気付いた時に繰り返していたのが癖
「……とりあえず、アレだな。たくさん居るのはわかった」
アブさんとドレアが同意するように頷く。
ただ、俺も含めてどちらにも、数が多いことへの危機感のようなモノはなかった。
……いや、待てよ。
もしかすると、幻覚とかそういった類のモノかもしれない。
……疲れ、とか。
「もう一度確認してみるか」
俺の提案に反対意見は出なかった。
なので、もう一度扉を開けて、内部の様子を窺う。
少し高くなっている場所――そこにスケルトンとゾンビが向き合うように立っていた。
「性別とか関係ねえ! 好きなんだよ! 俺は、お前のことが何よりも大切なんだ! わかってくれよ!」
「駄目だ。駄目なんだ。これは性別とかの問題じゃない。俺はスケルトン。お前はゾンビ。種族が違う。お前は腐っていようとも肉体を持っているんだ。なら、肉体すら持っていないスケルトンではなく、腐っていようともきちんと肉体を持っているヤツのことを好きに」
「うるせえ! 種族とか肉体とか関係ねえんだよ! 俺は、お前が好きなんだ!」
ゾンビがスケルトンを無理矢理抱き締めた。
「……ああ、くそ。本当は……俺だって」
スケルトンは拒否することなく、回されたゾンビの腕にそっと触れ、そう呟いた。
それを見ているたくさんのゾンビとスケルトンは、拍手したり、泣いているようにも見え――バタン、と扉を閉じた。
「……いや、なんかまた様子が違って、劇か? ……いや、ええ~……」
振り返れば、ドレアは「くそっ。幸せになりやがれよ」と目を赤くしながらそう呟き、アブさんは両目を両手で覆い、涙腺が完全崩壊したかのような仕草だった。
え? こうなってくると、何も感じなかった俺が悪いみたいに見えるんだが。
不思議だ。
しかし、このままではいけない。
何が目的でここに来たかを思い出せ。
泣いている場合ではない。
アブさんとドレアが落ち着くまで少し時間はかかったが、もう一度――今度こそ、と扉を開けて様子を窺う。
少し高くなっている場所には、一体のゾンビが仰向けで寝ていた。
たくさんのゾンビとスケルトンが見守っているのは変わらない。
すると、寝ているゾンビの中からスケルトンが上半身を起こし――。
「転生」
と一言。
「てめえ! ふざけんじゃねえよ!」
「一回しかできないネタを練習で使ってんじゃねえよ!」
「ああ、もったいない! もったいない!」
見守っていたゾンビとスケルトンたちから怒号が飛ぶ。
物があれば投げていそうな雰囲気だ。
どうやら、ゾンビ→スケルトンは可能だが、スケルトン→ゾンビは無理なようである……いや、冷静に判断している場合ではなく――扉を閉める。
「『転生』という単語だけではインパクトが足りないな。そう思わないか?」
「うむ。某も同意見だ。『転生』という言葉を使うのであれば、せめてもう少し盛り上がることのできる前後の言葉、あるいは状況が必要であると思う」
こっちはこっちで、違った意味で冷静な判断だった。
いや、俺も同じ――そうではなく。
今度こそ、という気持ちを込めて、扉を開け――。
「あれ? 見慣れないスケルトンが……いや、人間が居る!」
突然、うしろから聞き慣れない声が聞こえてきた。
くっ。扉の先に意識を傾け過ぎていたようだ。
俺、アブさん、ドレアが揃って後方に視線を向ければ、そこにはボロボロの衣服を着たスケルトンが一体居る。
驚いている様子で、俺たちを順に指差し――。
「き、来た……来た来た来た来た! 遂に来たあ~!」
そう叫びながら俺たちの間を縫うように駆けて、開いた扉から中へと入っていく。
俺たちは顔を見合わせ――。
「………………し、しまった!」
突発過ぎて思考を放棄してしまった。
これも少し高くなっている場所でやっていたことの一環なのかと疑ってしまったのだ。
アブさんとドレアも同じだろう。
急いであとを追う。
中へと入ると先ほどのスケルトンが、ゾンビとスケルトンたちに声をかけていて、こちらを指差しているところだった。
ゾンビとスケルトンたちは半信半疑といった様子だったが、俺たちの姿を見ると驚いたような仕草を取る。
「お、おい! 本当に人だぞ! 見たことないスケルトンも本当に一緒だ!」
「遂に……遂に……」
「漸くこの時がきたのか」
大抵は喜び、中には泣くような仕草を見せる者も居る。
反応は様々だが、敵対心ようなモノは見えない。
というより、歓迎しているような雰囲気だ。
これは……どうしたものか。
一気に殲滅するつもりで魔力を巡らせていたが……どうにも気が抜ける。
それは俺だけではなく、アブさんとドレアはそうだ。
駆けていた足は自然と緩やかになって、ゾンビとスケルトンたちと対峙するようにとまる。
「えっと……敵、だよな? 魔物、で合っているか?」
思わずそう声をかけてしまった。
だって、相手は話せるし。
どうにも、俺は話せる魔物に対して弱気というか、ついつい声をかけてしまう癖ができてしまっているのかもしれない。
「敵?」
ゾンビの一体が首を傾げ、ああ、その可能性があったか、というようにポンと手を叩く。
他のゾンビとスケルトンたちも、そうか、そっちかもしれないのか、と口々に言い始める。
……しまった。余計なことに気付かせてしまったかもしれない。
どうする? どうする? と混乱し始めるゾンビとスケルトンたち。
今の内にどうにか……広域殲滅魔法でもいっとく? と考えた時、スケルトンの一体が動く。
「とりあえず、船長と副船長を呼んでくるわ。俺たちだと判断できん」
そう発言したゾンビが奥に向かって駆け出す。
別のゾンビがこちらに声をかけてきた。
「という訳なんで、もう少々待ってもらっていいっすか? 今、船長と副船長呼んできますんで」
え? それってこちらの確認が必要?
勝手に呼ぶもんじゃないの?
……でもまあ、今更戦うのもなんなので、待つことにした。




