安心しきるって難しい
海洋国・シートピアに再び向かう。
俺の隣には、当然のようにアブさんが居る。
「ここ数日、魔法の練習ばかりで気にかけられなかったけど、アブさんはどう過ごしていたんだ?」
「某か? グラノ殿から色々と学んでいた」
無のグラノさんから?
「色々って?」
「うむ。主に気配遮断についてな。相談してみたところ、グラノ殿は某以上の博識で、同じような身体の持ち主だから、様々な術を心得ているのだ。おかげで、もう大丈夫だ!」
グッと親指を立てて見せるアブさん。
ドレアに勘で襲われたことが、まさかここまで引きずるとは……。
でも、ドレアにはアブさんのことを話すことになる。
ラビンさんのダンジョンまで来るだろうから、というのもあるが、合流してからどこに向かうかわからないが、そこがどこでどのようなところであれ、アブさんが居てくれた方が心強いのは間違いない。
なので、結局話すことになる。
一度話して、アブさんの存在を見せれば、もうドレアがアブさんを勘で襲うことはない……と思う。
思うとしか言えない辺りが、ドレアらしいと言えばらしいが。
間違えて海神の槍を投げる、というのがあるかもしれない。
……そう考えると、アブさんの気配遮断が強まるのは悪いことではないな。
何より、今後のことも考えて、アブさんの存在がバレないこともそうだが、安全のためには必要なことだと思う。
―――
王都・ポートアンカーには向かわず、青緑の海の拠点がある港町の方に直接向かう。
王都・ポートアンカーの方は、多分まだ落ち着いていないだろうというのもあるが、正直言ってあそこに用はあまりない。
女王であるグラスさまには会うことができたし、風のウィンヴィさんのことに関してはドレアから聞けばいい。
だから用は……あっ。ハーフェーン商会。
そういえば、協力の見返りに王族との仲介を頼んでいたな。
今となっては不要になってしまったが……さすがにそのままにする訳にはいかないか。
仕方ない、と王都・ポートアンカーに向かうことにする。
特に寄り道もせず、これといったことも起きなかったので、それほど時間がかからずに辿り着く。
空から見た限りだと……一応の落ち着きは見えた。
とりあえず、緊急時でもないし、そのまま空から入るのは違法と言われる可能性が高いというか、まずそうなるので、大人しく王都・ポートアンカーの門から中に入る。
内部は落ち着きを取り戻し、日常が戻っているようだった。
ハーフェーン商会に向かい、オセアンさんと会えるかどうか従業員に聞いてみる。
駄目だったら駄目で別に構わない。
言伝くらいは頼んでも大丈夫だろう、と思っていたのだが、すんなりと会うことができた。
「此度は、女王陛下をお救いくださり、誠にありがとうございます。まさか、『ドゥラーク海賊団』の狙いが女王陛下のお命とは……それに気付かなかったのはお恥ずかしい。私も耄碌したものです」
以前と同じ部屋に案内され、オセアンさんに会うとそう言ってきた。
随分と落ち込んでいるようである。
「別にそういうことではないのでは? そもそも、誰も気付いていなかった、というのもあるが、いくら近海最大勢力といっても、まさか王城にまで侵入を許すとは、普通誰も思わないだろうし」
そう考えると、少し不思議だ。
確かに、戦力の大半は海に出ていた。
残った戦力が少ないのは確かだが、だからといってまったくないという訳ではない。
「ドゥラーク海賊団」の方も、数という意味では大半は陽動に回していた訳だから……いくらなんでも侵入速度が速過ぎないだろうか?
まあ、確かに大幹部以上は強か……癖は強かったが、だからといって、あんな一気に侵入できるとは思えない。
となると……協力者が居たのか?
飛躍し過ぎかもしれないが、居ないと断定するより前に調べた方がいい気がする。
居る、と判明してからでは遅いかもしれないし……と考えていると、オセアンさんが頷く。
「今、アルム殿が何を考えているのかわかります。女王陛下としても同じ考えに至っていますので、今裏切り者が居なかったか調査しています」
行動が速い――いや、グラスさまなら納得だな。
「それで、本日ここに来られたのは、報酬の件ですか? 既に自力で女王陛下とお会いになって、懇意になっているようですので何か別の」
「ああ、それがあったな。まあ、それはあとで。今は海の方の戦闘についても、どうなったのかわかれば聞きたいんだが?」
「わかりました。では、私のわかる範囲でしたらお教えします」
という訳で教えてもらった。
まず、王都と王城の方はもう落ち着きを取り戻しているが、綿密な調査はまだ継続中で、今のところ隠れ潜んでいる海賊は見つかっていない。
見つかるか、居ないと判断されるのはもう少しあとになる。
海の方での戦闘も既に決着はついているそうだ。
元々戦力として数も質も圧倒しているのだから、当然と言える。
ただ、まだ調査から戻って来てはいない。
報告のために一部が戻って来ただけで、大半は「ドゥラーク海賊団」壊滅による後処理で残っている。
その中には、食料狙いで襲われていた島々も入っていた。
わかっている範囲ではそこまで被害を受けていないそうだ。
多分、青緑の海のおかげだな。
あとわかっていることは、近海最大勢力である「ドゥラーク海賊団」がなくなったことで、海に平和が訪れたということ。
まあ、他にも海賊は居るし、その内新たに現れるだろうから完全ではないし、一時のことではあるが。
とりあえず、「ドゥラーク海賊団」に関してはもう終わりと思ってもいいかもしれない。




