突然だったから仕方ない部分はある
少しの間待っていると、如何にもといったスケルトン二体が奥から現れ、ゾンビとスケルトンたちを従えるように前に出てきて、俺たちと対峙する。
一体は、ボロボロではあるが、それでも元々は煌びやかであったとわかる、船の船長服と言ってもおかしくない衣服を着ているスケルトン。
もう一体は、そんな船長服には劣るが、それで充分高価だったのが窺えるボロボロの衣服を着ているスケルトン。
ただ……そんな新たに現れた二体のスケルトン……の衣服は、どこかで見たことがあるような……。
「ほお~ん。本当に人間が居るね」
「夢か幻でも見ているのかと思いましたが、そうではなかったようで」
「しかも、海神の槍持ちとはね」
「そうですね。これも運命でしょうか」
「皮肉、ともとれるな」
声の感じから、船長服の方は女性で、もう一体は男性のようである。
ドレアは海神の槍だと見抜かれたことで緊張が走ったようで、身構えた。
そんなドレアを見て、船長スケルトンは不敵な笑みを浮かべたような雰囲気を醸し出す。
無のグラノさんたちと親密に接している分、スケルトンだと感情の察しがつくな。
船長スケルトンがドレアに声をかける。
「そう身構えなくていいよ、お嬢ちゃん。別にとって食いやしないよ」
「お嬢さんはやめてもらおうか。そんなに幼くはない」
「はっ! 私から見れば充分幼いよ。何しろ、詳しくは憶えていないというか数えていないが、私らはこう見えてそれなりの年月をこうしてここでいたからね。あんたたちよりも年上さ。まっ、そっちのと比べると、どうかわからないけどね」
船長スケルトンが指し示したのは、アブさん。
……まあ、具体的な年齢はわからないが、アブさんのダンジョンができてからとなると……かなりの年月が経っていると思う。
少し気になったので、当事者に聞いてみる。
「そこのところどうなんだ?」
「さてな。詳しい年月を問われても憶えていない。まあ、できてからとなると、数百年は経っているだろう」
「数百年……」
そうして、できてから俺に会うまで、アブさんは一人だったのか……人との接し方がわからなくなったというか、怖くなっても仕方ない。
「どうして今ので慈愛に満ちた眼差しを向けてくるのだ、アルムよ」
「……気にしないでくれ」
とりあえず、アブさんに対して、これまで以上に優しくなれそうな気がする。
「ああ、さすがにそこまで長くは生きていないな……と言いたいが、実際のところ、私らが今どれだけ長く生きているのか知らないというかわからないね。まっ、こんな状態の私らを生きている、と言っていいかどうか怪しいけれど」
俺とアブさんの話が聞こえていたのか、船長スケルトンがそう伝えてくる。
少なくとも、俺としては生きている、だな。
でなければ、それは無のグラノさんたちの否定にもなる。
「それに、漸く外から人が来たんだ。大歓迎さ。私らがここに囚われてから初めてだしね。だから、色々と教えてくれないかい?」
船長スケルトンから感じられる雰囲気が、真面目なモノへと変わる。
「とりあえず、まず教えて欲しいのは……こいつらの歓迎の芸はどうだった?」
「「「……ん? え? 歓迎の、芸?」」」
「ああ、特にやることがなかったんでな。いつか誰かが来た時のために、こいつらが歓迎のための芸を常日頃磨いていたんだ。漸くお披露目できて嬉しいね」
……なるほど。確かに、芸と言われれば芸だった。
まさか歓迎のための、とは思わなかったが……ただ、どうだったと問われると困るというか……。
俺、アブさん、ドレアは顔を見合わせ、どう答えるべきか悩む。
さすがに盗み見たようなモノについて何か言うのも違うというか……ただ、もう一度見るのもちょっと……中には既に使えない芸もあった訳だし。
こちらとしても困惑するが、それは相手側も同じなようで、ゾンビとスケルトンたちも「あっ、やべ」みたいな雰囲気だ。
船長スケルトンはそんな雰囲気を敏感に感じ取り――。
「ああん? まさかお前ら、披露してないなんて言うんじゃないだろうね? 私らの見た目がゾンビとスケルトンだから、芸を見せて敵意がないことを示さないとやられるって言って、練習していたのに」
ゾンビとスケルトンたちに詰め寄る。
すると、苦笑いを浮かべるゾンビが口を開く。
「い、いやあ、その、いきなりで緊張してしまいまして……あれですね、船長。こういう時、頭の中って本当に真っ白になるんですね」
『へへへへへ……』
「こいつら……私ら『青い空と海』がそんなことでどうするんだい!」
怒り始める船長スケルトン。
副船長スケルトンは、やれやれと肩をすくめる。
ただ、ドレアが反応した。
「……『青い空と海』。約百五十年前、ウィンヴィと共に悪逆の限りを尽くしたという海賊団」
そこで、俺の中でパアン! と何かが広がる。
風のウィンヴィさんの記憶が呼び起される。




