そういう家系かな? と思う時もある
どうして俺が風のウィンヴィさんの記憶を持っているのか。
そのことについて、これまでのことを簡潔ではあるが丁寧に語る。
その結果――。
「……いや、ドレア。当たりどころが悪かったのかもしれない、みたいな感じで海神の槍を見るな。というか、そもそも、頭に海神の槍がぶつかったことはない」
「……」
「なら、元からか……みたいな目で俺を見るな」
失礼な。
こちらは正直に話しているというのに。
それに、ドレアだけではない。
「そっちも、残念なヤツを見るような雰囲気を醸し出すな。ついでに言えば、大丈夫。私だけはわかっているから、みたいなのもやめろ。それ、わかっていないヤツの方だからな」
「な、何故わかる!」
「……だから、スケルトンの知り合いが多いし、実際共に生活していた時間があるからだ。それで大体わかるようになっただけだ」
船長スケルトンの方も、だ。
確かに突拍子もない話だが、それでも事実は事実。
……まあ、信じ難いのは確かだが。
しかし、どうしたものか……俺の話は証拠を見せろと言われても、そう簡単にはいかないし……あっ、そうだ。
「なら、俺の話を信じてもらうために、もう一つ」
俺は船長スケルトンを見る。
船長スケルトンは首を傾げ――。
「なんだ? ……はっ! まさか! お前!」
「ああ、そのまさ」
「骨にすら欲情するヤツなのか! 共に連れているくらいだし! 骨だけになったとしても私がそれだけ魅力的なのはわかるが、肉体があった時の豊満な胸とくびれた腰に形のいい尻といったモノは何も……いや、腰だけはくびれていると言ってもいいね。なら、胸と尻はなくなったが、それでも、なのかい? まさか、骨になったからも欲情されることになるとはね」
「ちっがう! ドレアも、ええ……と引くんじゃない! 違うんだからな!」
「お、おう」
本当にわかっているのか?
それに、船長スケルトンに関しては妙に納得もできた。
そういう血筋・家系なのかもしれない。
「俺が言いたいことは、まだ教えていないことも答えられるってことだ。ウィンヴィさんの記憶の中にあることだけだが。その一つが、名前だ」
改めて、船長スケルトンを見る。
船長スケルトンは意図がわかったのか、先ほどと違って、言えるモノなら言ってみろ、という挑戦的な雰囲気を醸し出す。
「『ゼルナータ・シィ・ルメール』。愛称は『ゼル』。それがあなたの名だ。合っているだろ?」
驚きに目を見開く船長スケルトン――ゼルさん。
そう。海洋国・シートピアの現王家・ルメール家の先祖みたいなモノだ。
つまり、グラスさまと同じ家系である。
「まだ必要なら副船長の『タウロ』に、他の船員の名前も言うが?」
「……いいや、もう充分だよ。そこまで詳しくわかるのなら、もう疑いやしないさ」
「良かった。『ゼル』さん、と呼んでも?」
「好きにすればいいよ。ウィンヴィさまの意思を継いだようなモノなら、私に否はない。それより、あんた……」
「アルムだ」
「アルムの話が本当なら、ウィンヴィさまは本当に」
「ああ、当時は辛そうだったけど、今は仲間たちと楽しくやっているよ」
「そうか。それなら、それでいいよ」
ゼルさんは当事者だ。
色々と思うことがあるのだろう。
それはドレアも同じだ。
「本当に真実なのか……だが、確かにそれなら海神の槍を知っていることも不思議ではない。そんなことがあるのか、と言いたいけれどな」
いや、言っているし。
それに、少なくとも無のグラノさんたちに、下手をすれば俺も、という事例はある。
「………………会える?」
少しだけ考えたあと、ドレアは俺にそう尋ねてきた。
だから、頷きを返す。
「ああ、会える。というよりは、既に向こうの許可はもらってきているから大丈夫だ。ウィンヴィさんもできれば会いたいって言っている。ただ、ここの人たちと同じくスケルトンだから気をしっかり……いや、今更ながらよく平気だな、ドレア」
俺は無のグラノさんたちという前例があるから平気だが。
「ん? ああ、ゾンビやスケルトンか? 私は海賊だぞ。この程度、これまでにいくらでも見てきているから平気だ」
「そうか」
それはそれでどうかと思うが、大丈夫ならいいか。
とりあえず、リノファのような骨好きではないようである。
「ソフィーリアさまの子孫が海賊だなんて……」
ゼルさんが、嘆かわしいとでもいうような雰囲気を醸し出す。
当の本人は、そんな風には少しも思っていなさそう。
「それよりも、俺とドレアが話を聞きたいのは、ゼルさんの話だ。俺の中のウィンヴィさんの記憶は先ほど話した通りだが、ゼルさんには続きの部分がある。……ここに、『海神の船』はあるのか?」
ドレアもそれが聞きたかったと、ゼルさんを見る。
ゼルさんは頷いた。
「ああ、あるよ」
「私の睨んだ通り! だが、どうやってここに運んだ?」
「ドレア。さっきも言ったが、ゼルさんはルメール家の人間だ。そして、ラメール家とルメール家は親戚関係。つまり、神器を使える血筋は問題ない。あとは属性さえ揃えば使えるはずだ。槍も船も」
ドレアの疑問に答え、正解かどうか窺うようにゼルさんを見る。
笑みを浮かべたように見えた。
「そういうことよ。私も『海神の槍』を使えたし、『海神の船』を動かすこともできたわ。今はわからないけれどね。こんな身であるし」
そういえば、無のグラノさんたちも、魔法は使えなくなったと言っていた。
……あれ? でも、別に属性を失った訳ではない。
でなければ、俺が受け継ぐことはできない訳だし。
「試さなかったのか?」
俺の問いに、ゼルさんは首を横に振る。
「試せないんだよ。『海神の船』は今この奥にある。ただし、その前にはカリュブディス……の紛い物のような強力な魔物が居て近付けない」
「どういうことだ?」
「どうもこうも、そのままの意味さ。といっても、あれは元から居た訳ではない。『海神の船』を隠すために来た私らをこの島に閉じ込めた、道化師のような化粧と衣装を着た者によるものだ」
……道化師のような化粧と衣装の者?
ピシャーン! と洞窟入口の方から雷が鳴ったような音が聞こえた。
天気が急変でもしたのだろうか。




