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賢者巡礼  作者: ナハァト
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行動で慣れているかわかる

 辺境都市・フロテア。

 その名が示すように、フォーマンス王国の中心地である王都からは大きく外れた、それこそ国境付近にある都市。

 辺境だけに生息する数多くの魔物の素材によって作り出される物は、武具や道具に留まらず、食料や薬になって、豊富な恩恵を得ることができる。

 だからこそ、都市と呼ばれるまで発展し、直接治める貴族は「辺境伯」と特別な呼び名で呼ばれていた。

 とまあ、そこら辺のことを冒険者パーティ「新緑の大樹」の戦士――リューンに、辿り着くまでの話のタネとして聞く。

 王都に関しては、跡継ぎに連れられて幼い頃に何度か行ったことがあり、跡継ぎが騎士団に所属してからはボロ小屋に放り込まれていたが、ある程度知っているつもりだ。

 そして、いざ辿り着いてみれば、その王都にも負けないほどに発展した都市だった。

 魔物の襲撃を阻むために高く分厚い壁に囲まれ、御者をしていた老齢の執事が話を通すとすんなりと中に入ることができた。

 都市内部も二階建ての建物や大きな商店など、建築物も王都並に発展していたが、大きく違う点が一つある。

 王都に居る者たちは、「スキル至上主義」によって生活を無茶苦茶にされ、日々怯えてそれにも慣れて、どこか無気力感が漂っているのだが、ここ辺境都市に居る者たちは、誰しも笑顔と活気に溢れ、生命力が満ちているように感じられた。

 ダンジョンに行くまでに通ったところもそうだったが、フォーマンス王国の王都から離れれば離れるほどに、そういう傾向が強い。

 そんな風に様子を見ていると、馬車は辺境都市・フロテアの中で一番目立って、一番大きな建物の敷地内に入っていく。

 おや? それはつまり、ここを治める辺境伯の屋敷ということではないだろうか?

 ただ、ここは見知らぬ地。

 下手に動くと余計な問題になりかねないし、ここは大人しく流れに身を任せておこう。

 敷地内を進んだ先にあったのは、三階建ての大きな屋敷。

 前を走っていた馬車は屋敷の玄関前にとまるのだが、俺が乗っている方のこちらの馬車はそのまま素通りして、屋敷の横手に付ける。


「こっちだ」


 リューンの案内で、「新緑の大樹」と共にそこにあった勝手口から屋敷の中へ。

 埃一つなく、窓は反射するほどに綺麗に磨かれ、絨毯はふかふかだ。

 こういう屋敷は公爵家しか知らないが、遜色ないと言ってもいい。

 付いて行った先は、待合室のような部屋。

 大きな長机と挟むように置かれた数脚の椅子に、その横に置かれている大机には軽食を中心とした飲食物が置かれていた。


「ここまで来ればわかると思うが、俺らの依頼人は辺境伯だ。今は大事な話の最中だろうから、少しすればこっちに来る。その時、アルムのことを紹介するよ」


 リューンはそう言って、軽食と飲み物を適当に集め、どかりと椅子に座る。

 他の者たちも、同じように軽食に手を出したり、長机に上半身を投げ出して寝始めたり、壁際にある本棚から本を取り出して読み始めたりと、思い思いに過ごし始めた。

 なんというか、妙に手馴れているというか、何度も同じことをやってきたような自然な流れのように見える。


「いつもそうだが、今回は相手が相手だけに、ちょっと時間がかかるかもな。待ってりゃその内来るから、好きなように過ごしていてくれ。あっ、でも、この部屋から出るのはオススメしない。トイレくらいならいいが、迂闊にうろつくと迷って戻れなくなるくらい広いからな」


 手持ち無沙汰だった俺に、リューンがそう言ってくる。

 いや、貴族の屋敷で迂闊にうろついた場合、迷って戻れなくなる程度では済まないと思うが、辺境伯は寛大なのだろうか?

 とりあえず、「新緑の大樹」の面々はのんびり過ごしているので、俺もラビンさんにもらった本を読みながら、のんびりと待つことにした。


     ―――


 どれだけの時間が経ったかはわからないが、不意に部屋の扉が開かれる。

 入ってきたのは、金の短髪に髭がよく似合う野性味あふれる顔付きで、筋骨隆々の体格に貴族が着るような仕立てのいい服を無理矢理着込んだような男性だった。

 ただ、その表情は沈んでいるというか、覇気のようなモノが感じられない。


「おう。待たせたな」


 こちらを一瞥し、その男性はどかりと椅子に座って大きく息を吐く。

「新緑の大樹」の面々はその男性の下へ駆け寄った。


「どうだった?」



 リューンの問いに、男性は首を横に振る。

 何かが駄目だったようだが、その何かは……多分、屋敷の門前にとまった馬車と関係していそうだ。


「だが、ここまで連れてきたことには感謝している。正直、助かった。あのまま居ればどうなっていたか……お前たちに随分助けられたと感謝していたぞ。俺からも礼を言う」


「いいってことよ。俺たちは冒険者。依頼されて受けたことを成し遂げただけさ」


 笑みを浮かべ合う男性とリューン。

 とてもではないが初見とは思えない。

 これまで、何度もこういうやり取りをしてきた関係なのだろう。

 男性の視線が俺に向けられる。


「それで、そいつが?」


「ああ、ここに来るまでに助けられた、『通りすがりの凄腕魔法使い・アルム』さ」


 リューンが紹介するように俺を指し示す。

 男性は値踏みするように俺を見る。


「『通りすがりの凄腕魔法使い』だと………………おいおい。随分と心躍る言葉じゃないか」


 ニカッと笑みを浮かべる男性。

 仲良くできそうだ。


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