回避しようとしてもできない場合もある
受け継いだ水属性魔法を練習するため、ラビンさんのダンジョンで数日過ごす。
相変わらずというべきか、最初は失敗ばかりというか、魔力が過剰に注がれて威力がおかしいことになる。
普通はそれで倒壊が起こるのだが、ラビンさんのダンジョンの最下層――ボス部屋は特に頑丈に作られているようで、ビクともしない。
ラビンさん曰く、これくらい頑丈でないとカーくんの力に耐えられないそうだ。
つまり、それだけカーくんが強いということ。
「我が強いのは当たり前だ! 何しろ、強い筋肉を育てているからな!」
むん! と筋肉美を取るカーくん。
さすがカーくん――と言いたいが、素直にそう口から出せないのは何故だろう。
そこは竜種だから、と答えない辺りがカーくんらしいと言えばらしいが。
とりあえず、存分に練習できるのはありがたい。
水属性魔法だけではなく、他の属性魔法もさらに使えるようにと練習しておく。
―――
その中で思い出した。別のお土産があったこと。
それはソイソース。
巨大なタコとイカの足の衝撃が強過ぎて忘れていたのである。
マジックバッグから出してラビンさんに渡すと、やっぱりというか知っていた。
「本当に、ラビンさんに知らないことはないのでは?」
「いやいや、ボクが知らないことだってあるさ。これに関しては、ここの国の王さまから教えられていただけだよ。王さまが新しい何かを見つけてはボクに教えてくれているだけさ」
サラッと王さまとの繋がりを言う。
けれど、それはわかっていたこと。
最初に、困った時は――と紙に書いてあったし。
ただ、その王さまとも一度会っておいた方がいいかもしれない、とは思った。
王さまだから、協力して欲しいことがあるから、とかではなくて、共にラビンさんの友人として……あれ? 友人だよな?
「うんうん。友達だよ。アルムくんのことも教えているから、会おうと思えば直ぐ会えると思うよ」
手回しが早い。
まあ、いずれ、機会を見て――だな。
ちなみに、ソイソースは母さんとリノファも喜んでくれて、もっと買い付けてきて欲しいとお願いされた。
それは女性陣からも。
新作料理に使いたいそうだ。
男性陣は神へ祈るように俺を見ている。
………………。
………………。
「いや、その、元々輸入品で、そんなに数がある訳ではなく、これも分けてもらったモノで、数を揃えるのは……少なくとも料理に使えるだけの量は難しいかと……」
喜びを露わにする男性陣。
それならば仕方ないと諦める女性陣――ではなかった。
俺が無理だとわかると同時にラビンさんに突撃して圧をかけ始める。
けれど、ラビンさんだって女性陣の料理の被害……経験者。
頷くことは……無理だった。
ラビンさんが折れたようだ。
太刀打ちできないと、崩れ落ちる。
その横で喜ぶ女性陣との対比がなんとも言えない。
ついでに、男性陣の方も崩れ落ちていて、無情さを呪っていた。
……いや、火のヒストさん、風のウィンヴィさん。記憶があるからわかるけど、今の姿になった時ですら、そこまで明確に無情さを表してなかったというのに。
まあ、料理に関してはそこまでのこと……というのも、経験者である俺は理解できるのだが。
―――
この数日中に、海洋国・シートピアでのことを風のウィンヴィさんに話した。
「あはは。やっぱり僕のことは悪く伝わっているのか。まあ、そうなっているだろうな、とは思っていたけどね」
わかってはいても……と少し寂しげに見えたのは、きっと気のせいではないと思う。
「でも、そうか……ソフィーリアの子孫が……アルムくんから見てどうなの? ソフィーリアに似ている?」
「そうだな。性格は違うが、それでも信念みたいな部分が自分の中に真っ直ぐ立っているのは似ていると思う。あと、見た目もどこか思い起こされるように感じる部分はあった」
「そっかあ」
「それで、どうする? ウィンヴィさんが会いたいっていうのなら、ここに連れて来るが? 竜杖の速度であれば、そう時間はかからないだろうし。ただ、ここのことは話す約束はしているけれど、来るかどうかはまだ聞いていない。先にこっちの方からかな、と」
何しろ、そこに居るとわかっていても、それで来れるような場所ではないのがここだ。
ラビンさんの隠れ家の方も同様に。
まあ、確かに聞いてはいないけど、ドレアのことだから、聞けば行くと即答しそうだ。
「そっか。まあ、そうだね。う~ん……まあ、会ってはみたいかな。ソフィーリアのその後とか聞いてみたいし。ラビンにお願いしてみるよ」
という訳で早速お願いしてみると、風のウィンヴィさんが会いたいのなら連れて来ても構わないという許可をいただいた。
「いやあ、また賑やかにやりそうだね。あっ、連れて来る頃までにはまた魔法陣をいじっておくから、そのまま来て大丈夫だからね」
ありがとう、と思うが、まだドレアが来るかどうか決まっていない。
もしかしたら――ということも考えられるのだ。
まあ、来るだろうけど。
そうして、数日間過ごしたあと、再度海洋国・シートピアに向けて出発した。




