そうなる未来が見えた
船員たちからいつもの歓迎の言葉でからかわれつつ、青緑の海の船は拠点の港町から出発する。
ドレアが船首で海神の槍を進行方向に指し示し、俺が船の後方から風属性魔法を行使しているので、速度の面では間違いなく速い。
目的地までそれほど時間はかからないと思うが、アブさんが俺を盾としている位置に居るのが気にかかる。
色々学んで大丈夫になったのではなかっただろうか?
……それでも不安、なのはわかる。
勘って、そういうのを全部掻い潜る理不尽の権化だから。
特に今のドレアは爆速による気分高揚状態のため、危険だ。
アブさん。俺のうしろに居なさい。
そんなことを思いながらアブさんを守りつつ、数日後。
一つの島に辿り着く。
そこに港のようなモノはないが、桟橋はあるのでそこに船をつけた。
パッと見た感じ、人の気配はない。
「ここは無人島だ」
桟橋から島の様子を窺っていた俺に、ドレアがそう声をかけてくる。
船員たちは船に積んでいた荷を降ろし、桟橋の先にある浜辺近くに拠点のようなモノを築き始めていた。
「無人島? ここを探索するのか?」
空から見えた時、それほど大きな島とは思えなかった。
それに、何かあるようにも。
探索だけなら、それこそ時間はかからないだろう。
俺、必要か?
何か強力な存在が居るとかだろうか?
それとも、地下か?
「いや、目的はここではない。ここは、船員たちが待機する場所だ。実際の目的地には船では近付けないからな。だから、私とアルムが向かうのは、あっちだ」
「あっち?」
ドレアが指し示す方を見ると、ここから海を挟み、それなりの距離があるが、似たような島がある。
「あそこか? 船では近付けないってどういうことだ?」
「行ってみればわかる。先に見てくるといい。ああ、でも注意しろよ。下手に近付くと襲ってくるからな」
何が? と思うが、実際に行って見た方が早いと判断して、アブさんを伴って向かう。
………………。
………………。
正直言ってヤバい。
海の魔物が島の周囲でひしめき合っている。
波を起こしながらうねっている巨大な海蛇。別に魚。たくさんの触手をくねらせている貝類。他に魚。巨大な一本角と大牙に鋭利なヒレを持つ巨大魚といった感じのモノが一杯で隙間がない。
生半可なモノではその輪の中に入ることはできないと言わんばかりに、近寄るモノはなんでも捕食されていた。
中には人を容易に丸呑みできそうな大きさのサメも居たのだが、なんの脅威でもないと一噛みされて絶命し、そのまま捕食されていく。
これは……うん。駄目なヤツだ。
船で行こうとするなんて無理なヤツ。
近寄った瞬間に終わるな、これ。
ドレアが俺に協力を求めてくるのもわかる。
海路では、中の島に入ることはできない。
「あわわわわわ……」
共に来ていたアブさんが眼下の光景を指差しながら、カタカタと歯を鳴らしている。
ヤバい光景だとわかるようだ。
「怖い……が、アレを某のダンジョンの海階層で再現するというのはどうだろう?」
「やめておけ」
今ですら最下層に到達するのは無理なのに、より不可能になる。
ただ、だからこそ、というべきか、より安全になるのなら、とアブさんは少し未練があるように見えた。
なので――。
「というか、あれらが暴れると床が抜けて、そのまま最下層まで落ちてくると思うが?」
「不採用で」
アブさんもその危険性がわかってくれたようである。
少しばかり眺めたあと、居続けると攻撃されそうで怖いので、拠点となる島へと戻った。
戻ると、拠点構築の指示を出していたドレアが声をかけてくる。
「わかったか?」
「ああ、これ以上ないってほどにな。同時に色々と合点もいった。確かに、あれだと海路は無理だ。空から向かうのが確実なのもわかる」
その通りだと頷くドレア。
「それで、一応聞くが、話の流れで狙いが海神の船だということはわかる。本当にあそこにあるのか?」
「ある」
「その根拠は?」
「海神の船がなくなってから、どれだけの年月が経っていると思うんだ。他の島々はもう調べ尽くされていると言ってもいい。残っているのは、あそこだけだ」
なるほど。確かに、そういうことなら可能性は高い。
「向かうのは俺とドレアだけでいいのか? 船員たちはここで?」
実際にはアブさんが居るけど。
「島の中がどうなっているかわからないからな。まずは私とアルムだけだ。必要であればお願いするかもしれない。あとは、海神の船があった時に、動かすのに人が必要な場合もある。その時のためだな」
だったら、あの島でも……と思ったが、あっちで拠点を作ると周囲には海の巨大魔物の群れか。
大丈夫かもしれないが落ち着かないし、精神的に悪い。
納得したので、まずは拠点構築を手伝う。
簡単な造りであり、ある程度だが快適に過ごせるだけのモノ。
食料類も船に積んであるそうだが、そもそも目的の島はそれほど大きくないので、そう時間はかからないだろう。
終わり次第、ドレアを竜杖に乗せて、目的の島へと向かった。




