてみると、船を用意したとして、乗っているのがゾンビとスケルトンだけというのは………………普通ではない、か。

 どこの幽霊船だ……いや、幽霊ではないから……なんだろう。

 ゾンビとスケルトン船?

 いや、これだとそのままか。

 まあ、どう呼ぶかは横に置いておいて、どうしようか悩む。

 ただ、どちらにしろというか、ドレアと同様に風のウィンヴィさんと会って欲しいのは確か。

 風のウィンヴィさんも、知ればきっと会いたいはず。

 というか、大前提となることを聞くのを忘れていた。


「そういうのを無視して、ゼルさんは――『青い空と海ブルースカイオーシャン』はどうしたいんだ? 今後を自由に選べるとしたら」


 こういうのは、まず相手がどうしたいかを聞いてからだ。

 それでできるかどうかを考えないと。

 ゼルさんは少し時間をくれ、と船員たちのところへ向かう。

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