そういう意味があったのでは? と勘繰る時もある
聞ける話は聞けたので、直ぐにでも出発しようと思う。
ドレアをあんまり待たせ過ぎると怒られそうだし、何より王都・ポートアンカーに今のところ用件はない。
と思ったのだが、出ようとする前にオセアンさんから問われる。
「それで、どうされますか?」
「ん? どうされる、とは?」
「報酬の件です。私の方で依頼したことは達成されました。いえ、寧ろそれ以上の成果であったと言えます。なので、私としても報酬にはかなりの上乗せをしたいのですが、当初の報酬である女王陛下への橋渡しが不必要となりましたし、別の報酬を用意したいのです。ただ、恥ずかしい話ですが、どのような報酬にすればいいのか思い付かず……」
だから、俺に決めて欲しい、ということか。
……そう言われてもな。
別に要らない、というのが正直な感想だ。
いや、労働したのは間違いないし、その報酬なのだから。もらえるモノはもらいたい。
けれど、今のところ食うのには困らない金は持っているし、武具類に関しても竜杖とドラゴンローブで充分である。
……本当に特に………………あっ!
「そういうことなら、これから俺はドレアのところに行って何かはわからないが協力してくる。それが終わればまた戻って来るから、それまでに色々と魚介類を用意しておいてくれないか? 種類だけではなく数も。お土産にしたい。幸い、俺はマジックバッグ持ちだから、いくらでもかどうかはわからないが、大量に持ち運びできる」
ポンポン、とマジックバッグを叩きながら言う。
「わかりました。ご用意しておきます」
オセアンさんが頷き、笑みを浮かべる。
「ドレアさまのこと、くれぐれもよろしくお願い致します」
そう言ってきたのだが、何か別の意味も含まれていたような気がしたのは……きっと俺の気のせいに違いない。
港町の人たちとか、グラスさまとかに影響されていただけだろう。
うんうん。きっと、そうだ。そうに違いない。
詳しく聞くつもりはないので、さっさと出発することにした。
―――
王都・ポートアンカーを出て、アブさんの案内で「青緑の海」の拠点がある港町まで向かう。
今更ながら、ドレアを送ったのは船の方だし、港町に戻っているのだろうか?
まあ、戻っていなければ、待てばいいか。
あの港町で待つには勇気が居るが。
いや、それよりもアブさんに案内してもらった方がいいかもしれない。
……あっ、今聞けばいいのか。
「アブさん。船は港町にあるのか?」
「船? ああ、あの海賊のか。向かっている港町にあるぞ」
戻っているようだ。
二度手間……行き違いか。
それにならなくて良かった……というか、それがわかるアブさんがすごい。
「どうやったらそんなことがわかるんだ?」
「どう、と言われてもな。できる、としか言えない。まあ、さすがに見てもいないモノは無理だが、一度でも接触していれば、ある程度離れていても察知できる」
なるほど。よくわからん。
それだけアブさんの能力が高いということはわかった。
アブさんと談笑している間に、拠点の港町に辿り着く。
「では、某は緊急対応状態に移行する」
そう言って半透明になるが……なんかこれまでと違ってより薄くなっているように見えなくもない。
存在感がより希薄になったと言うか……。
ついでに、何かよくわからない構えのようなモノも取っている。
多分だけど、ドレアの勘による海神の槍の投擲を恐れているのだろう。
気持ちはわかるような……わからないような……。
まあ、色々学んだと言っていたし、学んだことを実践するのはいいことな……はず。
通じることを切に願いながら、拠点の港町に向かって下りていく。
そのまま港に下りると、近くに居た人たちから口々に声をかけられる。
「おかえり! 来るのを船長が心待ちにしていたよ!」
「どこに行ってたんだい? まさか、いきなり浮気なんてことはないだろうね?」
「あんま船長に寂しい思いをさせるんじゃねえぞ!」
うん。おかしい。
誰がどう考えても、きっとおかしい。
おかしなことを口にしているはずなのに、何故かこの港町の人たちは普通だ。
そこにドレアがやってくる。
「彼が帰って来たよ、船長!」
「逃がしちゃ駄目だよ、船長!」
「この機会にしっかりと捕まえておかないとね、船長!」
「だあああああ! うるせえ! 変なお世話を焼くな!」
ドレアがキレ気味でやってくる。
俺の時よりも港町の人たちの声には気持ちが入っているように感じた。
それだけ慕われているということだろう。
ドレアもそれがわかっているから、無下にできないのだ。
ただ、俺の前にやってくると息を吐く。
「はあ……アルム。戻って来たか。それで、用件は済んだのか?」
「ああ、終わった。そっちも色々やることがあると言っていたが、どうなんだ?」
「問題ない。もう終わっている。寧ろ、お前待ちだった。いつでもいけるが、どうする?」
「ドレアの方が構わないなら、こっちも問題ない」
「なら、早速出発するぞ!」
ドレアからやる気を感じる。
これから行うことに、それだけの意気込みがあるということか。
ただ、それとは別に、いきなりアブさんに向けて投擲するようなことがなくて、内心でホッとする。
チラリと見れば、アブさんもホッとしていた。
いや、そうやって気を抜いた瞬間が危ないから、気を付けて。
そう思いながらドレアのあとを付いていき、「青緑の海」の船に乗って出発した。




