中々上手くいかない時もある
ある程度距離ができると、カリュブディスもどきからの攻撃はとまった。
ゼルさんが言っていたように、ある程度近付いた者に対して攻撃を行うようだ。
一度戻る。
歓迎の芸が行われているところまで戻ると――。
「着脱!」
少し高くなっている場所。
そこに立っていたゾンビが、己の身を弾け飛ばしてスケルトンに。
「進化。スケルトーン」
身軽な状態になった。
今の状態なら、前の状態の時より防御力は劣るが、格段に素早く動くことができそうだ。
それこそ、目に見えぬ速さで。
まあ、問題としてゾンビ→スケルトンは一方通行だったはずだから、元の姿には戻れない、というのがあるが……それはいいのだろうか?
「ヒューヒュー!」
「ブラボー!」
「漸くお披露目できたな! 今日からキミもスケルトンだ!」
……「青い空と海」が盛り上がっているからいいんだろう。
アブさんも拍手喝采。
俺もあっちに交ざりたい。
少し高くなっている場所に居るスケルトンが、片手を前に出したポーズを取る。
「一皮剥けたぜ!」
……決め台詞だろうか?
再び盛り上がるアブさんと「青い空と海」。
いや、一皮どころの話ではないのだが……いや、こういうのは雰囲気も大事だ。
あえて何も言わないことにする。
ただ――。
「俺もあっちに……いや、なんでもない」
理解できないという目のドレアと雰囲気のゼルさんを見て、諦めた。
それに今はカリュブディスもどきの方だ。
カリュブディスもどきをどうにかしないと、海神の船を手にすることはできない。
倒す方法を考えないと……。
―――
先ほどのは初見ということもあって様子見である。
なので、改めて俺とドレアはカリュブディスもどきに挑む――が、その前に試し。
近付くと攻撃されるというのであれば、攻撃されない距離から攻撃すればいいのだ。
「『赤燃 貫き穿つ 振るわれる一突きは 燃え上げ突き刺す灼熱の猛火 炎槍』」
一本では不安なので、十本ほど同時に撃ち込んでみた。
着弾。大爆発。
黒煙が晴れると……水の膜に包まれたカリュブディスもどきが居た。
ムッとしたので、他にも試す。
結果は同じ。
すべて防がれてしまった。
まず、威力が弱いのは論外。
まったく通じていない。
なら、威力を上げたのなら通じるかと思ったが……そうでもなかった。
いや、水の膜を破ることはできるのだが、破った瞬間に新たな水の膜が生成されて防がれる。
水の膜はカリュブディスもどきのうしろにある海と繋がっているようで、制限は見えない。
カリュブディスもどきと魔力量勝負をしてもいいが、そうすると海神の船もどうなるかわからないというか、あまり周囲に余波が届くのが使いづらい。
海神の船がそれで被害を受ける可能性があるためだ。
ここで超爆発級の魔法を使えば、海神の船が沈没する可能性が高い。
最悪、天井も落ちてくるだろう。
なので、無理はしない。
最終手段と認定して、他の手を模索する。
―――
今度は最初から全開でいく。
といっても遠距離から俺の魔法ではなく、ドレアと共に近距離戦を仕掛けるのだ。
ただ、その前にドレアの海神の槍に水を纏わせる。
カリュブディスもどきの螺旋槍を防ぐだけで、纏わせていた海水を使い切ってしまっていたのだ。
同じ水量を纏わせ――いざ、参る。
「うおおおおおっ!」
「はあああああっ!」
俺の魔法とドレアの海神の槍による波状攻撃を、カリュブディスもどきはなんなく受けて、かわし、こちらの攻撃をかすりもさせない。
その上で、反撃も行ってきた。
螺旋槍をどうにかして近付いても、カリュブディスもどきは見事な体術を披露して、こちらを殴り、蹴り飛ばしてくる。
しかも、一撃が重い。
少なくとも、名乗っているように完全な魔法使い――後衛職の俺では、近接でカリュブディスもどきの体術にはついていけず、そう時間もかからずにやられるだろう。
体がついていかない。
前衛職であろうドレアですら、どちらかと言えば押され気味で、その割合はカリュブディスもどきの方に傾いていっている。
体力が尽きたドレアがやられるだろう。
それに、ドレアが前衛として近距離で戦い続けている間、俺は魔法が撃てない。
間違いなくドレアを巻き込む。
離れると、追撃として再び螺旋槍が放たれる。
決めきれなかったことを悔しいと思いつつ、俺が魔法でカリュブディスもどきの螺旋槍をすべて相殺し、ドレアが無事に後退。
そのまま俺も後退した。
―――
できれば俺とドレアでどうにかしたかったが……仕方ない。
俺にとっての最終手段を使うことにする。
「アブさん。頼む」
「……この芸が終わってからでいいか?」
少し高くなっている場所では、スケルトン数体が組み合わさって様々な形を表現していた。
サボテンとか、ピラミッドとか……。
あれ、落ちてバラバラになったら……そう思うと見ているだけでハラハラしてきた。
とりあえず、それが終わってから芸の披露は一旦中止というか休憩。
アブさんにカリュブディスもどきをどうにかしてもらう。
といっても、やってもらうことは簡単だ。
半透明状態で近付き、即死魔法で倒してもらうだけ。
「……ふっ。任せろ」
こちらに背を見せたアブさんが、そう言って親指を立てる。
頼もしい背中だ。
俺とドレア、ゼルさんが見守る中、半透明状態のアブさんがカリュブディスもどきに近付き――。
「……いや! はっ! ほっ! ちょっ! この数は!」
探知されて、数十の螺旋槍に襲われた。
アブさんは巧みに避けるが、前には出れなさそう。
「ふむ。アブさんを探知するとは……やるな。カリュブディスもどき」
「そうだな。限定的な空間だけに絞っているため、その分精度が高いといったところか」
「手ごわい相手だよ、本当に。『青い空と海』総出での数に任せて挑んだ時も、跳ね除けられてしまった」
「数で挑んでも、か」
「何か、もっと別の手を考えないとな」
「いや、冷静に戦力分析をするのではなく、まず某が下がれるように手を貸してくれないか!」
アブさんが切羽詰まった声を上げる。
大丈夫。まだいけるはず、ともう少しだけカリュブディスもどきの戦力確認を行った。




